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第十五話 兄の条件
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しおりを挟むルウドは少しばかり気が緩んでいた。
何しろ屈強な大国の騎士達と合流したのだ。姫を守り旅をするにあたりこれほど心強い味方はいない。人数も増えて幾分楽になる。
他国の騎士に会い見える事などなかなかない事だ。
城に着いたら色々な話を聞きたい。手合わせなどもお願いしたい。
あのロレイアの騎士隊長、フレイ=コンボートはマルスの社交場などにも時折名が出てくる有名な騎士である。
見た感じ穏やかな雰囲気を持つ彼だが、どことなく緊張感があり隙がない。
ルウド等及びもつかないほど強そうで、何だか彼の前にいると自分が騎士と言っているのが恥ずかしくなってくる。
しかし彼らは田舎騎士達に差別的な目を向ける事なく対等に友好的に接してくれる。
あの皇子の部下だけあっていい人達だ。実の所心配していたルウドは彼らに会って安心した。
ここから後三日前後、いい旅が出来る。
ルウドは機嫌よく定期的に姫の部屋の巡回をする。
「様子はどうだ?」
「静かに眠っておいでです」
「そうか、まだ数日我慢して貰わねばならないから。休める時にしっかり休んでもらわねばな」
姫のいる部屋の前で警備にそう言って、中を確認せずにルウドは立ち去る。
そして翌朝、何時までも起きてこない姫に業を煮やして部屋に入ったルウドによって、ティア姫の脱走が明るみに出た。
ベッドに金髪騎士の替え玉が縛られていたのを見てルウドは真っ白になった。
「……やられた」
「……ルウドさん…‥」
「フレイ殿、申し訳ない。姫に隙を突かれてしまった…」
「……まさか脱走なんて?無茶ですよ」
「無茶を押し通すのがティア姫なのです」
金髪騎士の縄を解いて起こすと彼は何故か怯え泣き出した。
「ひっ、ひひひひひひ姫が…!あああああ悪夢?悪夢?夢?嘘だあああっ!」
「こら落ち着けトール、何があった?」
ロレイアの騎士トールはフレイ隊長に縋りつく。
「たたたた隊長!お姫さまってあんなのですか?ああいうものですか?嘘だ!そんな筈はない!あんな恐ろしい魔女のような…!あああああああ!」
「…何だか知らんが失礼だぞ。落ち着け、泣くのはやめろ。きちんと話さんか」
「ルルルルルルウド隊長!嘘ですよね?嘘だと言って下さい!あれが姫であるはずがない!偽物ですよね?」
「……‥」
若い彼はお姫様に何らかの夢を描いていたらしく、あの悪夢のような事実に必死に目をそむけようとした。
「……済まない、あれは本物の姫だ。魔女の様だがその…‥、ほんとにすまない」
「う、わあああああああああ!」
一体何をされたのか想像もしたくないが、ルウドは彼にかける言葉もなかった。
フレイ隊長は困った顔で彼を見ながら話を進める。
「とにかく姫を捜さなければ。まさか本当に一人で外に出るとは考えにくいのですが?」
「護衛の騎士を連れていかなければ姫一人ではどうにもならない事くらい当人も分かっているでしょう。うちの者だけではこの辺りの地理に詳しくない。ロレイアの騎士も連れて行ったと思うのですが?」
「ではすぐに調べてみましょう」
フレイとルウドは騎士全員をすぐ招集し、いない者がすぐに明るみに出た。
「レグラスとリルガがいない。昨晩から姿が見えなかったから街で夜遊びしているものと思っていたのだが。あの二人か……」
「うちはジル一人です。連れていくならもう少し連れて行ってほしかった…」
「ルウドさん、あの二人も腕だけは確かですから護衛に関しては心配ないと思いますよ」
「……申し訳ない、姫の護衛の為にここまで来て頂いたのに。これでは騎士達の立場もない」
「そう気を落とさずに。すぐ見つかりますよ?姫の足でそう遠くに行けるはずはない。姫の出奔が表沙汰になっては困りますから姫の護衛班と捜索班の二手に分かれましょう」
「はい。こちらの地理に詳しいロレイアの騎士と、姫の顔や行動を知る二番隊と組んだ方が見つけやすいですね。すぐ編成して捜索させましょう」
騎士達に姫脱走のいきさつを話すとロレイアの騎士は悔しがった。
「くそう!レグラス、リルガ!許せねえ!抜け駆けかよ信じられねえあの遊び人ども!」
「お姫様を唆して連れ出しやがったな!何たることだ!」
「信じられねえあの野郎ども!俺まだ姫の顔すらまともに見てないのに。仲良くなろうなんていけ図々しい!」
まだティア姫を知らない彼らは大層怒り狂い、マルスの騎士を連れて勢いよく捜索に向かった。
事実はどうであれあの勢いならすぐにでも見つかりそうだとルウドは思った。
そしてその日、表向きは予定通りに姫をのせる筈の馬車は宿を出て城へと出立した。
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