126 / 171
第十九話 悪夢の剣技大会
4
しおりを挟む「そう言えばスティア皇子はどうしました?大会に出ているはずですよね?全くお見かけしませんが?」
クライブ皇子に聞くと彼は何故か顔を引き攣らせた。
「…ああ、ええと。初戦がすんだらまたすぐに宿舎に籠ってしまってね。優勝するまで訓練を続けるんじゃないかな………………‥?」
歯切れが悪い。どうしたのだろうか?
ルウドがふと第六競技場の方を見ると未だに対戦が続いていた。黒騎士隊長相手に意外にもしぶといポールである。
「やるなあ君の部下、どれ参考までに見ておこう」
クライブ皇子は第六の方へ行った。
ルウドは第八競技場に向かう。
「ベリル様、状況はどうなっていますか?」
「ルウド、フレイの方は終わったのか?」
「はい、フレイ殿の勝利で」
「まあ当然だな」
ルウドがフレイの対戦から目を離せないのでベリルは先に第八を見学していた。
第八競技場の対戦は赤騎士と緑騎士の対戦である。
「どちらも中級レベルだ。強いぞ。同等の腕を持つ相手とはいい勝負が出来る。なかなか見ものだぞ」
確かにいい勝負をしている。しかしなにかがおかしい。
「……集中力が散漫だな。何か心ここにあらずな。何かあったのかな?」
「そう言えば何か周囲の空気も変だったな」
「ちょっと前の試合の毒気に当てられてるんだよ、強烈だったからさあ…」
隣の見物人が教えてくれた。
「前の勝負とは?」
「スティア皇子と青の騎士だった。皇子がちょっともう…‥あれで。何と言うか…‥」
「何なんだ?」
「まあ見れば分かる。あまりお勧めしないが」
見物人が言葉を濁した。一体スティア皇子が何だと言うのか?
とはいえ剣技場の二人は互いに集中し始め、決着を付けるべく激しく打ち合う。
赤騎士の勝利で勝負は終わった。
ルウドは昼食を取りに騎士宿舎の食堂へ入った。食堂は薄紫とマルスの騎士達で一杯だった。
空いた席に座り、昼食を取りながらぼそりとルウドは聞いてみる。
「何人負けた?」
あたりは一気に静まり返った。
「…ジル、ロディオ、アイサ、ポール、マディアス」
「私勝ちました!青騎士に」
「私、負けてしまいましたが相手紫の精鋭ですよ?」
「私黄色の騎士で、勝ちました」
「私なんか黒騎士隊長ローリーだぞ?負けて当然すごいだろ?」
「何の自慢だ、私は紫に勝ったぞ?」
「……」
運の善し悪しが如実に出ている。
「残っている者は?」
「全部で二十三人です」
「そんなに負けたのか、これは本格的に鍛え直さないといけないな。罰ゲームは何にしよう?」
「ルウド隊長、私の相手黒騎士隊長ですよ?」
「私だって赤の精鋭だぞ?」
「私なんか黒騎士だぞ?」
騎士達がざわめく。
「―――黙れ、運も実力のうちだ。運がなくとも実力で押し切れるやつもいるんだ。がたがたぬかすな!」
騎士達は黙った。不満ではあったが確かに運のなさを実力でカバーしている者は居る。
例えばことごとく対戦相手が強豪であるがその彼らより上を行く実力で先に進む某隊長とか。
「ルウド隊長初戦黒騎士を一撃だったって話だぜ?」
「良く油断したよなその黒騎士。生きてんのか?」
「生きてるようだけど、黒騎士隊長に殺されるって話だぞ。生きた心地してないだろうな」
「負けた俺らも似たようなものだけどな…‥」
ひそひそ話す騎士達の声を聞き流しつつ、ルウドは昼食を取りながら考える。
罰ゲームが二十六人にもなるとは思っていなかった。幾らなんでもこの人数を一人で扱くのは大変だ。どうしよう?
「ルウドさん、バツゲームするって?厳しいなあ。ところでそれ、紫の騎士も混ぜてくれないかな?」
「フレイさん、いいんですか、助かります。人数が多くてどうするか考えていたのです。一緒に考えて下さい」
「うんいいよ、うちの訓練は色々あるからね。山とか谷とか崖とか」
ルウドとフレイは楽しげに話しだす。
その罰ゲームの内容を初戦負けした薄紫とマルスの騎士達は身が縮む思いで聞いていた。
0
あなたにおすすめの小説
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
悪役令嬢の役割は終えました(別視点)
月椿
恋愛
この作品は「悪役令嬢の役割は終えました」のヴォルフ視点のお話になります。
本編を読んでない方にはネタバレになりますので、ご注意下さい。
母親が亡くなった日、ヴォルフは一人の騎士に保護された。
そこから、ヴォルフの日常は変わっていく。
これは保護してくれた人の背に憧れて騎士となったヴォルフと、悪役令嬢の役割を終えた彼女とのお話。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
おばあちゃんの秘密
波間柏
恋愛
大好きなおばあちゃんと突然の別れ。
小林 ゆい(18)は、私がいなくなったら貰って欲しいと言われていたおばあちゃんの真珠の髪飾りをつけた事により、もう1つの世界を知る。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
修道院パラダイス
羊
恋愛
伯爵令嬢リディアは、修道院に向かう馬車の中で思いっきり自分をののしった。
『私の馬鹿。昨日までの私って、なんて愚かだったの』
でも、いくら後悔しても無駄なのだ。馬車は監獄の異名を持つシリカ修道院に向かって走っている。そこは一度入ったら、王族でも一年間は出られない、厳しい修道院なのだ。いくら私の父が実力者でも、その決まりを変えることは出来ない。
◇・◇・◇・・・・・・・・・・
優秀だけど突っ走りやすいリディアの、失恋から始まる物語です。重い展開があっても、あまり暗くならないので、気楽に笑いながら読んでください。
なろうでも連載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる