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第十四話 不思議の森の魔女と騎士
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しおりを挟む「あら?ルウドは?ここにいたのではないの?」
「出かけましたよ、何か御用でも?」
「昨日の事聞きたかったのに。どこへ行ったの?」
「……さあ?」
ゾフィーは困ったようにティアを見るだけで口を閉じる。
ティアはむくれてルウドを捜しに外へ出た。
行くとしたら薔薇園だろうか?
「ティア姫様?どちらへ?」
「ルウドのいるとこ」
護衛隊は仕方なくティア姫に付き従う。
庭園を通り、薔薇園に入って捜しまわるがルウドは居なかった。
が―――――、
「うふふふっ、くすくすくすくす」
「……‥ミザリーお姉さま、笑うならせめて自分の部屋で笑ってよ。薔薇園におかしな噂が蔓延するじゃない」
「あらティア。ふふふふっ、聞いてよ、クロちゃんがねえ、手紙を返してくれたの」
「ああそう、良かったわね」
不気味な笑いが止まらないミザリーを見捨ててとっととその場から立ち去る。
薔薇園を出て騎士宿舎の方へ向かう途中、呼び止められた。
「ちょっと、そこのティア!待ちなさいよ!」
不躾な呼び声にティアは眉をひそめてその方向を見る。
城内に入る使用人用の勝手口から黒髪の女が出てきた。
「ええと、確かジェンとか言う目障りな女」
「悪かったわね目ざわりで!というかあなた!報告はどうなってんのよ?デートの勝利者は報告義務があるって言ってわよね?私達には情報が必要なのよ!」
「そうだったかしら?」
「そうよ!もう、昨日から待っているのに何やっているのよ!とにかく来なさい!」
腕を掴まれて勝手口から使用人達の休憩室へと引っ張り込まれた。
「さあ報告して貰うわよ」
「報告って言っても特にないわよ」
「何でよ?ルウドさんとのデートでしょう?ないわけないわ!」
最後に負けた黒髪のジェンと赤毛のローラが詰め寄って意気込む。
「薔薇園で草刈して、そのあと護衛隊の食堂でランチ。さらにその後おやつを持って幽霊の出る森で釣り」
「…………」
「頑張って勝ち取ったデートだけどこんなコース嬉しい人いるかしら?」
「……ええと、情報を…、噂の真相を…」
「どれも眉唾ものよ。ルウドについてる幽霊何て見てないし、お宝なんて持って居そうもないし、女の影なんて見えもしないし」
「……ええ?でも……?」
ジェンとローラがいぶかしげにティアを見る。
「ねえ、もうやめたら?何とかの隊っての。無駄だと思うんだけど?」
「ルウド守り隊よ!彼を守るのよ!やめたりしないわよ」
「それってすごい余計な御世話だと思うんだけど。まあ知らないところで勝手に活動している分にはどうでもいいわね」
「あなたも隊の会員でしょう?どうでもいいわけないわよ!」
「そういえばそうなっていたわね。じゃあ会員やめるわ」
「そんな簡単に辞めれるわけないでしょう?大体一度やめたら二度と入れないけどいいの?」
「何時の間にそんな規則になったの?まあいいけど」
「…まるでルウドさんとのデート権を奪い取る為だけにこの会に入ったみたいね?大体何なのあなた?」
「何?」
「貴女みたいなメイド見た事もないし誰も知らない。マリーに聞いてもあやふやだし。はっきり言って怪しいのよ?神出稀没なとこが」
「失礼ね。私はあなた達新入りと違って昔からここに暮らしているのだから怪しいとか言われる筋合いはないわよ。むしろ目ざわりでハタ迷惑なのはあなたたちよ。私のルウドに近づくんじゃないわよ!」
「私のって………、―――――あなたね?ルウドさんに近づく悪い女は!」
「……なんですって?」
ジェンとティアがにらみ合う。
「―――失礼ねあなた。誰が悪い女よ?私はルウドに近づく悪い女から彼を守っているのよ。目障りな女どもを一掃しているのよ」
「酷い事を!だからルウドさんには誰も近づけないんだわ!勝手なこと言ってどうせルウドさんは知らないんでしょう?こんな女最低!ルウドさんが聞いたらなんていうかしらね?」
「知っていても特に何も言わないでしょうけど、下らない告げ口口実にまだルウドに近づくつもりなら今すぐ排除してあげるわ」
「何が排除よ馬鹿馬鹿しい!たかが小娘に脅されたくらいで諦めるものですか!やれるものならやってみなさい!」
余裕のジェンにティアが怒りをこめて睨みつける。
「何よおばさん!たかが使用人の分際でルウドに近づくなんて百万年早いのよ!図々しすぎるわ!遠くから見ているだけで諦めればいいのよ!」
「何よ小娘!生意気よ!疫病神にあれこれ言われる筋合いはないわ!黙んなさい!」
とうとうどちらからともなく掴み合いになった。
「―――――ちょっと……ジェン…‥」
「手を出さないで!この女には口だけじゃ分からないのよ!懲らしめてやらなきゃ!」
「なによ!返り討ちにしてやるわ!」
そして派手な掴み合いや、掃除用具などの武器を持った大げんかとなった。
「これは戦いよ!悪い女から自由恋愛の権利を奪い返すのよ!止めるんじゃないわ!」
そしてこの戦いは護衛騎士達や掃除婦長などが止めに入るまで続いた。
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