1 / 3
一
しおりを挟む
闇の中で、生きてきた。
光は遥かに遠く、越えられない境の先から時折、拒むようにこの身を刺し、責め苛む。
存在を否定し、灼き尽くそうとする。
だから、闇の中でしか、生きられない。
でも、闇は優しい。
静かに寄り添い、癒しと眠りをくれる。
いつも、いつも。
優しい闇の片隅で、息を潜めて、生きてきた。
けれど今日は、どうにも騒がしい。
悲鳴が聞こえる。
何かが壊れる、音もする。
それから大きな、怒鳴り声。
それらはやがて、こちらへ向かって進んでくる。
強ばる身体を縮めて、息を殺す。
そして、祈る。
どうか、この小さく優しい世界が壊されませんように。
だけど、その祈りは届かない。
運命というものは、光を愛し、闇を憎むものらしい。
けたたましい音と共に、闇が、光に引き裂かれる。
「鬼子ってのは、これかぁ?」
光に目を焼かれ蹲る僕の腕を、大きな手が鷲掴む。
「おら、立てよ」
無理やり腕を引き上げられ、立たされる。
光が、目を刺す。
痛い。
痛い。
痛い……!
目を押さえた指の間から、生暖かい雫が溢れていく。
引き摺られるように、光の中に連れ出されれば、やいやいと騒ぎ立てる野太い声に、囲まれた。
「へぇ、これが鬼子」
「真っ白だなぁ」
「こりゃたしかに鬼だ!」
俯き、震えるしかできない。
「お前らぁ! ずらかるぞ!」
頭目らしき男の声が響く。
応! と応える声と共に袋を被せられ、担ぎ上げられる。
「お待ちなさい! 鬼子を代わりに差し出せば女は盗らないと言ったではありませんか! 約束が違います!」
甲高い声が一行を呼び止める。
それはしかし、ゲラゲラと下品な笑い声に遮られてしまう。
「だから女一人、見逃してやったじゃねぇかよぉ」
「……え?」
「だぁかぁらぁ、鬼子一人の代わりに女一人、勘弁してやっただろうが。まさか、たった鬼子一人で女全部見逃してやれるわけないだろぉ?」
「そんな……」
愕然とした声は、そのまま口を噤む。
「んじゃ、行くぞ!」
「……っ! 待って! 娘を、娘を返して……!」
「やだね! 諦めるこった!」
すすり泣きを後に、何処かを目指して進み始める一行。
どこに行くかなんて、僕にはわからない。
ぐらりぐらりと不安定に揺られる中、心の内は諦観で満たされる。
今だけではない。
ずっと、ずっと。
初めから、諦めを抱えて生きてきた。
鬼子。
人の世に誤って生まれてしまった鬼。
老人のような白い髪に、異常なほど白い肌。
目ばかりが血の色のよう。
人と同じ形をしているものの、凡そ人とは似ても似つかない色を持って生まれた、人ではないモノ。
それが、僕。
人ではないモノに、居場所なんてない。
光の下で生きられないモノに、安らぎなんて訪れない。
ずっと、そう思っていた。
光は遥かに遠く、越えられない境の先から時折、拒むようにこの身を刺し、責め苛む。
存在を否定し、灼き尽くそうとする。
だから、闇の中でしか、生きられない。
でも、闇は優しい。
静かに寄り添い、癒しと眠りをくれる。
いつも、いつも。
優しい闇の片隅で、息を潜めて、生きてきた。
けれど今日は、どうにも騒がしい。
悲鳴が聞こえる。
何かが壊れる、音もする。
それから大きな、怒鳴り声。
それらはやがて、こちらへ向かって進んでくる。
強ばる身体を縮めて、息を殺す。
そして、祈る。
どうか、この小さく優しい世界が壊されませんように。
だけど、その祈りは届かない。
運命というものは、光を愛し、闇を憎むものらしい。
けたたましい音と共に、闇が、光に引き裂かれる。
「鬼子ってのは、これかぁ?」
光に目を焼かれ蹲る僕の腕を、大きな手が鷲掴む。
「おら、立てよ」
無理やり腕を引き上げられ、立たされる。
光が、目を刺す。
痛い。
痛い。
痛い……!
目を押さえた指の間から、生暖かい雫が溢れていく。
引き摺られるように、光の中に連れ出されれば、やいやいと騒ぎ立てる野太い声に、囲まれた。
「へぇ、これが鬼子」
「真っ白だなぁ」
「こりゃたしかに鬼だ!」
俯き、震えるしかできない。
「お前らぁ! ずらかるぞ!」
頭目らしき男の声が響く。
応! と応える声と共に袋を被せられ、担ぎ上げられる。
「お待ちなさい! 鬼子を代わりに差し出せば女は盗らないと言ったではありませんか! 約束が違います!」
甲高い声が一行を呼び止める。
それはしかし、ゲラゲラと下品な笑い声に遮られてしまう。
「だから女一人、見逃してやったじゃねぇかよぉ」
「……え?」
「だぁかぁらぁ、鬼子一人の代わりに女一人、勘弁してやっただろうが。まさか、たった鬼子一人で女全部見逃してやれるわけないだろぉ?」
「そんな……」
愕然とした声は、そのまま口を噤む。
「んじゃ、行くぞ!」
「……っ! 待って! 娘を、娘を返して……!」
「やだね! 諦めるこった!」
すすり泣きを後に、何処かを目指して進み始める一行。
どこに行くかなんて、僕にはわからない。
ぐらりぐらりと不安定に揺られる中、心の内は諦観で満たされる。
今だけではない。
ずっと、ずっと。
初めから、諦めを抱えて生きてきた。
鬼子。
人の世に誤って生まれてしまった鬼。
老人のような白い髪に、異常なほど白い肌。
目ばかりが血の色のよう。
人と同じ形をしているものの、凡そ人とは似ても似つかない色を持って生まれた、人ではないモノ。
それが、僕。
人ではないモノに、居場所なんてない。
光の下で生きられないモノに、安らぎなんて訪れない。
ずっと、そう思っていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
【完結済】王子を嵌めて国中に醜聞晒してやったので殺されると思ってたら溺愛された。
うらひと
BL
学園内で依頼をこなしていた魔術師のクリスは大物の公爵の娘からの依頼が入る……依頼内容は婚約者である王子からの婚約破棄!!
高い報酬に目が眩んで依頼を受けてしまうが……18Rには※がついています。
ムーン様にも投稿してます。
お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。
挿絵をchat gptに作成してもらいました(*'▽'*)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる