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第十七話 伝記作家フレデリック=ネオ
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しおりを挟むセラ王妃の昼食の席に呼ばれたティア姫はスティア皇子と共に明るい庭園の席へ足を運ぶ。
食事をとりながら近況などを話す。
「ホントに大きな牧場とか素敵な農園とか、楽しい所がありますね。とくあの大図書室、歴史を感じる大きな造りで。書籍にもうちでは見た事もない貴重なモノが沢山。調べ物には最適ですわ。遠慮なく散策させていただいてます」
「そう、それは良かったわ」
広いお城には魅力ある場所が沢山ある。森に、山に、湖に。
セラ王妃は微笑みながらこっそりスティア皇子を睨む。
―――――何故図書室なの?
スティアの案内不足である。もっと姫の興味を引きそうな場は山ほどあるはずだ。
女ごころが分かっていない。姫の扱いもいまいちだ。そんなことで姫を落せるのか。
王妃は密かにスティアに圧力をかけ続けた。
「そう言えば貴女の銀髪の隊長さん、すごく強いって噂になっているわね。何でも騎士五十人を纏めて倒したとか」
「……え?知りませんわ。何故いきなりそんな?」
「姫、ルウド隊長本日はフリーでしょう?騎士隊の皆で訓練場へ行くと言っていましたよ?訓練場で沢山のうちの騎士と相対したのでしょう?」
「……まあ訓練場なのだからそうなのだろうけど。そんな事で噂になるの?」
「うちの強い騎士を倒したら噂にはなると思いますが…?」
「スティア、でもそんな話だったかしら?何か隊長さんに喧嘩を仕掛けられたとか何とか?」
「……母上、どこで手に入れた話です?」
「さっきクライブが面白そうに話していたのよ。ルアンの騎士が全員纏めてルウド隊長に打ち負かされたって」
「……何しているのかしら彼?まさか何か問題を起こしているのでは?」
「まさか、ルウドさんに限って問題なんて起こす訳が」
「そうよね、ルウドですもの………」
騎士の訓練場で黄色の騎士五十人が一人のよそ者にコテンパンに伸された事はあっという間に皇子間にも騎士間にも広まった。
余所のカラーの騎士にも笑い物にされた黄色の騎士及びルアン皇子は当然はらわたが煮えくりかえっている。
「ザカール、そもそも他国の騎士に手を出そうなどと。軽率すぎる。何を考えているんだ?お前に私の騎士を貸したのが間違いだった。このままでは引き下がれなくなってしまったではないか」
「兄上!だってあいつがベリルの味方になって品がないだのチンピラだの言うから!」
ルアンは冷ややかに弟を見る。
確かに品がない。彼の下につく騎士などチンピラにしか見えない。
「ともあれどうしたものか、うちの騎士では歯が立たないのは実証されてしまったし。この際うちだけではないという事を実証して貰わなければ」
負けたのは黄色の騎士が弱かったわけではなく、あの隊長が強かったという証を。
そもそもたった五十人の護衛を連れて姫を守り他国からはるばるやってきた騎士である。そんなに弱い訳がない。
昼食後、ベリル皇子に付き合って牧場へ行く。
牧場には馬が居て皇子は皆一頭は馬を持っているという。
「僕の馬はよその皇子の馬には劣るがまあいい馬だぞ。綺麗だし」
馬は茶毛の綺麗な馬だ、まだ生まれて二年に満たない。
「いい馬ですねえ、手入れが生き届いている。綺麗だし」
馬を褒められてベリル皇子はまんざらでもない様子で馬を撫でる。
「まだ二歳だ、成長すればもっと早く走れる」
「そうですね。いいですねえ馬。うちの国にはこんな大きな牧場もないから馬を飼っても自由に走らせることも出来ない。ここは馬に窮屈な思いをさせなくていい」
「いざというとき役に立ついい馬を育てるのも国の仕事の一環だからな。城内だけでなくて国内のあちこちで馬の飼育が盛んでな、いい馬は国がいい値で買い取るから牧場主も張り切るんだ」
「なるほど」
ルウドとベリルが楽しげに馬の話をしていると後ろから掛け声がした。
「見つけたぞおおおっ!銀髪騎士!勝負しろっ!」
「―――ええ?」
見ると牧場の柵の外で棒剣を持った騎士達数十人が待っている。
「……訓練は終わったのでお断りします」
「こっちは終わってないんだ!そんな訳に行くか!よそ者にやり逃げされて許せるはずないだろう!」
「……やり逃げって……分かりました…」
ルウドは仕方なく柵の外へ出て、棒剣を拾う。
同時に騎士の十人程がルウドに襲いかかる。
勝負はすぐに着いた。
「こいつら青と緑の下っ端だな。それと援護の兵士」
ベリルは倒れている彼らを冷ややかに眺めまわす。
「この程度の兵力で、他国の隊長の首を取ろうなんてちょっとなめ過ぎじゃないか?それか頭が悪すぎるのか?ロレイアの皇子として恥ずかしいぞ」
「……‥」
「気分が悪い、不愉快だ。行くぞルウド」
「はい…‥」
もう見たくもないという様にさっさとその場を去るベリルに続いて、ルウドも倒れた騎士達を見捨ててその場を離れた。
ルアン皇子の部屋に負け犬が増えた。
青と緑の下っ端代表がザカールと共にやってきて遠吠えをしている。
「くそうううっ、あの銀髪騎士、どうやったら倒せるんだああああっ!」
「くそうベリルの奴ううっ!散々バカにしやがってええええっ!許せねえ!」
ルアンはウンザリした。
どうせこの件ももうすでに城内中の噂だろう。この手の噂は広まるのが早い城だ。
「そもそも隊長クラスでなければ適う相手ではないだろう。下っ端が何十人かかろうと相手にもならんのは最初の五十人で実証済みだ」
「じゃあどうすればいいんだ!」
「隊長クラスはどこも動かすのが難しいぞ。国の権威がかかっているからな。下っ端が隊長に泣きついても動くかどうか……、どころか怒られるだろ」
「くううっ、しかしこのままでは!このままでは!」
「王の騎士には言っても無駄だしな、子供の喧嘩に口は挟まない方針だし」
「ルアン様ああああっ!」
「……仕方ないな、あんまり気は進まないがカリフとフルードに進言してみるか。下っ端でもカラーの騎士がやられているし。興味は持つだろ」
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