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第十九話 悪夢の剣技大会
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しおりを挟む「対戦表を見ると隊長クラスが集まっているのが牧場の六、七、八競技場だな。薄紫の精鋭とマルスの精鋭も結構集まっているな。青、黄色の隊長や、クライブ皇子まで入ってるぞ。雑魚には興味ないが大者たちの勝負は気になるな」
「私も気になります。どうせ二回戦は午後からでしょうし、行きましょう」
「……ああ」
ルウドは呑気に牧場へ向かう。
ベリルは後を追いつつ不安になる。
いいのだろうかこんな呑気で?
ルウドのいる第三競技場には隊長や皇子などはいないがレベルの高い黒騎士、赤騎士達が集まっている。
ルウドの初戦の相手、黒騎士グレンも次世代の隊長と目される人物だった。
他にも王や皇子に注目される強い騎士達がゴロゴロ集まっているのだがそれを見もせずによそを渡り歩いていいのだろうか?
第三競技場はけして雑魚ばかりではない事を言った方がいいのだろうか?
しかしベリルは牧場に入ったとたんそんな瑣末事は忘れてしまった。
六、七、八が同時進行で怖い事になっていた。
大者と小者の実力が著しく違いがあれば勝負は瞬時につく。
やたら大者ばかりが固まっている競技場では実力差が明らかに見て取れ、勝負の進行も早かった。
牧場の競技場はすでに初戦の終盤になっている。
第六競技場一回戦最後の試合は黒騎士ローリーとマルスの精鋭ポールである。初戦からとんでもないくじを引いてしまった彼はすでに腹を決めて黒騎士に立ち向かっている。
――――――が。
「あっ!隊長!ルウド隊長見て下さい!私の相手黒騎士隊長ですよ、すごいでしょう!」
ルウドの姿を見たとたんポールは自慢げに泣きついてきた。
「ロレイア一の騎士ですよ!私などが勝てるはずもありません!」
「……ああそうだな、そんな相手と初戦から鉢合わせとはすごいな。大当たりじゃないか。死ぬ気でやればなんとかなるだろ」
「そんな隊長!初戦敗退の罰ゲームは許して貰えないので?」
「許さん。相手は考慮しない。赤騎士破った奴もいるんだ、甘えるな!」
「そんなああああああ!レベルが全然違うでしょう?隊長クラスですよ!私が勝てるはずありませんよおおおっ!」
黒騎士ローリーが半ば呆れつつ手を休めてポールを眺め、ルウドに向けて手を振って笑う。
「やあルウド隊長、うちの部下一撃で倒してくれたそうだね。弛んでいた部下を懲らしめてくれて有難う。お礼に君の部下にも手加減なしで行こうかな」
「ローリー殿、うちの部下はもっと弛んでいます。弛みきっています。このままでは国にも安心して帰れません。どうぞご存分に鍛えてやって下さい、国一番の剣技を彼に叩きこんでやって下さい」
「……厳しいんだね…‥」
ローリーはポールを見据え、構える。
「ルウド隊長、なんてことを!いやそれより私死んじゃいますよ!」
「死なん程度に頑張れ、何とかなるだろ」
「ひいいいいいい!」
「じゃ、行くよポール君」
ものすごい勢いで押し迫り、容赦なく斬撃を繰り出すローリーにポールは必死に応対する。
「ローリー様、私ごとき小者、手加減して下さいよ!勝負ならルウド隊長と!」
「そんな訳にはいかないな、頼まれちゃったし。謙遜するほど小者じゃないし君。手加減したらこっちがやられる」
「そんなあああああっ!」
ポールは存分に手加減なくローリー隊長に扱かれた。
結果的には負けたがローリーと対した経験は彼には大きな実になっただろう。
第七競技場は隊長同士の決戦が行われていた。薄紫と青の隊長だ。
ルウドはその対戦に着目した。
なにしろフレイ隊長の剣技をまだ見た事がない。余り人に剣技を見せたがらないらしい。
他国に噂になるほど強いとは聞いても実際どのくらい強いのか想像できない。
青の隊長ラウルは大ぶりで派手な剣技を見せる。しかも深くて重い。
その剣技を受けるフレイ隊長は軽々と流すように受けている。
「フレイは元々東方から来たやつだから剣技も独特なんだ。しかも自己流らしい。
その剣技がまたロレイアとは相性が悪くて対応しにくい。ロレイアの型が身についていない者が下手に相手をすると型を崩したりする。
だからこそ必要なのだがフレイはこんな時でなければ自分の剣技を見せたがらないんだ」
「今が貴重なんですね。うちでもフレイ隊長の剣技は珍しいです」
クライブ皇子が二人の対戦を見学がてら説明してくれた。
「そう言えば君はどこで剣技を覚えたんだ?」
「私はずっとマルスです。他国に来たのは今回が初めてなんです」
「じゃあ生まれはマルスなんだね」
「……ええ」
そうだったのだろうか?幼い頃マルスに来たのは覚えているがその前どこにいたかは覚えていない。
フレイの剣技を見つめながら考えてみるがあまり意味はない。
最初派手に剣を振っていたラウル隊長は軽々と剣を受け流すフレイ隊長に次第に押されてきた。フレイ隊長は剣を受け流すと同時に攻撃する。
大ぶりの剣を振るうラウル隊長は攻撃後隙が出来てしまう。その隙を突かれるとラウル隊長は弱いが何度もフレイと対決してきてなんとかその弱点も克服できている。
攻撃後すぐに下がるか、素早く防げばいいのだ。毎回フレイにやられているラウルはフレイ対応を万全にして大会に挑んでいる。
―――――しかし。
「君の悪い癖だよ、パターンの同じ攻撃はいけない」
フレイの攻撃を防いで再び攻撃に転じようとすると突然フレイの動きが変則的に変わり、手元から剣を打ち上げられてしまった。
「――――――一本!」
ラウルは苦々しく思いながら撃ち落された剣を拾う。
フレイの攻撃でも特に苦手なのがその予測の出来ない変則的な動きだ。型どおりの剣技を振るうラウルには頭で分かっていても中々身体が対応できない。
ラウルは間合いを取ってフレイの動きを探る。
「……悪いがまだ皇子の相手をせねばならなくてね、余り時間はとれないんだ。そちらが来ないならこちらから行かせて貰うよ?」
フレイは剣を逆手に持ちかえ、突然素早い変則的な動きで迫ってきた。
「―――――!」
防御の構えをしたがフレイには効かなかった。
「―――――――一本!フレイ隊長!」
またあっさり負けてしまった。
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