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帰還からまた旅支度
帰還からまた旅支度⑤
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公爵に教えてもらった通りに道を進むと、立派な木枠が目立つ無骨な建物が見えてきた。入口から出て来る人々の服装はバリエーション豊かで、それぞれの背や腰には体格に見合った武器を携えているので、冒険者っぽい身なりといえる。
「あれが冒険者ギルドで間違いなさそう」
「うん」
「そうですね」
マリが指差すと、セバスちゃんとグレンは同意してくれた。
ジャケットのポケットから冒険者カードを取り出す。示されているのは『F』のマーク。これは下から数えて2番目に低いランクの冒険者、という意味を持つ。
この世界に来てから、マリは結構貢献したはずなので、もっと上がっても良さそうなのだが、実績をイチイチ申請してないから据え置きになってしまっているのだ。
今気にすべきなのは、Fランクの冒険者であっても、王都のSランクの冒険者に取り次いでもらえるのかどうか、という点だ。一応公爵に書状を一筆書いてもらったので、たぶん大丈夫だと思われるが、安心しきれない。
入口付近にたむろする角の生えた大柄な人々を、三人で押し除ける様にして建物の中に入る。
カウンターの前は、ガチムキの兄貴達で埋まっていた。彼等は一体となって、何かを激しく訴えている最中のようだ。
「報酬の支払い拒否って、どういう事だ!!」
「俺たちはわざわざプロメシス領まで行って、糞どもの護衛をしてきたんだぞ!」
「二日間も時間を奪ったくせに、銅貨一枚すらも払えねーだと!?」
恐ろしげな風貌の男達に、口々に責め立てられ、カウンター奥に居る職員達は一様に青ざめ、震えている。
『冒険者VS冒険者ギルド』という構図。彼等は利害が一致していて、持ちつ持たれつみたいな関係だと思っていただけに、少し不思議な感じだ。
マリは、屈強な冒険者達が訴えている内容を聞いていくうちに、何となくアレックスに関係しているように思えた。
(この人達、アレックスと一緒に行ってた凄腕冒険者?)
職員側の代表なのか、一人の中年が進み出て、わざとらしく咳払いする。
「うおっほっん! あー悪いがね。ケートスの討伐に貢献してないから、報酬を支払う義務はないと、国王陛下が決めてしまったのだよ。諦めてくれたまえ」
(あーやっぱり、ケートスの件かぁ……)
マリは自分の予想が当たってしまい、頭が痛くなってきた。アレックスとはもう知人程度の関係だが、ケートスに関してのアレコレは、言い出しっぺは自分なのだ。
「なんだと!! だったら、仲介したギルドが代理で支払え!」
「そーだ! 詐欺募集をしたと国内外でふれ回るぞ!」
「ミクトラニ王国で高度な依頼をこなす冒険者はいなくなるであろうな!」
冒険者ギルド側の中年男性の言葉は、火に油を注いだだけだったのか、アレックスのプロメシス行きに同行した冒険者達の怒りは増してしまったみたいだ。彼等の中には、得物をチラつかせる者まで居るしまつ。
まずい所に来てしまったと、マリはセバスちゃんやグレンと目を見合わせ、肩を竦めた。
そんな中……。
「やめな。みっともない」
不思議な力をはらむハスキーボイスが一階に響いた。
カウンター前の冒険者達は黙り、声の主の方に視線を集中させる。
(あれ? この声聞いた事あるような?)
カウンター横の階段に視線を向けると、紫色のローブに身を包む、色黒の女性が立っていた。
「ユネさん!!」
亀の甲羅団の魔法使い、ユネだ。彼女とはレアネーで随分お世話になったので、マリは手を振る。
彼女もマリに気が付き、厳しい表情を一変させ、はにかんだ笑顔を浮かべてくれた。
「マリ、風の噂で王都に来ていると聞いていた。また会えて嬉しいよ」
ツカツカと近寄って来た彼女は、マリの身体をガシリと抱きしめる。マリも嬉しくなって、自らの頬っぺたを彼女のそれにくっつける。
「私もまた会いたいと思ってた! 身体の調子はどう?」
「王都に帰ってから、病院で治癒魔法をガッツリかけてもらったから、もう平気さ」
「良かった!」
「今日は何で冒険者ギルドに……__、あーノンビリ話をする前に、この場を収めなきゃだ」
マリ達は、いつの間にか屈強な男達に取り囲まれていた。彼等はバキボキと指の関節を鳴らし、悪い顔をしている。
「ユネさんよぉ、敬愛するアンタの言葉とはいえ、俺達はここの報酬で生活してるんだ。悪いけど、さっきの言葉、取り消してもらうぜ」
「物理と魔法はどっちが強いか? ここで白黒つけようや」
「うわ!? 血の気多すぎじゃ!?」
マリは慌ててユネの背中に隠れる。
いくらなんでも、イキナリ公共の場所で私闘が始まるだなんて、予想もしてなかった。
どうやら、ここの連中は会話で解決するという選択肢の他に、バトルでの解決法もありだと考えているようだ。
力と力をぶつけ合って、勝った方の主張を『正』とする感じだろうか。
「いいねぇ。相手になってやる。ちょうど、入院生活が退屈すぎて暴れたいところだったんだ。まとめてかかって来な!」
「え、えええ!? ホントにここで戦うつもりなの!?」
ユネが挑発的な笑みを浮かべ、立てた中指を前後に揺らすと、男達は野太い掛け声を上げながら雪崩れ込んできたのだった。
「あれが冒険者ギルドで間違いなさそう」
「うん」
「そうですね」
マリが指差すと、セバスちゃんとグレンは同意してくれた。
ジャケットのポケットから冒険者カードを取り出す。示されているのは『F』のマーク。これは下から数えて2番目に低いランクの冒険者、という意味を持つ。
この世界に来てから、マリは結構貢献したはずなので、もっと上がっても良さそうなのだが、実績をイチイチ申請してないから据え置きになってしまっているのだ。
今気にすべきなのは、Fランクの冒険者であっても、王都のSランクの冒険者に取り次いでもらえるのかどうか、という点だ。一応公爵に書状を一筆書いてもらったので、たぶん大丈夫だと思われるが、安心しきれない。
入口付近にたむろする角の生えた大柄な人々を、三人で押し除ける様にして建物の中に入る。
カウンターの前は、ガチムキの兄貴達で埋まっていた。彼等は一体となって、何かを激しく訴えている最中のようだ。
「報酬の支払い拒否って、どういう事だ!!」
「俺たちはわざわざプロメシス領まで行って、糞どもの護衛をしてきたんだぞ!」
「二日間も時間を奪ったくせに、銅貨一枚すらも払えねーだと!?」
恐ろしげな風貌の男達に、口々に責め立てられ、カウンター奥に居る職員達は一様に青ざめ、震えている。
『冒険者VS冒険者ギルド』という構図。彼等は利害が一致していて、持ちつ持たれつみたいな関係だと思っていただけに、少し不思議な感じだ。
マリは、屈強な冒険者達が訴えている内容を聞いていくうちに、何となくアレックスに関係しているように思えた。
(この人達、アレックスと一緒に行ってた凄腕冒険者?)
職員側の代表なのか、一人の中年が進み出て、わざとらしく咳払いする。
「うおっほっん! あー悪いがね。ケートスの討伐に貢献してないから、報酬を支払う義務はないと、国王陛下が決めてしまったのだよ。諦めてくれたまえ」
(あーやっぱり、ケートスの件かぁ……)
マリは自分の予想が当たってしまい、頭が痛くなってきた。アレックスとはもう知人程度の関係だが、ケートスに関してのアレコレは、言い出しっぺは自分なのだ。
「なんだと!! だったら、仲介したギルドが代理で支払え!」
「そーだ! 詐欺募集をしたと国内外でふれ回るぞ!」
「ミクトラニ王国で高度な依頼をこなす冒険者はいなくなるであろうな!」
冒険者ギルド側の中年男性の言葉は、火に油を注いだだけだったのか、アレックスのプロメシス行きに同行した冒険者達の怒りは増してしまったみたいだ。彼等の中には、得物をチラつかせる者まで居るしまつ。
まずい所に来てしまったと、マリはセバスちゃんやグレンと目を見合わせ、肩を竦めた。
そんな中……。
「やめな。みっともない」
不思議な力をはらむハスキーボイスが一階に響いた。
カウンター前の冒険者達は黙り、声の主の方に視線を集中させる。
(あれ? この声聞いた事あるような?)
カウンター横の階段に視線を向けると、紫色のローブに身を包む、色黒の女性が立っていた。
「ユネさん!!」
亀の甲羅団の魔法使い、ユネだ。彼女とはレアネーで随分お世話になったので、マリは手を振る。
彼女もマリに気が付き、厳しい表情を一変させ、はにかんだ笑顔を浮かべてくれた。
「マリ、風の噂で王都に来ていると聞いていた。また会えて嬉しいよ」
ツカツカと近寄って来た彼女は、マリの身体をガシリと抱きしめる。マリも嬉しくなって、自らの頬っぺたを彼女のそれにくっつける。
「私もまた会いたいと思ってた! 身体の調子はどう?」
「王都に帰ってから、病院で治癒魔法をガッツリかけてもらったから、もう平気さ」
「良かった!」
「今日は何で冒険者ギルドに……__、あーノンビリ話をする前に、この場を収めなきゃだ」
マリ達は、いつの間にか屈強な男達に取り囲まれていた。彼等はバキボキと指の関節を鳴らし、悪い顔をしている。
「ユネさんよぉ、敬愛するアンタの言葉とはいえ、俺達はここの報酬で生活してるんだ。悪いけど、さっきの言葉、取り消してもらうぜ」
「物理と魔法はどっちが強いか? ここで白黒つけようや」
「うわ!? 血の気多すぎじゃ!?」
マリは慌ててユネの背中に隠れる。
いくらなんでも、イキナリ公共の場所で私闘が始まるだなんて、予想もしてなかった。
どうやら、ここの連中は会話で解決するという選択肢の他に、バトルでの解決法もありだと考えているようだ。
力と力をぶつけ合って、勝った方の主張を『正』とする感じだろうか。
「いいねぇ。相手になってやる。ちょうど、入院生活が退屈すぎて暴れたいところだったんだ。まとめてかかって来な!」
「え、えええ!? ホントにここで戦うつもりなの!?」
ユネが挑発的な笑みを浮かべ、立てた中指を前後に揺らすと、男達は野太い掛け声を上げながら雪崩れ込んできたのだった。
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