111 / 171
第十七話 伝記作家フレデリック=ネオ
5
しおりを挟むルウドは農場で果物を御馳走になってから、ベリルと共に訓練場へ戻った。
するとルウドの部下二人が手をふって呼んでいた。
「……なんだ?」
「ルウド隊長おおおおおー、大変です―――ぅ」
「何がだ」
ルウドは部下の側に近づいた。するとどこからかわらわらとカラーの騎士達が現れた。
「済みません隊長、私達人質にされてしまいましたああああっ!」
カラーの騎士達がルウドの部下二人をガッチリ捕まえている。
「この二人の命が欲しければ言う事を聞け!」
「……別に……」
「別にって何ですかああああっ!隊長おおおおおおおっ!もっと深刻になって下さいよおおおおおっ!」
「お前たちこそもっと深刻になれ。緊張感がなさすぎる。そんな態度では連中とつるんで協力していると取られても仕方ないぞ?」
「そ、そそそそそんな…!」
「何だ、図星だったか」
「たたたたたた隊長!そこはオブラートに包んでください!相手の立場も考えて!」
「何で協力しているんだ?私は何も聞きたくないからお前達には自分で処理して貰いたいんだが」
「買収されたんですよおおおっ!泣きつかれたんですよおっ!頼まれたら断れないじゃないですかあああっ!」
「何だ、それじゃ仕方ないな」
青と緑の騎士達が肩を落とす。
マルスは隊長も隊員も呑気者だ。見ていたベリルが呆れる。
「それで、何だ?」
ルウドが厭そうに彼らを見ると騎士達は気を取り直して言う。
「勝負しろ!今回は一対一だ。うちの隊長が相手をする」
「……そうか、分かった」
彼らが指示した方へ行くと青と緑の隊長二人が待っていた。
「やあ、マルスの騎士どの、すまないねわざわざ」
「…いいえ、はじめまして。ルウド=ランジールと申します」
「私はカリフ皇子の緑の騎士隊長イリーブという」
「私はフルード皇子の青騎士隊長ラウルだ」
三人は握手を交わす。騎士隊長の二人とも筋肉質の体がでかくて見るからに強そうな人たちだ。
ルウドは何だか浮き浮きと楽しくなった。
「ルウド隊長には何やらうちの部下達が世話になったようで。いやあすまないね、理不尽な喧嘩を吹っ掛けられたのだろう?モノともされなかったみたいだが」
「お気づかいなく、訓練の一環として気にしていませんから」
「そうかい?それは良かった。しかしうちとしてはね、色々内情があってこのままにはしておけないのだよ、その、体面的にね?」
「分かります、大変ですよね、皇子様配下の騎士と言うのはほんとに」
「…うん、分かってくれて嬉しいよ。そう言うわけで、時間取らせて悪いけど勝負してね?」
「はい、喜んで!」
ルウドは一対一の勝負を喜んで受け、二人との対戦を心行くまで楽しんだ。
ルアン皇子の部屋に負け犬騎士達がさらに増えた。汗臭い黄色、青、緑の騎士たちで最早満員御礼である。
「……お前達、もういい加減にしてくれ」
そうはいってもルアン皇子とてこのままにはできない。
「相手を負かすどころか随分楽しまれてしまったよ」
「あの騎士強いよ、黒騎士レベルじゃ私達が敵う訳がない」
青と緑の隊長がなんだか嬉しそうに話している。負けて何を喜んでいるのか分からないが情けないことこの上ない。
「……もうどうしていいか分からないよ…」
このままでは収まりのつかないザカールも途方に暮れていた。
「全くどうしようもないな」
呆れた口調でベリル皇子が入ってきた。
「ベリル!何しに来やがった、呼んでないぞ!」
「いい加減他国の騎士に恥をさらすのはやめろといいに来たんだよ。ばか丸出しでこっちが恥ずかしくなる」
「なんだと!お前っ!」
ザカールは怒ったが、騎士達は全員黙った。
「むこうは友好目的で来てるのに、何だお前らは。その辺のチンピラみたいな振る舞いばかりして恥ずかしくないのか?強さを競いたいならもっと正々堂々とやれよ。彼らは別に頼まれれば拒まないだろ」
確かに頼まれれば拒まない。なのにわざわざ卑怯な手段を用いればこちらの品位が落ちるばかりだ。
「とはいえこのままにしておけはしない。正々堂々と戦うならもう手段は限られるな。騎士の体面を取り戻すために公で戦うしかない」
「剣技大会ですね」
「ルアン、しかし彼は出る気はなさそうだぞ?見学すると言っていた」
「それは困るな、何としても出て貰わないと。……仕方ないな、スティアに進言するか」
ルアンはスティアが苦手だった。あの捕え所がない皇子、だがやむを得ない。
マルスの騎士ルウド=ランジールの噂はすでに城内全てに浸透していた。
青と緑と黄色がやられたと噂になっている。
「ルウド隊長、ちょっと楽しみ過ぎじゃないですか?」
「さあ?経緯が分からないし」
薄紫の宿舎でスティアの騎士隊と隊長フレイが食事を挟んで談義中である。
客人マルスの騎士も何人かいる。
「……ルウド隊長、まさか何か問題を起してるのでは?」
「まさか、隊長に限って…。うちの隊長が強いって噂はまあ強いから有りだろう?」
「いやしかし、強いってだけでこんなに噂になるものかな?」
フレイ隊長が苦笑する。
「いや君たち、問題はそこじゃないよ。青と緑と黄色がやられたってことだね。他のカラーの騎士達の目もあるし。体面がねえ?」
マルスの騎士達は困惑する。
「もしかしてほっておいたのがまずかったのかも?」
「でもあの人ずっとベリル皇子と一緒だったし」
「今どこにいるんだ?」
「分かりません」
「……」
フレイ隊長は考える。
ここまで噂になってしまったらもうこのままでは済まされないだろう。
青、黄、緑以外の騎士達には笑いごとだろうが、皇子達には笑いごとでもないし騎士隊長達にもその火の粉が降りかかる。
黄色はともかく青、緑の隊長が負けたとあればその上が黙って笑って見ている訳にはいかない。
順番から言って次は薄紫のここになるが、ルウド隊長はうちの客人である。
「フレイ、居るかな?」
考え込んでいるとスティア皇子がやってきた。図書室で姫の手伝いをしていたはずだ。
「どうされました?」
「うん、それが。ルウド隊長は?」
「居りませんよ、おそらくベリル皇子の所では?随分仲良くなっているようで」
「そうなんだ。……いやなんか噂でね。ルアンから苦情が入ってね?」
「うわあああああ!申し訳ありません皇子!うちの隊長があああっ!」
マルスの騎士達だ。
「いやいいんだよ?ルウドさんも楽しんでくれれば。だけどこのままでは済まされないと言ううちの騎士達がね、次の剣技大会に出るようにと言ってる」
「なるほど、正々堂々と倒したいわけですね。私も興味あるなあ」
「うちの隊では基本強制はしないから。ルウドさんが嫌だと言ったら強制はできないよ」
「いやしかしロレイアの人達にご迷惑を掛けてしまって。ここはしっかり始末をつけて貰わなければ。皆で参加すると言えば隊長も断らないでしょう」
「そうだな、皆で参加するなら彼もするだろう、よし言知をとって来よう」
0
あなたにおすすめの小説
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
悪役令嬢の役割は終えました(別視点)
月椿
恋愛
この作品は「悪役令嬢の役割は終えました」のヴォルフ視点のお話になります。
本編を読んでない方にはネタバレになりますので、ご注意下さい。
母親が亡くなった日、ヴォルフは一人の騎士に保護された。
そこから、ヴォルフの日常は変わっていく。
これは保護してくれた人の背に憧れて騎士となったヴォルフと、悪役令嬢の役割を終えた彼女とのお話。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
おばあちゃんの秘密
波間柏
恋愛
大好きなおばあちゃんと突然の別れ。
小林 ゆい(18)は、私がいなくなったら貰って欲しいと言われていたおばあちゃんの真珠の髪飾りをつけた事により、もう1つの世界を知る。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
修道院パラダイス
羊
恋愛
伯爵令嬢リディアは、修道院に向かう馬車の中で思いっきり自分をののしった。
『私の馬鹿。昨日までの私って、なんて愚かだったの』
でも、いくら後悔しても無駄なのだ。馬車は監獄の異名を持つシリカ修道院に向かって走っている。そこは一度入ったら、王族でも一年間は出られない、厳しい修道院なのだ。いくら私の父が実力者でも、その決まりを変えることは出来ない。
◇・◇・◇・・・・・・・・・・
優秀だけど突っ走りやすいリディアの、失恋から始まる物語です。重い展開があっても、あまり暗くならないので、気楽に笑いながら読んでください。
なろうでも連載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる