実話怪談集『境界』

烏目浩輔

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勘違い

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 これは十代後半の女性、西山さんのだんである。

 西山さんは高校を卒業してからある専門学校に通っていた。遠方にある学校には実家から通えず、ゆえに学校の施設である女子専用寮に入っている。小規模な専門学校であるため、生徒数はそこまで多くなく、寮の定員は三十五名だった。

 三階建ての寮はすべてひとり部屋であり、一階には共有スペースが設けられていた。寮生が自由に利用できる広間だ。六人がけのテーブルが四脚並び、小さいながらテレビが壁づけされていた。

 その共有スペースでは寮生がよく勘違いするらしい。

 共有スペースには給茶機が設置されており、寮生は自由にお茶を飲むことができる。西山さんの友人のひとりにOさんという寮生がいる。Oさんは六人ぶんのお茶をお盆に乗せて、テーブルまで運んでいった。自分と友達のぶんのお茶だ。しかし、テーブルにお茶を並べはじめてからOさんは気づいたのだという。テーブルに座っているのは、Oさんを含めて五人だった。
 ひとりぶん多くお茶を用意していた。

 また、西山さんにはMさんという友人もいた。Mさんは実家に帰省したさいに、ゼリーの詰め合わせをもらってきた。友達と一緒に食べようとみなを共有スペースに誘い、テーブルに五つのゼリーを順番に置いていった。しかし、そのテーブルを囲んでいたのは、Mさんを含めて四人だった。

 このように人数を勘違いする寮生が、ほかにもちょくちょくいた。Sさんという友達は五人の友達に対して、ババ抜きのトランプを六つに切りわけた。Yさんという友達は三人ぶんでいいというのに、四人ぶんの飴玉をテーブルに並べてしまった。

 寮生が人数を勘違いするさいは、必ずひとりぶん多いと勘違いした。実際の人数より少なく勘違いすることはなく、ふたり多いというような勘違いも起きない。必ずひとりぶん多いと勘違するのである。
 人数を勘違いした寮生は、みなこのように言うのだった。
 もうひとりいるような気がした。

 また、西山さんも人数を勘違いしたことがった。

 共有スペースのテーブルで四人の友達と雑談で盛りあがっていた。西山さんはある話題が盛りあがったさいに、隣に座っている友達に同意を求めた。
「ねえ、そう思うでしょう?」
 だが、そこには誰も座っていなかった。
 そこにもうひとりいるような気がしたのだが、最初から隣の席には誰も座っていなかった。

     了

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