上 下
49 / 156
レアネー市救出作戦

レアネー市救出作戦③

しおりを挟む
 休憩を挟みながら、約七時間程走ったキャンプカーは、レアネー市の城壁をかなり遠くに臨む位置で停車した。
 マリはジャガイモを剥く手を一度止める。カリフォルニアロールを100人分程作り終え、自分達の夕食の下ごしらえをしていたのだが、状況が気になるので、公爵と話すために運転席へ向かう。

「公爵。使い魔は帰って来た?」

 出発前に公爵は彼の従者と連絡する為、白い文鳥の使い魔を飛ばしていた。昼の休憩の時には、使い魔を介した連絡事項は無かった様だが、今はどうなっているのか。

「使い魔のピーちゃんには三往復してもらったよ。もうすぐチェスター君がこのキャンプカーまで来てくれるはずだ」

「そうなんだ。じゃあ、キャンプカーを下りて出迎えよう」

「それがいい。この大型の乗り物は、こちらの世界の者達に強烈なインパクトを与えるから、チェスター君は剣で切り掛かってしまうかもしれないし」

 公爵の軽口に笑い、二人でキャンプカーの出口に向かう。

「俺たちはここで待機していた方がいいか?」

 マリ達の様子を気にしたのか、カウンターの近くに居るエイブラッドが声をかけてきた。状況を説明しておかないと、宙ぶらりんな感覚にさせるかもしれないので、ちゃんと話した方がいいだろう。

「公爵の従者がこのキャンプカーに来てくれるみたい。その人から街とかの状況を聞いてから、動く予定なの。私と公爵は彼の出迎えに行くだけだよ。エイブラッドさん。悪いけど皆に説明してくれない?」

「分かった。車外の者達には、貴女から伝えてくれるか?」

「了解だよ」

 さり気なく頼み事をするつもりが、相手も抜け目が無かった。なんだかな~、と肩を竦めてしまうけど、そのくらいの用事なら軽いもんだ。

 キャンプカーを下りて、連結された三つの客車に状況を伝えていると、東の方から一頭の馬が駆けて来るのが見えた。

「チェスター君だ。あの様子だと、すっかり身体の方はいいみたいだね」

 側にいた公爵が嬉しそうに片手を上げた。
 馬上の男も、公爵の姿に気が付いた様で、ブンブンと手を振り回している。

「公爵ー!! 連絡通り、ご無事の様ですね!」

「出発前より元気になったくらいだよ! 君もすっかり良くなったみたいで何よりだ」

「治してくれた術者に感謝です! あ、マリ・ストロベリーフィールド嬢。公爵の面倒をみてくださったみたいですね。何とお礼を言っていいか!」

 公爵の従者チェスターはマリの存在に気がついた様で、慌ててペコリと頭を下げた。相変わらずの好青年っぷりに、若干居心地が悪い。

「別に。公爵は長時間キャンプカーを運転してくれたから助かったし……。私はご飯を用意してただけだよ」

「あぁ! 使い魔で報告を貰いましたよ。マリさんの料理は最高だって」

「ウチの料理人として雇いたいくらいだよ。レアネーどころか、この国全体を見回しても、これ程の料理人は少ないだろう」

 使い魔を三往復させて何を連絡させていたかと思えば、雑談がかなり混じっていたようだ。

(公爵を運転席に一人にさせすぎたかな)

 料理に集中していたので、半ば公爵の存在を忘れていたのは内緒だ。

「チェスターさん。キャンプカーの中に入って話さない? 今ギュウギュウ詰めだけど、外よりは過ごしやすいはずだよ」

「あぁ、キャンプカーって、もしかしなくてもこの巨大な金属の塊……。はぁ……。これが動くんですよね? 凄いな」

 自分の持ち物を見て感動されるのは悪くない。ちょっと照れくさい気持ちになりながら車内に入ると、試験体066がグラスにディスペンサーのルイボスティーを注ぎ、トレーに並べていた。
 状況が一瞬で把握出来ず、瞬きする。

「え、アンタ何してるの?」

「これから話をするなら、お茶を出してあげた方がいいかと思って……」

「マジか!」

 彼と数日一緒に過ごし、その成長に驚いていた。というか、今判明してしまったが、ホスピタリティに至っては、完全にマリを抜いてしまった様だ。
 動揺を押し殺し、声を出す。

「あ、有難う。ちょっとアンタを見る目が変わりそー」

「……テーブルに運べばいい?」

「お願い。テーブルに座らない人達には手渡しして」

「分かった」

 彼はグラスをテーブルの上に並べ、遠巻きにしている術者達に手渡しする。そんな彼をつい目で追い掛ける。

(アイツ意外と接客業に向いてる?)

 車外の術者達にも持っていくのか、キャンプカーを出て行く彼の姿に白目を剥きそうになっていると、公爵に手招きされた。

「マリちゃん、おいで」

「あ、うん」

 テーブルには公爵とチェスター、そしてエイブラッドの三人が座る。空いている所にマリが座ると、チェスターの話が始まった。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

最初に私を蔑ろにしたのは殿下の方でしょう?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:20,783pt お気に入り:1,964

溺愛幼馴染は我慢ができない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:269pt お気に入り:26

【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい

BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:192

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,146pt お気に入り:3,569

1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,167pt お気に入り:3,766

貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,722pt お気に入り:3,810

処理中です...