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レアネー市救出作戦

レアネー市救出作戦④

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「無事だった住人や、一時的に市内に居た者達は現在、この近くの村アグルンに避難しています。何というか……、数万人規模で押しかけている状況なんで、村の方がパンク状態で……。建物どころか、屋根の下からも溢れてしまっています。酷い状態ですよ」

 公爵の従者チェスターの話から、事態の深刻さが伝わる。

(早く家に帰してあげないと、避難民も、アグルンの村民も、共倒れになりそう)

 マリは魔人の襲来時、セバスちゃんを救出するという考えしか持ってなかった。それなのに今は、レアネーの住人だけでなく、巻き込まれてしまった、近くの村の事まで心配している。いつから博愛主義を装う偽善者になってしまったのか。

「そうか。アグルンの住民達には迷惑をかけてしまっているね……。それはそうと、君の所にある程度の情報が集まっているはずだけど、平常時の市民の数から避難民の数を引くとして__だいたい何人が瘴気の被害にあっているか分かるかい?」

「およそ……2,000人ではないかと」

 人数を告げる言葉が、いやに大きく響いた。一瞬だけ静まり返った車内が、ザワザワと騒がしくなっていく。

「出発前に聞かされていた人数より多くないか?」

「2,000人……大目に見積もって、一人当たり80人程浄化しなければならないわ」

「何日かかるんだ……」

 術者達が不安を口にする。その一つ一つを聞いているうちに、彼等の不安がマリにまで伝染る。だけど、それに呑まれるわけにはいかない。数字から受けるインパクトは大きいが、ここは冷静になるべきなんだ。

「エイブラッドさん。術者達のキャパシティを教えて。一人当たり一日何人浄化出来る?」

「瘴気に侵された者の、度合いにもよるのだが……、多くても一日一五人。それ以上は、術者の身体に障るんだ」

「十五人か……」

 術者二十五人と、マリの料理を合せて、五日間で完了するかどうかといったところだろう。

(五日だったら、なんとか頑張れる範囲じゃないかな!)

「五日間、気合い入れよう! アンタ達が毎日頑張れる様に、美味しい物作って食べさせてあげるから!」

 マリは立ち上がって宣言した。この程度じゃ彼等のヤル気を引き出すには弱すぎるかもしれない。だけど、長期戦になるなら、ちゃんとした料理を食べる事は結構大事だし、マリなりの最大限の支援のつもりだ。

「土の神殿の不味い飯を食べながらダラダラ過ごすのと、此処で美味いご飯を食べながら人助けするの、どっちが充実しているだろうね? 僕は美味い飯と人からの感謝を得られる方が好みの過ごし方だなぁ」

 マリの言葉に若干戸惑いをみせていた術者達は、公爵の援護射撃で目をギョロリとさせた。

「ぬぅぅ……! 確かに、土の神殿の劇マズ生ゴミには辟易としとったのだ!」

「ウチで出される料理に比べたら、王都の監獄の方がまだマシだと聞くわ!」

「五日間高級飯屋並の料理を食えるって、よく考えたら最高!!」

 土の神殿の面々は、エイブラッドを筆頭に、気難しい者が多い気がしていた。だが話してみて、案外欲求に素直な人達が多い事が判明してしまった。

(エイブラッドも普通に欲求に素直だよなー)

 半顔で彼の顔を見つめると、たじろがれる。

「何だその顔は! 待遇の改善は考えていると言っただろう!」

 いい具合の勘違いだ。訂正しないでおこう。

「土の神殿からも、術者達に出張手当くらいは出してあげてね」

「そうだな。その分をイリアに請求せねば……」

「ドドーンと払ってあげるよ」

「なら、よし」

 大人達のやり取りにウンウンと頷く。
 これで術者達のモチベーションは保てそうだ。でも浄化の前に、相当な困難があるのを忘れちゃいけない。

「チェスターさん。冒険者ギルドの方はどうなってる? 私達が出発する前、シルヴィアさんが、王都からSランクの冒険者達を呼ぶと言っていたけど……」

 マリがギルド側の状況を質問すると、チェスターは生真面目な表情で頷く。

「今朝、王都から腕の立つ方々が五名こちらに到着しました。1パーティーと言うんでしょうか? 仲間同士で来たみたいです。現在はここよりさらにレアネー市に近いポイントに野営しています」

「1パーティー……、まとまって動けるって考えていいのかな。いい仕事してくれそー」

「そうだねぇ。一丸となって取組んでくれるって期待しちゃうな。この後、彼等に会いに行けないかな?」

 公爵は市を代表する者として、冒険者達に、直々に依頼したいのかもしれない。
 ここ、二、三日の間、チャラついた言動が多かった彼だが、時々市長としての自覚があるのが伝わってくる。

「会えると思います。午後イチでシルヴィア氏が彼等を市内の偵察に連れて行く予定でしたが、短時間だけと言うお話でしたし、もう戻ってると思います」

「なるほどね。偵察をしてくれてるなら、尚更会いたくなったな。他に何か聞きたい事がある者が居ないなら、僕とチェスター君で会いに行ってくるよ」

「あ! 私も行きたい!」

 マリは置いて行かれない様に、慌てて手を挙げ、主張した。
 冒険者達の偵察の成果を、マリも聞きたいのだ。

「僕も行く……」

 声の方を向くと、いつの間に戻って来たのか、試験体066が出口近くでトレーを挙げていた。



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