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落雷
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これから先のふうわと亮君との暮らしをたくさんに想像した後、少し眠ることにした。やっぱり体が疲れている。そりゃそうだろう。ふうわを産んでからまだ数時間程しか時計の針は回っていないのだ。暖かい毛布をかけて、生きている幸せを噛みしめながらあたしは眠った。ああ、早く愛しいふうわに会いたいな。
一時間程眠っただろうか。疲れているわりにはあまり長く睡眠をとれなかった。まだ眠気が残っていたが少し庭に出ることにした。このまま寝てばかりだと体がなまってしまうし、ベッドの中にいるのも疲れてきた。半分寝ぼけたまま、病院着の上にカーディガンを羽織って外に出た。まずはさっき見た桜の木のある場所にでも行ってみよう。そこでこれから訪れるであろう幸せについてゆっくり妄想にでも浸っていよう。
そう言えば、あたしは小さな頃から妄想に浸ることが好きだったな。病院の正面玄関を出て桜の木のある裏庭に回った。ああ。今日はとても良い天気だ。あたしが生まれ変わることを祝福してくれているような良お日様だ。こういう日はなにか良いことが起きるに決まっている。ああ、そうだ。神様にお礼を言わなければならない。お蔭様であたしは今日、人生で最高に幸せな瞬間を迎えました。愛しい愛しいふうわをなんとかこの世に産み出すことがかないました。そして、これからの自分の運命に幸せを見出すことが出来ました。ありがとうございます。やはり神様っているのですね。こんなあたしにも幸せを与えて頂けるのですね。
あたしは胸の前で手を組んで、神様にお礼を言った。以前に岳人の無事を祈ったけれども、その思いが天に届かなかったことなどはすっかりと忘れていた。
ドカンという大きなそして鈍い音とともに、首に激痛が走った。一瞬雷があたしの頭上に落ちたのだと思ったわ。倒れ込む際にコンクリートがすごい勢いであたしの顔の前に飛びこんでくるのを覚えているが、その後のことはさっぱりだ。
あたしは病室から見えた桜の木を近くで見たいと思って歩みを進めていたはずだ。頭の中はふうわのことでいっぱい。生まれたばかりの彼女がこれからどんな子供になるのかを想像しながら歩いていたはず。
目を覚ましたとき、あたしは再びベッドの上で横になっていた、一瞬ここがどこだか、何故寝ているのかも分からなかった。お父さんとお母さん、果歩ちゃんと美羽ちゃん、そして亮君が怖い顔をしてあたしの顔を覗き込んでいた。そして、なぜだか急に大きな歓声をあげた。さっぱりなにがなんだか分からない。取りあえず首が痛い。後頭部も。顔面も。みんながあたしに向かってあたしの名前を呼んでいる。そんなに連呼しなくたって聞こえているよ。お母さんは顔を覆って泣いているようだった。果歩ちゃんの目にも涙が浮かんでいる。亮君と美羽ちゃんは手を取り合って喜んでいる。やっぱりなにがなんだか分からない。果歩ちゃんに、なにがどうしたのか聞いてみた。返事が無い。相変わらずみんなあたしの名前を呼んで喜んでいる。もう一度果歩ちゃんの名前を呼んでみた。やはり返事が無い。というかあたしの声に反応している様子が無い。みんななにをそんなに喜んでいるのか。どうしてあたしの声を無視するのか。そこであたしはふと気が付いた。あたしもみんなの声が聞こえてはいない。あまりにもあたし目の前であたしの名前を呼ぶものだからみんなの口の動きで「優江」って言っているのが分かったが、それ以外の言葉は何故か聞き取れない。
首に不可思議な激痛が走る。そしてあたしは少し前のことを思い出し、現状を把握した。あたしの頭の上になにかが落ちてきたのだ。そして多分あたしはそのショックで気を失っていたのだろう。それを心配してみんながやってきてくれたのだろう。だからあたしはベッドに横たわっているのだ。おそらくその後遺症のようなもので耳も口も不自由になっているだ。
「死ぬんだ。」
そう思ったでしょう。あたしもそう思った。だけどなぜかあたしの心は落ち着いていた。不思議なことにいざ死が目の前にやってきても、たいして動揺はしなかった。ああ、ついにそのときが来たのだなあという感じだった。やはりこういうことになるのだなって。
一時間程眠っただろうか。疲れているわりにはあまり長く睡眠をとれなかった。まだ眠気が残っていたが少し庭に出ることにした。このまま寝てばかりだと体がなまってしまうし、ベッドの中にいるのも疲れてきた。半分寝ぼけたまま、病院着の上にカーディガンを羽織って外に出た。まずはさっき見た桜の木のある場所にでも行ってみよう。そこでこれから訪れるであろう幸せについてゆっくり妄想にでも浸っていよう。
そう言えば、あたしは小さな頃から妄想に浸ることが好きだったな。病院の正面玄関を出て桜の木のある裏庭に回った。ああ。今日はとても良い天気だ。あたしが生まれ変わることを祝福してくれているような良お日様だ。こういう日はなにか良いことが起きるに決まっている。ああ、そうだ。神様にお礼を言わなければならない。お蔭様であたしは今日、人生で最高に幸せな瞬間を迎えました。愛しい愛しいふうわをなんとかこの世に産み出すことがかないました。そして、これからの自分の運命に幸せを見出すことが出来ました。ありがとうございます。やはり神様っているのですね。こんなあたしにも幸せを与えて頂けるのですね。
あたしは胸の前で手を組んで、神様にお礼を言った。以前に岳人の無事を祈ったけれども、その思いが天に届かなかったことなどはすっかりと忘れていた。
ドカンという大きなそして鈍い音とともに、首に激痛が走った。一瞬雷があたしの頭上に落ちたのだと思ったわ。倒れ込む際にコンクリートがすごい勢いであたしの顔の前に飛びこんでくるのを覚えているが、その後のことはさっぱりだ。
あたしは病室から見えた桜の木を近くで見たいと思って歩みを進めていたはずだ。頭の中はふうわのことでいっぱい。生まれたばかりの彼女がこれからどんな子供になるのかを想像しながら歩いていたはず。
目を覚ましたとき、あたしは再びベッドの上で横になっていた、一瞬ここがどこだか、何故寝ているのかも分からなかった。お父さんとお母さん、果歩ちゃんと美羽ちゃん、そして亮君が怖い顔をしてあたしの顔を覗き込んでいた。そして、なぜだか急に大きな歓声をあげた。さっぱりなにがなんだか分からない。取りあえず首が痛い。後頭部も。顔面も。みんながあたしに向かってあたしの名前を呼んでいる。そんなに連呼しなくたって聞こえているよ。お母さんは顔を覆って泣いているようだった。果歩ちゃんの目にも涙が浮かんでいる。亮君と美羽ちゃんは手を取り合って喜んでいる。やっぱりなにがなんだか分からない。果歩ちゃんに、なにがどうしたのか聞いてみた。返事が無い。相変わらずみんなあたしの名前を呼んで喜んでいる。もう一度果歩ちゃんの名前を呼んでみた。やはり返事が無い。というかあたしの声に反応している様子が無い。みんななにをそんなに喜んでいるのか。どうしてあたしの声を無視するのか。そこであたしはふと気が付いた。あたしもみんなの声が聞こえてはいない。あまりにもあたし目の前であたしの名前を呼ぶものだからみんなの口の動きで「優江」って言っているのが分かったが、それ以外の言葉は何故か聞き取れない。
首に不可思議な激痛が走る。そしてあたしは少し前のことを思い出し、現状を把握した。あたしの頭の上になにかが落ちてきたのだ。そして多分あたしはそのショックで気を失っていたのだろう。それを心配してみんながやってきてくれたのだろう。だからあたしはベッドに横たわっているのだ。おそらくその後遺症のようなもので耳も口も不自由になっているだ。
「死ぬんだ。」
そう思ったでしょう。あたしもそう思った。だけどなぜかあたしの心は落ち着いていた。不思議なことにいざ死が目の前にやってきても、たいして動揺はしなかった。ああ、ついにそのときが来たのだなあという感じだった。やはりこういうことになるのだなって。
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