神々の記憶の中で、ただ君の平和を願う 〜戦乱の世で神の【記憶】を宿した少年と、天涯孤独の少女が世界の真実と闇に挑む物語〜

蒼宙つむぎ

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4.バルドへイム王国

7.君の涙を見ると胸が苦しくなるんだ(4)

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 ここまでは急激に物事が運んだ。約15年後にスタンピードが起こるはず。
 しっかりと体を鍛えて仲間も作る。
 端的にみると、間に合うだろと思われるだろう。
 しかしだ、人間の体は急激に育たない。毎日コツコツ鍛え上げていかないといけない。身長が伸びるのもある程度ゆっくりじゃないと痛みにのたうち回るのだ。

「グランツ、ちょっとは休め。膝、痛むんだろ?」
 ゴードン隊長が腕組みをして後ろに立っていた。
「……」
「こら、小僧。無視するな」
「無視とかじゃない」
「あーよかった。ちゃんと口はあるな」
「うるさいんだよ。くそジジイ」
 何かと口出ししてくる隊長に、ついつい喧嘩腰の返答をしてしまう。
 なんだろう、この感覚。
 子供のままでいさせてくれる環境が、心地いい。
 父上もちゃんと愛情をもって接してくれるが、貴族としての責任もあるのだろうか、言葉も堅いし所作にも気を遣う。
 ゴードン隊長は国王にもため口で話すくらいだ。堅苦しさも所作もクソくらえだと思っているだろう。そして、この父親の元で暮らすエルサはきっと楽しく笑っているに違いない。

 エルサのことを考え、ついにやけてしまう。

「何にやけてるんだ?変なものでも食ったのか?」
(クソ!見られてた!)
 恥ずかしくなり、顔が熱く感じる。
 慌てて手で口元を隠し、顔をそむけた。

 こんな平和な日常を何年も繰り返し、季節を積み重ね、とうとう20歳を迎えた。
 自身はすでに成人を迎えているが、そこは大事ではない。
 エルサが成人を迎えるのだ。
 どのように成長したのだろうか。
 彼女は今、何をしているのだろうか。

 バルデック男爵家は王城敷地内のある一角を住処にしている。
 “渡り人”のサツキ様の忘れ形見の二人が狙われていたことを受け、一部の人間しか接触していない。安全のため、それが一番だと思った。まだ、自分が守れるほど強くなっていない。
 そんなふうに思いながら、会いたい気持ちと今ではないという気持ちに葛藤していた。
 だが、成人を迎えたら彼女は一般の生活を始めることが許される。彼女はどういう選択をするのだろうか。

「グランツ、入所式は出るだろう?」
「ああ、そのつもりだ」
 第1部隊に所属して5年。同僚にも恵まれた。今話しかけてきたのは寮の同室のイーサンだ。平民出なので壁を作られるかと思ったが杞憂だった。いつもバカを言って笑わせてくれるいい奴だ。
「今年、ゴードン隊長のご息女のエルサ様が入ってくるらしいぞ」
「なんだと!エルサ嬢が?騎士団に?」
 エルサの名前を聞いて叫びながらイーサンに詰め寄る。
「近い!やめろ!お前とファーストキスはごめんだ!」
「奇遇だな。俺も同意見だ」
 詰め寄りすぎたようだ。危なかった。貞操危機を感じる一コマになってしまった。
「しっかりしろよ。エルサ嬢のことになるとお前はポンコツになるからな。シャンとしないと嫌われるぞ」
「……そんな、ことは…ないはず、だ……」
 エルサはそんな狭量ではない。きっと大丈夫だ。大丈夫だろう?大丈夫だとだれか言ってくれ!
 頭の中がカオス状態になったが、イーサンの一言に冷静になった。
「お前なら大丈夫だ。俺が保証する。胸張って会いに行けよ」
 そうだ、会えるんだ。やっと。
「あと、ちゃんと笑えよ。泣かれるぞ。」
「ん?」
「俺、お前の笑ったところ、見たことないからな。無表情で強すぎるから“鬼神”って呼ばれてるぞ」

 おかしいぞ、イーサン。俺はいつもお前に笑っていたはずだが。

 そして、入所式では緊張して話しかけられず。やっとの思いで話しかけた際、切れのあるアッパーカットをいただいた。
 なんて無駄のない一撃だろう。
 惚れ惚れする。

 俺の顎を見て心配し、「どう落とし前を付けたら……いいでしょう……か……」
 と問うてきた。
(今すぐ結婚してくれ)
 勿論そんなことは言えないので「気にするな」と答えたが。
 やっぱり今からゴードン隊長に結婚の許しをもらいに行くべきだろうか。
 いろんなことを考えながらエルサを見つめていたら彼女が急に泣き出した。
(俺!何かまずいことを言ったか?)
 なだめてもなだめても、泣き止む気配がない。

 ああ……。泣かないでくれ、エルサ。
 君の涙を見ると胸が苦しくなるんだ。
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