127 / 171
第十九話 悪夢の剣技大会
5
しおりを挟む午前中は図書室で調べ物をしていたティア姫も外のにぎわいが気になって昼食後には外に出た。外は沢山の騎士や兵士たちが居る。
訓練場詰め所で各競技場の組み合わせ表を貰って散策を始める。
二回戦がもう始まっている。
「ティア様、どなたか気になる騎士でも居られるのですか?強い騎士とか?」
競技場を見に行くと言ったらリリアナが一緒についてきた。
「うちの騎士達は、微妙ね。強いのかしら?良く分からないわ」
いつも騎士を虐めて泣かせているティアには余り強いというイメージがわかなかった。
「あっ、ティア様、見に来て下さったのですか?私二回戦もうすぐです」
いつもの不幸な彼が懲りもせずによってきた。
「初戦の相手は強い赤騎士だったのですが次は黄色の騎士ですよ。楽勝です」
黄色の騎士と言えばルウドに纏めて倒されたと有名なので弱いというイメージが付いてしまっていた。しかしそんな訳がない、彼らもロレイアの騎士なのだから。
「油断して負けたらルウドに殺されるわね。でもその前に私が縛りクビにしてあげましょう。たかが一回勝った位で浮かれてる馬鹿は願い下げよ。
―――あなた、無事にマルスに帰れるといいわね?負けたら絶対許さないけど」
「――――――!」
騎士は凍りつき、泣きそうな顔で姫を見る。
「ひひひひひひひひっ姫様……」
「小者の勝負に興味ないわ。ルウドはどこかしら?」
「…‥隊長は第三競技場です、試合は後半でしょうからどこかで見物しているのではないでしょうか」
「そう、分かったわ。貴方はせいぜいがんばることね」
ティアはリリアナを連れてとっとと先を進む。
「ティア様、いいのですかあの方の試合見なくて?」
「いいのよ、あれで十分脅しが効いているから」
「……」
第三競技場にルウドは居なかった。訓練場の隅々まで見回しても銀髪が見えない。
「一体どこ行ったのかしら?」
「ティア様、ルウド隊長に何か御用が?」
「別にないけど姿が見えないと気になるじゃない」
そうだろうか?リリアナは首を傾げる。
「あっ、ティア様」
ジルが嬉しそうにやってきた。
「私、一回戦勝ちましたよ。二回戦の相手は薄紫ですが頑張ります!」
「ああそう、頑張ってね」
「もうすぐ試合です、見て行って下さい」
「嫌よ」
にべもない姫にジルは笑みを引き攣らせる。
「姫様が見ていて下されば勇気百倍、そんなに時間は取らせませんから」
「私に試合を見て欲しいなら残り十人に入ることね。三日目の最後の試合はいやでも見る事になるわ。王族全員揃う席に同席するんだから。
ただし、そんな席で無様な試合してこの私に恥ずかしい思いをさせたら絶対許さないわ。置いて帰るからせいぜい黒騎士隊長にでも鍛えて貰いなさい」
「…………!」
ジルは笑みを引き攣らせたまま固まってしまった。
「ひひひひひ、姫、そんな事は、けして……」
「ところでルウド知らない?」
「……ここに居られないなら牧場の方かと。あちらは隊長クラスが固まっていますから…」
「そう」
肩を落とすジルを置いてティア姫は牧場へと進路変更した。
その間数人のマルスの騎士が姫に声をかけたがその度ティアは騎士達に脅しをかけた。
各競技場で二回戦が行われている。
とりあえず初戦に勝って気が緩んでいるマルスの騎士達がたるんだ試合をしているだろう事を予想したルウドだが彼らは何故か危機迫る勢いで相手に猛攻をかけていた。
「なかなか気合いが入っているな。いい騎士達だ」
昼食を終えて牧場競技場へやってきたベリル皇子に褒められた。
「ありがとうございます……」
しかし彼らの危機迫る勢いは何だろう?二回戦についてはルウドは何も言っていない。
何が彼らを駆り立てているのか?
それはすぐに知れた。
「ルウド!やっとみつけたわ!何してるのよ?私のとこにも来ないで」
「ティア様、今日は楽しい剣技大会ですよ?見なきゃ一生損じゃありませんか」
「……一生損て…そんな大袈裟な。少しくらい私を気にして頂戴。隊長のくせに他国の護衛任せってどうなの?」
「申し訳ございません。では姫様もご一緒に見学しましょう。うちの隊、結構頑張っていますよ?」
ティア姫は不機嫌な視線を試合中のマルスの騎士に向けた。
「―――――――ひっ!ひひひひひひひひひひいい!」
不幸にも一瞬姫と目が合ってしまったらしい騎士は突然奇声を上げ、狂ったように相手に剣を振いまくり、そして勝った。
相手の青騎士は彼の気迫と異常な奇声に圧倒されて負けてしまった。
「………」
ルウドは相手の騎士に同情しつつ、何も見なかったことにした。
「……ええと、姫様。こちらはベリル皇子です。初対面ですよね?」
ティア姫はベリル皇子に目を向けてさらに不機嫌になる。
「ああ、最近私のルウドに張り付いているって言う目障りな皇子ね。ルウドは絶対あげないわよ?」
「そんな事、お姫様に決める権限があるのか?どこへ行こうがルウドの勝手だろ?」
いきなり二人はにらみ合って火花を散らした。
「いい騎士が選べないからってルウドに目をつけんじゃないわよ、このヘタレ」
「何だと!たかが姫のくせに偉そうに何だ!嫁に行くしか能がないくせに!そんな口のきき方で嫁の貰い手があるのかよ!」
「剣も持てない軟弱者のくせに口先だけは一人前ね。馬鹿じゃないの?私だって剣くらい扱えるわよ」
「下手な嘘つくなよ、馬鹿馬鹿しい。嫌だねお姫様は、やたらお高くとまる割には何も出来やしない。黙って大人しくどこかの皇子に嫁いでさっさと騎士を開放してやれよ。他国に行ったらもう騎士は用済みだろうが」
「ルウドは絶対離さないわ!」
「あんたの意思なんか関係ないんだよ、分かれよ馬鹿姫」
「――――――あなた、私と勝負なさい!」
ティア姫がすかさずルウドの棒剣を奪って、その先を皇子に向けた。
「ひ、姫、おやめ下さい…」
「ルウドは黙ってなさい!許さないわこの子供!」
「子供って言うな!剣を扱えない事知ってて言うのか、卑劣な姫だな!」
「――――くっ、何にも出来ない非力な子供って口ばっかりで情けなくていい感じよね!
なら賭けをしましょう!私が勝ったらルウドになれなれしく近づかないで!下らない勧誘するんじゃないわよ!」
「いいだろう、じゃあ僕が勝ったらルウドは僕の物だな!それで何を掛けるんだ?」
「この試合、ルウドが優勝したら私の勝ちよ!」
「じゃあ僕は黒騎士ローリーだな、決めたぞ?訂正はないだろうな?」
「ないわよ!絶対ルウドが勝つんだから!」
「………ひ、姫…‥」
ベリル皇子は満足そうに鼻を鳴らし、去って行った。
ルウドは姫の後ろで固まっているリリアナ嬢と共に凍りついた。
「……そんな…‥、無茶な……」
何故だ?年頃も近い二人は結構仲良くなれると思っていたのに。
初対面でこんなに仲が悪くなるなんて思わなかった。
「ルウド、固まってるんじゃないわよ」
「……ひ、姫。何の冗談…‥?」
血の気がひいたルウドをティア姫は熱く見つめる。
「大丈夫よ、ルウド強いもの、絶対勝てるわ!頑張ってね。
優勝したらご褒美に私の熱いキスを進呈するわ」
「……」
この一件は遠巻きに見ていた観客達の口からあっという間に城内全土に広まった。
皇子と姫の賭けごと内容よりも、優勝者には姫の熱いキスという褒賞がより克明に、である。もちろんルウド限定のつもりで言った姫は慌てたが手遅れだった。
「……なんてことだ…‥」
ルウドはさらなる大きなプレッシャーを背にのせる羽目になった。
0
あなたにおすすめの小説
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
悪役令嬢の役割は終えました(別視点)
月椿
恋愛
この作品は「悪役令嬢の役割は終えました」のヴォルフ視点のお話になります。
本編を読んでない方にはネタバレになりますので、ご注意下さい。
母親が亡くなった日、ヴォルフは一人の騎士に保護された。
そこから、ヴォルフの日常は変わっていく。
これは保護してくれた人の背に憧れて騎士となったヴォルフと、悪役令嬢の役割を終えた彼女とのお話。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
おばあちゃんの秘密
波間柏
恋愛
大好きなおばあちゃんと突然の別れ。
小林 ゆい(18)は、私がいなくなったら貰って欲しいと言われていたおばあちゃんの真珠の髪飾りをつけた事により、もう1つの世界を知る。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
修道院パラダイス
羊
恋愛
伯爵令嬢リディアは、修道院に向かう馬車の中で思いっきり自分をののしった。
『私の馬鹿。昨日までの私って、なんて愚かだったの』
でも、いくら後悔しても無駄なのだ。馬車は監獄の異名を持つシリカ修道院に向かって走っている。そこは一度入ったら、王族でも一年間は出られない、厳しい修道院なのだ。いくら私の父が実力者でも、その決まりを変えることは出来ない。
◇・◇・◇・・・・・・・・・・
優秀だけど突っ走りやすいリディアの、失恋から始まる物語です。重い展開があっても、あまり暗くならないので、気楽に笑いながら読んでください。
なろうでも連載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる