意地悪姫の反乱

相葉サトリ

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第十五話 兄の条件 

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 ロレイア王国の皇子達は専属の騎士団を持っている。普段は各皇子達の周辺の警備や警護に着く彼らは皇子の命によってさまざまな働きをする。
 皇子一人に着き大体五十名前後。王子誕生の際に与えられる皇子を守る最強の盾である。
 その人選は皇子の幼いうちは王や王妃や周囲の官僚たちによって決められるが十五の年からは自らそれを選ぶことが出来る。
 自分の身を守る盾なのだから自分で信頼出来るものを置くのは道理であり、その最強の盾を見れば皇子の度量も窺えるという王族の考えである。
 現在八人いる皇子は競って強い盾を造ろうと尽力している。
 その皇子の一人、スティアは正妃の次男として生まれた平平凡凡とした正真正銘のお坊ちゃまである。特に他よりも突出した所はなく、貪欲さは誰よりも欠ける。
 誰の目から見てもただの好青年にしか見えない人だ。
 しかし昨年、この彼が珍しい事を王に願った。

『マルス国の白薔薇姫様にお会いして、求婚する権利を頂きたい』

 小国マルスは王族も自分で相手を選ばねばならない大変な国である。出会って、恋をして、婚約、結婚となる。
 噂高い姫にはその権利が欲しいと入国希望する皇子が沢山いるらしいが何故か出会う事も難しいと専らの噂である。
 そんな姫に平凡な彼など目に入るわけもない。
 王も王妃達も皇子達ですら、彼を生温かい目で見つめその要望を笑って許した。
 期限付きという条件と、見込みがなければ政略結婚を受け入れることを条件にである。
 皇子の騎士団でさえ彼に哀れな視線を向けて隣国へ向かう彼を生温かく見送った。
 そして数ヵ月後、彼はそれなりに成果を持って国へ帰ってきた。

「ええと、お会いしてお話はできました」

「なにっ!それはでかしたそれで何と?」

「ええと、求婚の意思は伝えました……」

「それで姫は何と言われたのだ?」

「その、まだそこまでは。話す程度で。名前を覚えていただけただけましだと…‥」

「三月以上も何をしておったのだ!まどろっこしいな!」

「ほとんど捜し回っていました。見つけたのが奇跡と言うか……」

「うーわー!何たることだ!しっかりせんかスティア!縁があったのならその縁を切ってはいかん!まずは友人から始めるのだ!手紙を書け!我が国に招待するのだ!」

「え、そんな父上。まだ姫を呼び付けるような仲では。嫌われたらどうするのです?」

「お前は積極性が足らん!そんな事をいちいち考えていてはまともな関係が築けんぞ!当たって砕けろ!」

「ええっ?そんな……砕けたら終わりじゃないですか……」

 スティア皇子は手紙を書いて出した。そして喜んで訪問させて貰うとの返答に皇子は信じられない様子で絶句していた。

「ひっ、ひひひひひひひ、姫が来る!ティア姫が!来る!」

 国境沿いまで姫を迎えに行く精鋭騎士隊二十名を見送る際、スティア皇子は喜んでいるのか怯えているのかよく分からない様子だった。

 ―――全く、これだからスティア皇子は油断ならない。

 誰もこんな結果は想定していなかった。帰還前にはどうやって彼を慰めようかと騎士団内で話し合っていたほどだった。
 現在、国境沿いに着いた騎士隊は姫を心持緊張しながら待っていた。
 スティア皇子の奇跡がなければ一生見える事のない噂高いお姫様である。

 マルス国の騎士隊は予定より半刻遅れてようやく合流した。長旅のせいか彼らは何だかやつれて見えた。

「はじめまして、私はマルス国二番隊騎士隊長ルウド=ランジールと申します。道中よろしくお願いします」

「はい、私はスティア皇子の専属騎士隊隊長フレイ=コンボートです。ここまでの道中で何か問題がありましたか?」

 握手を交わし、なんだか疲れている様子の銀髪の騎士を見る。マルスで銀髪は珍しい、というかどこの国にも銀髪は余り見られない。

「いいえ、何事もなくここまで来ることができました」

 なんだか言い方が引っ掛かったが彼が笑ってそう言うので頷いておいた。

「とにかくここまでお疲れでしょう、今夜の宿に向かいましょう、すぐ近くに用意してあるのですよ」

「それは嬉しいです、なにぶん馬車での長旅は姫も慣れていないもので」

 白薔薇姫様が乗っているはずの馬車は騎士隊の注目の的になっていたが中からの反応は窺えなかった。

「……中に居られますよね?」

「居りますよ、大丈夫です。脱走を図らない様に六方から見張って数刻ごとに中を確認しているのですから。これよりは人数も増えることですし、私が直接中でしっかり見張りますから」

「………姫様ですよね」

「ええ姫様です、凶悪な囚人ではありませんよ。どうぞご安心を」

 ルウドはにこやかに笑って馬を下り、それを部下に預けて馬車に乗り込んだ。
 そしてすぐに馬車は動きだし、目的地へ進む。
 が、途次馬車の中から異様な叫びが何度も周囲に響き渡った。

「――――うわあああああ!やめて下さいいいっ、わああっ、そこはあああ!」

「きいいいいいっ!何時までこんなとこに閉じ込めてるつもりっ!呪うわ!呪ってやるわ!全人類滅亡よおおおっ!」

「わっ!やめてくださっ!そんなとこっ!噛まないでっ!生ものですよおおおっ!」

「許せない!爆破してやる!もう勘弁ならないわっ!」

「ひっひっ掻かないで!わあああっ、そんなとこ!正気に戻って下さいいいっ!」

「なによおおおっ!馬鹿ああああああっ!」

「………」

 ロレイアの騎士隊は皆馬車をちらりと見てからマルスの騎士隊達に疑問の目を向けたが彼らは黙して何も聞いていないふりを通していた。
 そして馬車の中の叫び以外は何事もなくすぐに目的の宿に行き着いた。



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