正解かは分からないけれど

ちょこ

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母は見た

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「えっ」
 事実は小説より奇なり、とは誰が言ったか。意外にも現実は予想外のことが多い。それは私たちが現実の可能性を軽視しているからか、はたまた小説は現実の模造品に過ぎないからか。
 いつかどこかで見た漫画の中に現れた母親は、泣いたり叫んだりとショックを受けて、我が子がそれは大層な罪を犯したかのように嘆いて見せていた。だから私も彼女に習い、取り乱すべきなのかもしれない。
 珍しく仕事が早く終わった奈々子は夕飯どきに帰宅した。もう家族べったりなんて年齢ではない子供たちへのお土産にケーキを買う余裕があるというのは、奈々子には奇跡のようなことだ。奇跡を達成した奈々子は上機嫌に玄関をくぐり、ケーキをダイニングテーブルに置いてから次女の千夏を呼びに部屋を訪ねた。
 今思えばこれが良くなかったのだ。我が家は基本的にノックをしない。断りも入れずにさっさと家族の部屋へ入ってしまう。ドアの存在意義を1つ失わせる阿呆な諸行だが、私はそれで問題なかった。夫も子供たちも私の部屋へ勝手に入るのだから、お互い様だと思っていたからだ。
 それはともかくドアを開いた先にあった千夏の姿は、アレである。弟である千秋と、アレをしていたのだ。明言は避けさせてほしい。何の配慮もなくガチャリと音を立てて開けたドアの先で、血の気の引いた顔をした我が子二人が汗だくでこちらを見ていたのだ。
 目があってしまったものは仕方がない。見て見ぬふりしてなかったことにもできず、視線をさまよわせる。ベッドの端に転がるローションも使いかけのコンドームもその存在を主張し、行為があったのだと訴えていた。証拠品はそれだけではない。エアコンが作動していながら、心なしかいつもより高い室温、ベタベタと湿った空気、特徴的な匂いが部屋に充満していた。その全てが何があったかをご丁寧に教えてくれる。
 久しぶりに感じる空気感に、眩暈がした。気分が悪い。
「あー。えっと、ただいま。……ケーキ買ってきたから」
 気の利いた台詞など出てくるわけがない。頭がショートしたようだ。漫画の中の母親はすごい。なぜああも矢継ぎ早に責め立てる言葉が出てくるのだろう。そういえば千秋にも声をかけた方がよかっただろうか。あの場にはいたのだから、来てくれることを願おう。
 真っ白の頭を抱えたままダイニングテーブルの椅子を引き、ぼんやりと千夏と千秋を待つ。セミの鳴き声に負けない騒音が2階からドタバタと聞こえ、2人も慌てているのだろうと他人行儀に感じていた。
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