108 / 200
第十七話 伝記作家フレデリック=ネオ
2
しおりを挟むロレイアの図書室は大きい。大広間の部屋の天井に着く高さの書棚があり、本が隙間なく埋まっている。この図書室が十室あるという。
「欲しい本があったら管理人が居るから聞くといい。これだけ広いと捜すのも大変だから、大抵管理人に捜して貰っているのだけどね」
「……よく見つかったわね、魔女ロヴェリナの文献なんてうちでどれだけ捜しても歴史書すら見つからなかったのに」
「うん、彼女については謎が多いんです。出生地も移住地もはっきりしない。ただ世界を滅ぼした魔女として私の見つけた文献には書かれていた。それだけなんですけど」
フレデリックはティアにその文献を渡し、姫はそれをパラパラと確認する。
「その一文です、姫」
「―――ちょっと………なによこれ?」
ティア姫はじろりとフレデリックを睨みつける。
「『魔女ロヴェリナは自らの魔力の全てを使いただの一国だけではなく世界を滅ぼしてしまいました。』……この一文?この一文だけ?たったこれだけであんな話書いた訳?」
「ま、魔女の一文はそれだけですがその文献を読んで想像力が掻き立てられまして」
「おかしいわ。この一文を捜し出すのだって大変なはず。最初からこの名前を知らなきゃ見つけられないわよね?」
「……ま、参ったな…‥」
フレデリックはにが笑いつつ姫を見る。
「実は捜し物をしているのです。簡単に捜せるものではないですが。それに関わるのがその魔女なのです」
「何捜しているのよ?」
「はるか大昔、世界を一瞬で変えてしまったという石です。過去何人もそれを捜しても結局見つからなかったという代物ですが」
「……無理なんじゃない?」
「確かにあった物が一瞬で消える筈はないでしょう?その魔女がどこかへ隠した疑いも一部では囁かれています。そういう小さな情報をかき集めて手掛かりを捜すという作業を昔から何人もの人が行っているわけです。おもに、歴史家、冒険家、伝承作家、考古学者、そんな人たちですね」
「…それはご苦労な人たちね…、無いものを捜すって大変な事でしょうに」
「姫は分かって下さるのですね。普通の人達は理解できずに無駄だと一蹴するのですが。姫も何か捜し物を?」
「捜しているわ。何処かにあるはずだと知っているから。私の人生の中で見つかるといいけど」
「何を捜しているのか、聞いても宜しいですか?」
「魔女ロヴェリナ」
「……姫はその名をどこから知ったのですか?」
「うちの城にあったの。最初の一文を読んでとても気になったわ。私が見つけたのだから私が捜さなくてはいけなの。でなければ歴史に埋もれて忘れられてしまう」
「魔女の記述書ですか。それはとても興味深い。ぜひ私にも見せていただきたい」
「古代文字よ?読めやしないわよ?」
「それは真実性が高い。私古代文字の解読にも携わっていまして少しは読めます」
「どちらにしろ無理ね。城から出せないし今行方不明だし」
「な、なぜ行方不明なのですか!その記述書が本物なら大変貴重な書物ですよ?欲しい者が見たら幾ら積んでも欲しがる逸物ですよ!」
「うちの者に取り上げられてしまったのだから仕方ないわ」
「……そんな…」
がっくり肩を落とすフレデリックの傍でティア姫は本棚を見渡す。
「まあそっちはいいわ。とにかく折角ここに来たのだからここでも洗いざらい調べさせてもらう事にするわ。こんなに本があるならどこかに記述がある筈よ。これは大変ね」
「私もお手伝いいたします。あなたの研究が私の捜し物の手がかりにもなる。管理人にも頼んで、あと人手を募りましょう」
「まあ、それはとても助かるわ」
スティアが姫の居る図書室へ赴くと、そこではもう大掛かりな作業が始まっていた。
騎士やメイドや通りがかりの通行人だかが作業に加わり図書室の管理人の指揮のもと、目的の書物を捜している。それらしい書物は姫のいる書斎に送られ、姫は一冊一冊検閲している。
「……ひ、姫、一体何を?」
「あらスティア、図書室全部くまなく利用させていただくわよ?」
「えっ、それは構いませんが。捜し物で?」
「そうよ、まんべんなく捜し続けるわ。私当分ここにいるから食事時だけ呼びに来てちょうだい」
「……そんな、一部屋十万冊はある図書室で。無茶ですよ?」
「出立までにどれだけ調べられるかしら。まあ時間の許す限りやるだけやるわ」
「………」
スティアは後ろにいた二人の騎士、ルウドの方に懇願の目を向ける。
まだ姫に城案内すら終わっていない。まだ沢山見せたい場所がある。
それに自慢の馬に乗って姫と散策とか言う夢とか。
「……ル、ルウド………」
「……図書館はちょっと、まずかったかも知れません。目的が見つかるとそれしか見えなくなる姫ですからねえ……」
「そんな……」
「こうなれば早く目的の本が見つかる事を祈るしかないですね」
「ルウド、何でそんなにさっぱりしてるのさ?まさか私と姫の交友に不満が?」
「違います、姫が何かに夢中の時は問題が起こらなくて楽なんですよ」
「……そんな……」
スティアは落胆した。こうなればもう姫の捜し物捜しに協力するしかない。
0
あなたにおすすめの小説
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
迎えに行ったら、すでに君は行方知れずになっていた
月山 歩
恋愛
孤児院で育った二人は彼が貴族の息子であることから、引き取られ離れ離れになる。好きだから、一緒に住むために準備を整え、迎えに行くと、少女はもういなくなっていた。事故に合い、行方知れずに。そして、時をかけて二人は再び巡り会う。
転生令嬢はやんちゃする
ナギ
恋愛
【完結しました!】
猫を助けてぐしゃっといって。
そして私はどこぞのファンタジー世界の令嬢でした。
木登り落下事件から蘇えった前世の記憶。
でも私は私、まいぺぇす。
2017年5月18日 完結しました。
わぁいながい!
お付き合いいただきありがとうございました!
でもまだちょっとばかり、与太話でおまけを書くと思います。
いえ、やっぱりちょっとじゃないかもしれない。
【感謝】
感想ありがとうございます!
楽しんでいただけてたんだなぁとほっこり。
完結後に頂いた感想は、全部ネタバリ有りにさせていただいてます。
与太話、中身なくて、楽しい。
最近息子ちゃんをいじってます。
息子ちゃん編は、まとめてちゃんと書くことにしました。
が、大まかな、美味しいとこどりの流れはこちらにひとまず。
ひとくぎりがつくまでは。
崖っぷち令嬢の生き残り術
甘寧
恋愛
「婚約破棄ですか…構いませんよ?子種だけ頂けたらね」
主人公であるリディアは両親亡き後、子爵家当主としてある日、いわく付きの土地を引き継いだ。
その土地に住まう精霊、レウルェに契約という名の呪いをかけられ、三年の内に子供を成さねばならなくなった。
ある満月の夜、契約印の力で発情状態のリディアの前に、不審な男が飛び込んできた。背に腹はかえられないと、リディアは目の前の男に縋りついた。
知らぬ男と一夜を共にしたが、反省はしても後悔はない。
清々しい気持ちで朝を迎えたリディアだったが……契約印が消えてない!?
困惑するリディア。更に困惑する事態が訪れて……
事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~
水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」
第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。
彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。
だが、彼女は知っていた。
その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。
追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。
「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」
「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」
戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。
効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。
お前が欲しくて堪らない〜年下御曹司との政略結婚
ラヴ KAZU
恋愛
忌まわしい過去から抜けられず、恋愛に臆病になっているアラフォー葉村美鈴。
五歳の時の初恋相手との結婚を願っている若き御曹司戸倉慶。
ある日美鈴の父親の会社の借金を支払う代わりに美鈴との政略結婚を申し出た慶。
年下御曹司との政略結婚に幸せを感じることが出来ず、諦めていたが、信じられない慶の愛情に困惑する美鈴。
慶に惹かれる気持ちと過去のトラウマから男性を拒否してしまう身体。
二人の恋の行方は……
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
とめどなく波が打ち寄せるように
月山 歩
恋愛
男爵令嬢のセシルは、従者と秘密の恋をしていた。彼が従者長になったら、父に打ち明けて、交際を認めてもらうつもりだった。けれども、それを知った父は嘘の罪を被せて、二人の仲を割く。数年後再会した二人は、富豪の侯爵と貧困にあえぐ男爵令嬢になっていた。そして、彼は冷たい瞳で私を見下した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる