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第十五話 兄の条件
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しおりを挟む『実は数日前、ロレイア王国の皇子から親書が届いたんだ。ぜひ、ティア姫に王国を見て欲しい事と、王がぜひ皇子の友人の姫にご挨拶したいと』
聞いた姫は憤慨した。
「友人?ふざけんじゃないわよ、下心ありありじゃない!誰が行くもんですかあああああっ!」
「でも君がまいた種だよね?一国の姫として大国の王にご挨拶くらい出来るだろう?それに私との約束は約束だし」
ニコニコと柔らかい笑みを浮かべた皇子はぐさりと姫に止めを刺した。
「最初から拒否権は君にはないよ?」
「酷いわ酷いわ!皆して意地悪して!兄と言い姉と言い、そんなに私をどこかに嫁がせたいわけ?そんなに私が邪魔なわけ?」
「………」
「何よ大国の親書がなんだというのよ?何が友人よ!何時からそんなに仲良くなったのよ?あの男、許せないわ!」
「……」
「何が友人よ?意味が分かんないわ!皇子の友人にご挨拶?何なのよ、そんなに暇なのロレイアの王様は?馬鹿じゃなくて?」
「………」
ロレイア王国へ行く馬車の中で始終ティア姫がわめいていた。
全く往生際の悪い姫である。
姫の乗る馬車を守りつつ馬で同行するのは二番隊騎士五十数名。馬車に中で喚いている姫の声を聞きつつ黙って先に進んでいる。
姫の乗る馬車とあって国と国との境にはロレイアの騎士が迎えに来てマルスの騎士と合流するのだがその間三日は二番隊だけの護衛なので気は抜けない。
外敵の事もあるがティア姫の脱走も考えられるので始終馬車の内外に目を配らねばならない。
なんだか囚人の護送の様だが、間違いなく姫の警護である。
国を出るまでの逗留先は各街の貴族の領主の屋敷だ。国を出てからの逗留先はロレイアのスティア皇子が選んでいてくれるらしい。
ともあれ東の隣国ロレイアの城へ行きつくまでの予定は早くても十日弱。長旅である。
「何よルウドのバカバカバカバカバカ!」
まだマルス城を出たばかりなのに馬車でじっとしてるのが苦痛なのか、ティア姫は怒って暴れている。
馬車に揺られて疲れるだろうに暴れたらますます疲れるだろうが誰も姫に声を掛けなかった。ほっておけば嫌でも疲れて大人しくなるに違いないので。
ほどなくして姫は馬車の中で静かになった。
初日の逗留先である伯爵家に着いた頃にはもう、馬車の中でぐったりして半分眠っていた。
姫が来るという事で喜んで入口で出迎えていた伯爵家の屋敷の方々は動かない姫を見て少々肩を落としていた。
「申し訳ない、馬車の旅に慣れていないもので」
何故かルウドが謝り、用意されていた部屋にティア姫を運んだ。
後は侍女に頼み、ルウドは部屋を出る。
なんだか先行きが不安だ。
翌朝、姫は不機嫌だった。また馬車に乗らねばならないと思うと気が重いのだろう。
伯爵家朝食の席でぐずり出した。
「ルウド、もう城へ引き返さない?」
「引き返しません」
「そうだ、急ぐ旅でもないんですもの、しばらくここで休んでいきましょうよ?伯爵、いいでしょう?」
同席している伯爵一家がにこやかに笑う。
「勿論ですとも、我が家はどれだけ滞在していただいても構いませんよ。姫様に滞在していただけるなんて光栄の極みです」
「伯爵さま、申し訳ありませんが急ぐ旅です。帰路の際にはお願い申し上げるかもしれませんが」
壁に立つルウドが容赦なく言い放ち、ティア姫があからさまにげっそりした顔をした。
「ルウド、馬車はもういや。馬に乗せてよ」
「馬の方がもっと揺れますよ」
「ルウドに乗せてよ」
「嫌です、私だって疲れるのですよ」
「けち」
「……」
その後何度かそのような会話が繰り返されたが結局ティア姫は馬車に押し込められ出立した。
隣国へ向かう道すがらに何度か脱走を目論まれたが、それは最初から予想の内だったのであっさり阻止できた。
しかし長旅での姫の警備護送は旅慣れしていない二番隊もかなり疲弊し、他国の警備隊と合流する頃には随分くたびれてしまった。
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