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第十七話 伝記作家フレデリック=ネオ
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しおりを挟むティア姫が捜し物に夢中になり始めたのでルウドは自由になった。姫の警備はロレイアの人達に任せておけば問題ない。
なのでルウドは暇を持て余した二番隊を訓練場へ招集した。
「折角来たのだから訓練しなければ。強そうな人がいっぱいいるぞ?頼めば何時でも相手して下さるそうだ。是非行かねば!」
「えっ、そんな隊長。折角来たのだから遊びましょうよ?街に出たりとか」
「ロレイアの方々と友好を深めなければ。散策とか」
「騎士には訓練は不可欠だ。折角ここに素晴らしい強い人達が居るのに手合わせを願わなくてどうする。一人五人以上だ、それが済まねばここを出ることは許さんぞ?」
「そ、そんな……!」
マルスの騎士達は仕方なく散開し、様々なカラーを持つ騎士達に手合わせを願う。
あちこちで元気な声が上がっている。
「マルスの警備隊か。なかなかいいな」
「おやべリル皇子。おはようございます、見学ですか?」
ルウドの後ろの柵の外から皇子が覗いている。
「そうだ、今日はマルスの騎士が居るから賑やかだな。うちの騎士達も張り切っている」
「折角来たのだから訓練をと、ロレイアの騎士達にもお願いしたのですがお勧めの方とかおられますか?折角だから強い人達にお相手願いたい」
ベリルは柵の中に入り、辺りを見回す。
「今はあんまりいないな。うちで強いと言えば王の老兵ダンダリア、赤騎士ビビアン、黒の騎士ローリー、紫のフレイだがまあ彼らは任務があるからな。こんな朝から訓練場にはいないな」
「ええ?いつ行けばお会いできるので?せっかくなのでお会いしたいなあ、他国でも名が挙がる有名どころの騎士の方々に」
「見世物じゃないぞ。物見遊山か。お前だって騎士のくせに」
「すいません、国から出た事がないもので。話によく出るすごい騎士が身近にいると思うと舞い上がってしまい」
「やっぱり変な奴」
苦笑しつつルウドはベリルと二人で騎士達の様子を見守る。
彼らは文句や弱音を吐きつつもノルマの五人を達成しようと励んでいる。
見るからに弱そうな騎士を選んで手合わせを申し込んでいる者もいるが相手は見た目どおりと言う事はない。そもそもロレイアの誇りある騎士、他国の騎士に簡単にやられてたまるかという気追いがあるのでそう簡単には勝負がつかない。
「なかなかやるな、お前の騎士隊」
「強い騎士団が相手になって下さいますからいい刺激になっています。こんな機会はなかなかありませんから」
「強い騎士と手合わせするなら騎士の剣技大会があるぞ?カラーの騎士一人は皇子の期待を背負い、優勝目指す。別に皇子の推薦でなくても自由に参加できる。出てみたらどうだ?」
「いいえそんな、私などが…。でも見学できますね。楽しみだなあ」
「……見るだけじゃ面白くないだろ」
ルウドが騎士達の動きや周囲の状況を見まわしていると棍棒を持った少年が近づいて来た。
「ベリル!今日こそ勝負しろ!」
「全くしつこいやつだ」
ベリルが厭そうに吐き捨てる。
「……勝負して差し上げないので?」
「僕は向いていないって言ってるだろ。あいつは僕を叩きのめしたいだけなんだよ」
よってきたザカールは棍棒をベリルの前に捨てる。
「サッサと取れよ腰ぬけ」
「断る」
険悪な雰囲気の二人を見比べ、ルウドが口を挟む。
「ベリル皇子、無理でもやるだけやってみては?」
「僕は素人だって言ってるだろ?分が悪すぎる。怪我するぞ。余計な口を挟むな」
「………」
「ふん、全く駄目な奴。この俺様自ら鍛えてやろうと言っているのにこのありがたい申し出が受けられないとは。そんな腰ぬけに着く騎士なんかいないだろうなあ!」
わざわざ大きな声で言ってベリルをあざ笑うザカールにルウドは眉を顰める。
「皇子様らしくない、品がない」
「何だとお前!今何て言ったああっ!」
「あ、失礼……」
ルウドは滑った口を押さえた。しかしもう遅い。
「おまえ!何だよそ者が偉そうに!くそっ、ここの流儀を教えてやるっ、剣をとれええっ!」
「……‥」
言ったが同時にザカール皇子は棒剣をルウドに振り上げる。
すかさず棒を拾い彼の棍棒を討ち払ったルウドによって勝負は一瞬で着いた。
「くっ、くそううううっ!俺に勝ったからと言っていい気になるなよ!強い騎士を連れてきてお前なんかコテンパンに伸してやるううううっ!逃げるなよ、そこで待っていろおおおおっ!」
ザカール皇子は走り去って行った。
「…‥良かったじゃないか、強い騎士連れて来てくれるって。といっても赤騎士や黒騎士ほどの強剣は望めないが。それでもそれなりに強いから訓練にはなるぞ?」
「そうですか?部下の手前五人以上の手合わせでも自分より強い相手でなければ訓練に来た意味がないのですが」
「数こなせばいいだろ。中等度の騎士五十人切りとか」
「無茶を言われますね」
「それ位連れてくるだろ。どうせ同腹の兄に泣きついて騎士を借りてくるに決まってる。黄色の騎士だが大したことはない。お前も隊長なら一人で片付けられるだろ?」
「………ベリル様……」
「言っておくが僕は手を貸さないぞ。戦えないし。自分のまいた種なんだから自分で刈りとれ」
「……‥」
しばらくしてホントにザカール皇子が騎士を五十人ほど連れてきた。
騎士達はザカール皇子の命でルウドを取り囲む。
「この俺を愚弄した馬鹿に灸をすえてやれっ!」
ルウドが嫌な顔をする。
「チンピラですか?」
「チンピラだな、主が主なら、騎士も騎士だ」
ぼそりとベリルが相槌を打ち、冷やかにザカールと騎士達を見る。
「お、お前らああああっ、馬鹿にすんなあああっ!」
棍棒を持った騎士達が一斉にルウドに襲いかかった。
ほどなくしてルウドが騎士達五十人を叩き伏せた。
「有難うございました」
ルウドは礼儀正しく挨拶をしてからとっととその場を去った。
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