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27 中之条陥落
中之条陥落
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昨日死んだ戦友は、平和な世の中になったときのためにと基礎解析の教科書を持ち歩いていた。
中之条が陥落して、市内に入った俺たち(太田リベレ―ションアーミーというダサい名前だった)は、住民に大歓迎され、乾杯、返杯の嵐。
無理もない。ここの住民は、長年悪辣な部族指導者オブツィ一派に支配されていたのだ。
住民が呼んでいる。駅前のオブツィの銅像を倒すのに車が必要だそうだ。
俺はエネルギーのありまあっている少年兵に馬と行くよう命じた。徴発してきた貴重なサンバーは出せない。
「絶対に機関車を撃つんじゃねえぞ。動くD51型蒸気機関車は馬千頭の価値がある。もし穴あけたら全員生きたまま釜に投げ込むぞ」
きつく、少年兵を脅す。彼らは限度を知らないからこうでも言わないとならない。
遠くで何かが倒れた音がする。少し遅れて歓声があがった。
もと大学生の千木良大尉(みんな勝手な階級を名乗っていたが、大尉の部族指導者ナカゾネの旧軍での階級が少佐だったからそれを上回ることができないらしい)は、少年兵の様子を中之条の戦いの間、ずっと気にしており、少しでも暴力に楽しみをおぼえた少年兵がいれば、部隊から引き離し後方に送らせた。どんなに兵力不足を訴えても、大尉の決定は変わらない。
知らない者もいたが、大尉は歴戦の勇者で、少年兵を率いてあの伊勢崎蜂起に参加したときに、暴力にとりつかれた少年兵は敵味方関係なく発砲し、部隊が全滅しかかったという。その後の少年兵の処置については決して語らなかったが。
だから俺も、できる限り少年兵を住民や捕虜に近づけないようにした。俺も広義の少年兵に入る年齢だと、後に停戦監視委員会の心理技官なるおばさんに教えられることになるが、この時は、俺は少年兵はどうしようもない未熟で厄介な野猿みたいなものと考えていたのだ。
陽がおちて、みな飲んでいる。今敵襲があったらどうするつもりなのだろう。しかし大尉も飲んでいる。
前橋市陥落の後に、太田リベレ―ションアーミーから三人、入閣するらしい。
「大切なことは二度と部族リーダーが仕切る社会にしないことなんだ。部族間の論功行賞みたいなことは、過渡期段階だけのことだ。」
大尉は、自ら頷き蒸溜酒をあおった。俺も一気に飲んだ。喉が焼ける。雑穀の臭味が鼻腔を駆け抜けた。
「私はな、自由で平等なグンマ―、みなが生きる意味を持ち、働けば働いただけ豊かになる、年齢や出身地や持っている馬の数で人間の価値を決めない、世界に誇れるグンマ―にしたいんだ」
大尉の目はどこまでも澄んでいた。
「しかし大尉殿、俺はもう学校に戻れる気がしません。俺の戦友は、死ぬまで基礎解析の教科書を持っていましたけれどね」
「中央政府は君たちに共通一次の受験資格を与えるそうだ」
「大尉殿、俺は、150m先を時速40キロで進む敵のトラックをぶっ飛ばすのに、どの角度で噴進砲の引鉄をひけばいいかはわかっています。でも、今更、余弦定理の導き方だ、南北問題だ、そんなことを勉強して何になるのかわからない」
千木良大尉は飴色になった皮の雑嚢から色のついた液体の入った四角い瓶を取り出して、俺に飲むようすすめた。輸入品の、上等な酒。
「15年もののウイスキーだ、ちょっと疲れているだけだ。今日は休め」
駅前で一斉射撃の音がおこる。俺も大尉も身構えたが、むろん敵襲ではない。
少年兵や住民が一斉にぶっ放しているのだ。今日は、中之条解放の日。
大尉が拳銃を抜いて、空に向けて撃った。
俺も、死んだ戦友のことをふりはらうよう、小脇のライフルを空にむけて、狙いもつけずに撃った。
貴重なサンバーの荷台に寝っ転がって、俺は、大尉のくれた舶来ウイスキーの封もきらず、雑穀くさい酒を飲んで、酔いが回るのを待った。やがて、なんともいいがたい充足感が俺を包んだ。
千木良大尉の理想に酔ったのでもなく、酒に酔ったのでもなく、俺の先祖が経験してきた、街を陥落させるという出来事が、俺のグンマーの血をたぎらせたに違いなかった。
中之条が陥落して、市内に入った俺たち(太田リベレ―ションアーミーというダサい名前だった)は、住民に大歓迎され、乾杯、返杯の嵐。
無理もない。ここの住民は、長年悪辣な部族指導者オブツィ一派に支配されていたのだ。
住民が呼んでいる。駅前のオブツィの銅像を倒すのに車が必要だそうだ。
俺はエネルギーのありまあっている少年兵に馬と行くよう命じた。徴発してきた貴重なサンバーは出せない。
「絶対に機関車を撃つんじゃねえぞ。動くD51型蒸気機関車は馬千頭の価値がある。もし穴あけたら全員生きたまま釜に投げ込むぞ」
きつく、少年兵を脅す。彼らは限度を知らないからこうでも言わないとならない。
遠くで何かが倒れた音がする。少し遅れて歓声があがった。
もと大学生の千木良大尉(みんな勝手な階級を名乗っていたが、大尉の部族指導者ナカゾネの旧軍での階級が少佐だったからそれを上回ることができないらしい)は、少年兵の様子を中之条の戦いの間、ずっと気にしており、少しでも暴力に楽しみをおぼえた少年兵がいれば、部隊から引き離し後方に送らせた。どんなに兵力不足を訴えても、大尉の決定は変わらない。
知らない者もいたが、大尉は歴戦の勇者で、少年兵を率いてあの伊勢崎蜂起に参加したときに、暴力にとりつかれた少年兵は敵味方関係なく発砲し、部隊が全滅しかかったという。その後の少年兵の処置については決して語らなかったが。
だから俺も、できる限り少年兵を住民や捕虜に近づけないようにした。俺も広義の少年兵に入る年齢だと、後に停戦監視委員会の心理技官なるおばさんに教えられることになるが、この時は、俺は少年兵はどうしようもない未熟で厄介な野猿みたいなものと考えていたのだ。
陽がおちて、みな飲んでいる。今敵襲があったらどうするつもりなのだろう。しかし大尉も飲んでいる。
前橋市陥落の後に、太田リベレ―ションアーミーから三人、入閣するらしい。
「大切なことは二度と部族リーダーが仕切る社会にしないことなんだ。部族間の論功行賞みたいなことは、過渡期段階だけのことだ。」
大尉は、自ら頷き蒸溜酒をあおった。俺も一気に飲んだ。喉が焼ける。雑穀の臭味が鼻腔を駆け抜けた。
「私はな、自由で平等なグンマ―、みなが生きる意味を持ち、働けば働いただけ豊かになる、年齢や出身地や持っている馬の数で人間の価値を決めない、世界に誇れるグンマ―にしたいんだ」
大尉の目はどこまでも澄んでいた。
「しかし大尉殿、俺はもう学校に戻れる気がしません。俺の戦友は、死ぬまで基礎解析の教科書を持っていましたけれどね」
「中央政府は君たちに共通一次の受験資格を与えるそうだ」
「大尉殿、俺は、150m先を時速40キロで進む敵のトラックをぶっ飛ばすのに、どの角度で噴進砲の引鉄をひけばいいかはわかっています。でも、今更、余弦定理の導き方だ、南北問題だ、そんなことを勉強して何になるのかわからない」
千木良大尉は飴色になった皮の雑嚢から色のついた液体の入った四角い瓶を取り出して、俺に飲むようすすめた。輸入品の、上等な酒。
「15年もののウイスキーだ、ちょっと疲れているだけだ。今日は休め」
駅前で一斉射撃の音がおこる。俺も大尉も身構えたが、むろん敵襲ではない。
少年兵や住民が一斉にぶっ放しているのだ。今日は、中之条解放の日。
大尉が拳銃を抜いて、空に向けて撃った。
俺も、死んだ戦友のことをふりはらうよう、小脇のライフルを空にむけて、狙いもつけずに撃った。
貴重なサンバーの荷台に寝っ転がって、俺は、大尉のくれた舶来ウイスキーの封もきらず、雑穀くさい酒を飲んで、酔いが回るのを待った。やがて、なんともいいがたい充足感が俺を包んだ。
千木良大尉の理想に酔ったのでもなく、酒に酔ったのでもなく、俺の先祖が経験してきた、街を陥落させるという出来事が、俺のグンマーの血をたぎらせたに違いなかった。
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