ヘイそこのいっぺん死んだ彼女! 俺と一緒にドラゴン狩らない?

尾形モモ

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 ――風を切る音が、殊更大きく聞こえた気がした。



 ミシェルの放った矢は正確に、真っ直ぐに熊の脳天を打ち抜き即座にその命を奪う。巨体が地へと倒れこむ振動に、気の抜けたレイチェルは尻餅をついた。

 動く的を狙うのは、止まったそれの数倍難しい。少なくともミシェルの矢の腕は、ミシェルにあるという「アルテミスの加護」は紛れもなく本物だ――そう思ったレイチェルがミシェルに目を向ければ、ミシェルもまた「信じられない」と言いたげに目を見開いている。

「あんな大きな獲物が、たった一本の矢で……」

 呆然としたようにそう口にすると、ミシェルがレイチェルの方に向き直る。

「すごい! 君の『ヘパイストスの加護』は本物だ! 僕、こんな大物を一撃で仕留めたのは初めてだよ! やった! やったぁ!!!」

 無邪気な子どものようにはしゃぐミシェルは、レイチェルに手を差し伸べる。立ち上がれないでいるレイチェルに、手を貸すつもりのようだ。レイチェルがそれに応えミシェルの手を掴めば、それは力強く引き上げられる。

 まだ状況の飲み込めていないレイチェルの表情を見て、ミシェルは大はしゃぎした自分を恥じるかのように口を開く。

「認めるよ。君の、『ヘパイストスの加護』は本物だ。普通ならこんな大物、何回も矢で撃って少しずつ弱らせながら仕留めるものだ。それをたった一回、頭に当てただけで簡単に倒すなんて『加護』の力なしじゃありえない。……フェスタ―王子に感謝だな」

 そのままミシェルは、照れ臭そうに続ける。

「とりあえず、この熊は解体して肉にするなり革にするなりするけれどまずはフェスタ―王子に報告だ……君の、レイチェルの『ヘパイストスの加護』は紛れもなく本物だ、すごい加護だって。きっとドラゴン相手にもすごい力を発揮するって。だから、その……これからよろしく、レイチェル」

 頬を染め、チラチラとレイチェルの様子を窺いながらそう語るミシェル。そこでレイチェルはようやく、自分が褒められたのだと気がつく。



 ――正直なところ、レイチェルはまだ実感が湧かなかった。



「……そう……でも、すごいのはあなたの方よ。あの熊を相手に一切躊躇わず、正確に矢で頭を狙うなんて……」

 ミシェルも「アルテミスの加護」を持っているとはいえ、熊を前に冷静に対処し弓を射たことは間違いないのだ。驚き腰を抜かしてしまったレイチェルにとってはそんなミシェルがよほどすごいし、自分が何かできたとは思っていない。



 だが――ミシェルが自分に感謝を向けてくれることだけは純粋に、嬉しかった。



「本当にすごいわ。だから、私も……これからもよろしく、ミシェル」

 はにかんだレイチェルの笑顔は、確かに明るかった。
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