グンマー戦記

深川さだお

文字の大きさ
6 / 7
27 中之条陥落

中之条陥落

しおりを挟む
 昨日死んだ戦友は、平和な世の中になったときのためにと基礎解析の教科書を持ち歩いていた。
中之条が陥落して、市内に入った俺たち(太田リベレ―ションアーミーというダサい名前だった)は、住民に大歓迎され、乾杯、返杯の嵐。
無理もない。ここの住民は、長年悪辣な部族指導者オブツィ一派に支配されていたのだ。

 住民が呼んでいる。駅前のオブツィの銅像を倒すのに車が必要だそうだ。
俺はエネルギーのありまあっている少年兵に馬と行くよう命じた。徴発してきた貴重なサンバーは出せない。
「絶対に機関車を撃つんじゃねえぞ。動くD51型蒸気機関車は馬千頭の価値がある。もし穴あけたら全員生きたまま釜に投げ込むぞ」
きつく、少年兵を脅す。彼らは限度を知らないからこうでも言わないとならない。





 遠くで何かが倒れた音がする。少し遅れて歓声があがった。
もと大学生の千木良大尉(みんな勝手な階級を名乗っていたが、大尉の部族指導者ナカゾネの旧軍での階級が少佐だったからそれを上回ることができないらしい)は、少年兵の様子を中之条の戦いの間、ずっと気にしており、少しでも暴力に楽しみをおぼえた少年兵がいれば、部隊から引き離し後方に送らせた。どんなに兵力不足を訴えても、大尉の決定は変わらない。
知らない者もいたが、大尉は歴戦の勇者で、少年兵を率いてあの伊勢崎蜂起に参加したときに、暴力にとりつかれた少年兵は敵味方関係なく発砲し、部隊が全滅しかかったという。その後の少年兵の処置については決して語らなかったが。
だから俺も、できる限り少年兵を住民や捕虜に近づけないようにした。俺も広義の少年兵に入る年齢だと、後に停戦監視委員会の心理技官なるおばさんに教えられることになるが、この時は、俺は少年兵はどうしようもない未熟で厄介な野猿みたいなものと考えていたのだ。

 陽がおちて、みな飲んでいる。今敵襲があったらどうするつもりなのだろう。しかし大尉も飲んでいる。
前橋市陥落の後に、太田リベレ―ションアーミーから三人、入閣するらしい。
「大切なことは二度と部族リーダーが仕切る社会にしないことなんだ。部族間の論功行賞みたいなことは、過渡期段階だけのことだ。」
大尉は、自ら頷き蒸溜酒をあおった。俺も一気に飲んだ。喉が焼ける。雑穀の臭味が鼻腔を駆け抜けた。
「私はな、自由で平等なグンマ―、みなが生きる意味を持ち、働けば働いただけ豊かになる、年齢や出身地や持っている馬の数で人間の価値を決めない、世界に誇れるグンマ―にしたいんだ」
大尉の目はどこまでも澄んでいた。
「しかし大尉殿、俺はもう学校に戻れる気がしません。俺の戦友は、死ぬまで基礎解析の教科書を持っていましたけれどね」
「中央政府は君たちに共通一次の受験資格を与えるそうだ」
「大尉殿、俺は、150m先を時速40キロで進む敵のトラックをぶっ飛ばすのに、どの角度で噴進砲の引鉄をひけばいいかはわかっています。でも、今更、余弦定理の導き方だ、南北問題だ、そんなことを勉強して何になるのかわからない」
千木良大尉は飴色になった皮の雑嚢から色のついた液体の入った四角い瓶を取り出して、俺に飲むようすすめた。輸入品の、上等な酒。
「15年もののウイスキーだ、ちょっと疲れているだけだ。今日は休め」

 駅前で一斉射撃の音がおこる。俺も大尉も身構えたが、むろん敵襲ではない。
少年兵や住民が一斉にぶっ放しているのだ。今日は、中之条解放の日。

 大尉が拳銃を抜いて、空に向けて撃った。
俺も、死んだ戦友のことをふりはらうよう、小脇のライフルを空にむけて、狙いもつけずに撃った。
貴重なサンバーの荷台に寝っ転がって、俺は、大尉のくれた舶来ウイスキーの封もきらず、雑穀くさい酒を飲んで、酔いが回るのを待った。やがて、なんともいいがたい充足感が俺を包んだ。
千木良大尉の理想に酔ったのでもなく、酒に酔ったのでもなく、俺の先祖が経験してきた、街を陥落させるという出来事が、俺のグンマーの血をたぎらせたに違いなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...