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第十五話 兄の条件
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しおりを挟む宿に着いて、姫を部屋に押し込めて護衛を数名張り付かせてから、隣国の騎士達と食事の席で交流を始めた。
一応まだ任務の最中なので酒を入れてはいない。料理を挟んでの話し合いである。
小国マルスの騎士達は姫を守る精鋭のはずだが堅苦しい緊張感はなく、何だか田舎特有ののんびりした空気がロレイアの坊ちゃん皇子の持つ雰囲気と似ていてロレイア騎士隊はすぐに好感を持ち打ち解けあった。
食事の席でフレイは隣のルウドに哀れな視線を向ける。
「……大丈夫ですか?大分お疲れのようですが?」
「平気です、いつものことですし。旅慣れない上、長々と馬車に揺られて大分ストレスがたまっていたようで」
宿に着いて馬車を出たルウドはボロボロになっていた。大人しくぐったりとなった姫を抱えて出てきたが、痛々しいことこの上なかった。
二番隊隊員はこの現状に誰もが目を逸らし、姫を見ようと注目していたロレイア騎士隊はボロボロになったルウドに注視する余り彼に抱きつきぐったりしている姫を見逃した。
しかしフレイは護衛対象として必要なので姫の顔は見た。顔色も悪く、疲れて動かない姫だったが確かに噂にたがわず美人ではあった。だがそれだけだ、性格までは分からない。
―――――一体あの馬車の中で何が…‥?
ルウド隊長の惨状と言い、とても普通ではないように思える。
「姫様の御様子は?」
「とてもお疲れで、軽い食事をとったら眠ってしまわれました。ご挨拶も出来ずに申し訳ない」
「いえ、姫様が我々にご挨拶など。勿体無い」
小国の姫さまだからか、どうもあのぞんざいな扱いといい高貴と言うより意外に気さくな姫様の様だ。
ロレイアの姫様は高貴すぎて姿すらほとんど見られない。気軽に下々の騎士などにご挨拶どころか口を聞くことすらあり得ない。
そもそもルウド隊長が姫を抱えて馬車から出てきたとき、ロレイアの騎士は皆目を疑った。
あれが本当に姫様なのか?と疑いの目を向ける者もいる。
しかし皇子の招待で訪問するのに偽物をわざわざ寄こすとも考えづらい。皇子と見えれば正偽などすぐ分かるのだから。
警備隊達が交流を図っている頃、姫は起きていた。
「もういやよ、我慢ならないわ」
馬車での旅は本当にきつかった。外は見えないしひたすら揺れるしただ座っているだけでやる事もないし。苦痛でしかない。
しかも二番隊は姫の脱走を警戒してけして目を離さず隙がない。
脱走してもすぐに捕まる。今回彼らの手から逃れるのはかなり難しいと思われた。
しかし今日やっと、ロレイアの警備隊と合流し、ルウド以下二番隊は少なからず安心したことだろう。今頃和気あいあいと交流を図っている。
逃げるなら今を置いて他はない。
「ジル、協力なさい。ロレイアの騎士を一人捕獲してくるのよ。出来るだけ若くて馬鹿そうなのがいいわ」
「姫様、幾らなんでもここは他国です、護衛もなく飛び出すなど危険です」
「だからロレイアの騎士を連れていくのでしょう。案内がいなきゃ私だって一人で行けない事くらい分かってるわよ」
「なら皆で行きましょうよ?なにも分かれて行動することないでしょう?多勢の方が楽しいですよ?」
「私は楽しくないわ。馬車に押し込められてもううんざりよ。外を歩きたいのよ。反対するなら置いていくわよ。私は一人でも行くんだからね」
「……分かりました」
ジルはすぐにロレイアの騎士を捕獲してきた。
若くて軽そうな二人である。
「……早かったわね」
「姫様がお呼びと言えば誰もが大喜びで駆けつけるに決まっています」
「……そう」
ともあれ赤毛と黒髪のロレイアの紋章を付けた騎士を見ると二人はぴしりと恐縮した。
「あなた方、街に詳しくて?」
「えっ、それはもう、生粋のロレイア国民ですから」
「そう、なら騎士団の裏をかける道も知っているわね?」
「えっ、それは一応、騎士団に所属していますから」
二人は困惑の態で顔を見合わせる。
「……あの、姫様、何のお話で?」
「いますぐここから脱出するのよ。二番隊がロレイアと楽しく交流して気を抜いている今が好機なのよ」
「そんな我々困りますよ。ここから姫を護衛する為に来たのですから」
「すればいいじゃない、だから呼んだのよ。私別に城に行かないって言ってるわけじゃないのよ。馬車が嫌なだけ。だから歩いていくの。歩きに多勢の護衛はいらないわ」
「………」
「反対したって私は一人でも行くわよ?その方がロレイア的にはとてもまずいわよね?それでいいならほっておけば?」
「そんな、今すぐその脱出計画を隊長に報告すれば止められますが」
「そんな事をさせる訳がないでしょう?」
「へえ?口先だけでは止められはしませんが?」
黒髪の男が挑戦的にティアを見る。
「何よ、止める方法が知りたいの?出来るだけいらない手間はかけたくないから直接交渉しているのに。頭悪いわね」
「……‥」
「ええとその、お二人とも。良く考えてみて下さい、姫様と旅など滅多に出来ることではありませんよ?護衛と案内ならお二人で十分に事足りるでしょう?通常なら言葉を交わす事すら難しい相手なのですから。ちゃんと目的のお城に辿り着けば問題ないのですから役得だとは思いませんか?」
二人は迷う様にジルを見つめる。
「……しかし後が怖いしなあ…」
「私もちゃんとフォローいたしますから」
「あんただって叱られるだろ?いいのか?」
「私は常に姫様の味方ですので」
「……」
ティアは既に旅支度を整え、ぐずぐずしている二人を睨む。
「グズグズと締まらないわねえ。はっきりしないならもういいわよ!その辺にその二人転がしてもう行くわよ!代わりなんてどこかで拾ってくればいいんだから!」
「ひひひひひ、姫っ、お待ちをっ!あなた方、同行するでしょう?すると言って下さい今すぐっ!」
「……‥分かったよ。行くよ」
二人はしぶしぶ頷いた。
「ならさっさと準備して街門の方で待っていなさい。私達は替え玉を準備してからすぐに行くから」
「……替え玉…」
「時間稼ぎよ、ロレイアの騎士さん、名前は何と言うの?」
「赤毛がレグラス、黒髪がリルガです」
「そう、私はティアよ、急いでね?」
ティアは部屋の隅に隠しておいた替え玉を引きずり出してジルと共にベッドに寝かせて寝台を整え始める。
何だか見おぼえのある金髪を見なかったふりをして二人は部屋を出て行った。
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