聖女適正ゼロの修道女は邪竜素材で大儲け~特殊スキルを利用して香水屋さんを始めてみました~

だるま 

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店舗準備

店舗準備①

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 夏が終わるまでの間に、ステラの身の回りの状況は大きく変化した。
 まず面倒な環俗手続きを完了させ、一般人になったステラには、本物の家族が出来た。
 しかしそれは、フラーゼ家の一員になったからではない。ジョシュアの策略により、ステラは何故かポピーの生家であるネイック伯爵家の養女になったのである。ポピーの兄の娘になったため、ジョシュアとはいとこの間柄になったわけだ。

 見ず知らずの貴族と養子縁組され正直不快だったのだが、家族が出来た以上彼等と親睦を図りたいところ。その想いをジョシュアに訴えたのに、養女になってから二ヶ月経っても住む場所はフラーゼ家のまま。

 ジョシュアの従者から聞いた話によると、彼はは戸籍上で家族になりたくないくせに、家族ゴッコはしたいらしい。
 それだけでも意味不明なのに修道院での一件以降、彼の機嫌はずっと悪く、ステラを避け続けた。
 二週間もの間、相変わらずプレゼントを贈ってくれるが、会話は皆無。腹を立てるなという方が無理がある。

 最近またベタベタしてくるようになったが、完全拒否の構えだ。

 その決意を本人に宣告すると、抱きつかれて泣かれてしまった。
 いわく、『本当の家族になる為には、今は別の家に預けるしかない』なんだとか。
 何を言っているのかよく分からなかった。
 もしかして思考回路が変なんだろうかと、可哀想に思うが、機嫌を取る気なんかさらさらない。必要最低限関わって、後は放置してしまおうと考えている。

 それと、ネイック家に住んでいけないなら、王都内に自分の家を持ちたい。
 資金を貯め、好みの家に引っ越す!
 目標が決まるとヤル気がみなぎるというもの。
 香水の販売に一層身が入る。

 環俗手続きのために、聖ヴェロニカ修道院と何度か往復したりしながらも、六月初旬から八月末までの間に実に四十本もの香水を売り上げた。
 更に夏の間に、夏に咲く草花等からエッセンシャルオイルを採取したくなり、あれやこれやと作業詰めの日々だ。

 ここ二週間ほどの作業内容はこうだ。
 まず王都の雑貨屋から入手したレモングラスと、バニラビーンズを売ってくれたエルフ族の行商人から入手したイランイランをいつもの方法でオイルを採取した。
 更に同じ行商人が、わざわざフラーゼ家まで来てクチナシという高級な植物を紹介してくれたのだが、そこからが困難の始まりだった。
 ステラはすっかりその花に魅了されてしまい、香料をコレクションに加えたくなった。
 だけど、クチナシから香料を採取するのは想像以上に難しかったのだ。

 花から直接オイルを入手する方法も、アルコールに成分を移す方法もうまくいかず、悩みに悩んだ末に、フラーゼ家が保有する書物を漁った。探り当てた古来の方法では、一度花の香りを油に移してから、アルコールに溶かし込むのだそうで、やはり随分手間がかかるようなのだった。

 しかし、そこで諦めるステラではない。
 行商人からクチナシの種を入手し、それをポピーに紹介してもらった植物成長スキルの保持者にどんどん育てさせた。
 新鮮な花で実験を重ね、書物に記載された方法を自分のスキルで再現したのである。
 何十回も失敗した後に、完成したクチナシの香りの溶液は、文句なしに良いものだった。

 そして今、ジャスミンの香料を同じ方法で採取している。
 憎きジョシュアから貰ったジャスミンの生花の香りは、やはりドライフラワーよりも鮮烈に香り、新鮮な物からも香料を入手したくなったのだ。
 ジャスミンの生花をある程度の量入手するのは容易ではなく、クチナシの時にも協力してくれたカイル・リーに力を借りて、種から育て、花を得る事にした。
 
 スキルを利用してラードにジャスミンの香りを移し、それを複製し、フラスコの中にボタボタと落とす。
 続いて加えたのは無水エタノール。変な香りがない方が、ジャスミン本来の香りが際立つだろう。
 その二種に融合スキルを使用すると、フラスコの中はあっという間に混濁する。

 黙って様子を観察していたカイルは、ステラの仕事に感心したのか、拍手してくれる。

「貴女にかかると、古来からの面倒な手法もあっという間に終わってしまうのだな」

 茶髪に青い瞳の精悍な青年は、商売慣れしているようで、顧客を煽てるのが上手い。

「たった一回で終わったからと言って、ガッカリしないでくださいっ!」

「ガッカリ? 気のせいだ」

 ステラが彼に嫌味を言うのには理由がある。たしかに彼は頼み事に嫌な顔一つしない。
 ただし、大金を払えば……だ。
 ブルブルしながら、本日のお代を問いかける。

「……今日は幾らになるんです?」

「そうだな……。面倒なジャスミンを五十株分だったから、本来であれば金貨二百枚。でも他ならぬ君の頼み事だし、百五十枚にまけよう」

「ひゃっ……百五十!?」

 まけてくれても、余裕で高い。
 最近お金の勉強もやっているのだが、これくらいお金があるなら、十頭分の豚肉が手に入るはずだ。

(で、でもこの前はクチナシで金貨三百枚分要求されたし、半額! 安いっちゃ安い? いや、でもクチナシの場合、生花を1キロ分やってもらったし……、うーん、分かんなくなってきた!)

 ポピーの知人なのだからと、必死にカイルを信じようと試みるものの、なかなか難しい。
 後で請求書を送ると言って立ち去る彼を、ぐったりしながら見送り、一つため息をつく。

(ちゃんと考えて使わないと、店舗の内装分のお金も、お家の為のお金も無くなっちゃう)

 いきなり大金を入手すると危うくなると、ウィローに忠告されたばかりなのに、大盤振舞いしてしまう自分が情けない。
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