神々の記憶の中で、ただ君の平和を願う 〜戦乱の世で神の【記憶】を宿した少年と、天涯孤独の少女が世界の真実と闇に挑む物語〜

蒼宙つむぎ

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2.心

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 朝、明るくなると自然に目が覚め、井戸で水を汲み、お湯を沸かす。
 かわり映えのない朝の一コマだ。
 でも、今日の朝ご飯は、いつもと違う。黒パンのほかに、昨日摘んだチシマイチゴの葉のお茶と実があるのだ。
 とても贅沢な食卓にほほが緩んで、恥ずかしがりのエルサには珍しく鼻歌を歌っていた。気分が乗り、今にも踊りだしそうになった時、背中に視線を感じ後ろを振り返ると……。

「!!!!」

 昨日、森で倒れていた少年がこちらを見ている。
 声にならない叫びとともに、びっくりして体中が石のようになり動けない。だんだんと息苦しくなってきたが、パニックに陥ったエルサは、自分が呼吸をするのを忘れていることに気が付いていないようだ。
「息をしろよ!」
 顔色が蒼くなっていくのを見て慌てたのだろう。少年はベッドから飛び降り、エルサに寄り添い呼吸を促してくれた。
「大きく息を吸って……。……吐いて……」
 しばらく深呼吸するとようやく落ち着いてきた。
(よかった。息ができるようになった。ちゃんとお礼を言わなくちゃ)
 エルサは意を決して声を出す。
「えっと……呼吸、助けてくれてありがとう。あなたはその……命の恩人、です」
 絞り出すように伝えると、ルクスは小さくため息をついた。
(ん?どこかおかしかったのかな)
 自分がずれていることに無自覚なエルサ。少年は少しあきれながらも言葉をかける。
「あ―。昨日は、その。たすけてくれてありがとう。俺はルクス。君は?」
「わ、私はエルサ。こ、こ、この小屋で暮らしているの」
 そう、エルサは村はずれの森にある小屋に一人で暮らしていた。
「エルサ一人で?」
「う、うん。その……両親はこの前の戦で……」
「……ああ……。そか……」
 ここ数年、隣国との関係が悪化し、とうとう戦にまでなってしまったのだ。
 この小屋は木々の陰に隠れていて被害は負かったが、村はほぼ壊滅状態。多くの人が命を落としている。エルサの両親も村を守るために出て行ったきり帰ってこなかった。
 エルサは気まずい空気にどうしたらいいのかわからず、つい自分の袖口をいじってうつむいてしまう。
「ごめん。こんな大変な時に俺を助けてくれて、本当にありがとう。何かお礼を……したいところだけど、何も持ってないんだ。本当にすまない」
「えとね。気にしないで」エルサは深々と頭を下げるルクスを慌てて止める。
 戦争でみんな大変なのは同じなのだ。助け合えることができる自分は恵まれているのだとルクスに伝えると、彼はびっくりしたように目を見開いてエルサを見つめた。

「エルサは“神様にお願い”しないんだね」

 ぽつりとルクスからこぼれた声はあまりにも小さく、エルサに届かなかった。
 首をかしげるエルサの姿はあまりにも幼く、“真っ白”に見える。
(そういえば、エルサのそばは居心地がいい。なぜだろう……。)

「……もしかして……聞こえない?」
  
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