鬼と冬椿、あるいは雪融け

隼人 薙

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 揺られて、揺られて、一体どれ程経っただろう。
 不意に、どこかへと乱雑に置かれた。
 やがて袋の外からは、パチパチと何かがぜる音が聞こえ出す。

「女どもに飯、食わせろよ。せっかく頂いてきたんだ、死なれちゃ困る」
「お頭、あの白いのには飯とかやらなくていいんですかい?」
「あぁ? あれは鬼なんだろ? 飯なんかやらなくったってそうそうくたばりやしねぇよ」
「それもそっすね」
「それともお前、あれに自分の腕でも食わせるか? 鬼ってのは、人の肉を食らうって言うからな」
「ええ!? 絶対嫌っすよぉ!」

 笑い声がどっと響き、ヤジが飛ぶ。
 静寂に慣れた耳に、大きな声がわんわんとこだまする。
 身体を小さく丸め、手で耳をふさぐ。

 たしかに、僕は鬼子だけれど。
 でも、人なんて食べない。
 食べたいとも、思わない。

「しっかし、さすがお貴族さまだぜ。食いもんもお宝もたっぷりだ」
「これをただふんぞり返って受け取るだけだなんて、お山の鬼様たちはお気楽なもんでさぁね」
「全くだ。だがまぁ、そのお山に置いてもらってんだ、仕方のねぇこった」

 騒がしい声は止まない。
 耳を塞いでも突き抜けてくる。
 その中に、気になる言葉が聞こえた。
 
 山の、鬼。
 どくどくと鼓動が速まる。
 自分以外の鬼。
 人々から鬼として認識されている、本物の鬼。

 会ってみたい。
 でも、怖い。
 その鬼はきっと、力も強くて、不思議な力を持っていて、人とは違う姿形をしているのだろう。
 対して僕は所詮、やせ細っていて何の力もない、ただの鬼子だから。
 それに、これからどこへ行くのか、僕がどうなるのかすらわからない。
 ……僕の望みが、叶ったこともない。

 会ってみたいという希望が、あっという間にしぼんでいく。
 ……これでいい。
 希望なんて持ったって仕方ない。
 結局どうやったって叶わなくて、傷つくだけだから。

 ぎゅっと身体を丸めて、周囲の喧騒から遠ざかるために意識を深く沈めた。
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