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第十九話 悪夢の剣技大会
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しおりを挟む午前中は図書室で調べ物をしていたティア姫も外のにぎわいが気になって昼食後には外に出た。外は沢山の騎士や兵士たちが居る。
訓練場詰め所で各競技場の組み合わせ表を貰って散策を始める。
二回戦がもう始まっている。
「ティア様、どなたか気になる騎士でも居られるのですか?強い騎士とか?」
競技場を見に行くと言ったらリリアナが一緒についてきた。
「うちの騎士達は、微妙ね。強いのかしら?良く分からないわ」
いつも騎士を虐めて泣かせているティアには余り強いというイメージがわかなかった。
「あっ、ティア様、見に来て下さったのですか?私二回戦もうすぐです」
いつもの不幸な彼が懲りもせずによってきた。
「初戦の相手は強い赤騎士だったのですが次は黄色の騎士ですよ。楽勝です」
黄色の騎士と言えばルウドに纏めて倒されたと有名なので弱いというイメージが付いてしまっていた。しかしそんな訳がない、彼らもロレイアの騎士なのだから。
「油断して負けたらルウドに殺されるわね。でもその前に私が縛りクビにしてあげましょう。たかが一回勝った位で浮かれてる馬鹿は願い下げよ。
―――あなた、無事にマルスに帰れるといいわね?負けたら絶対許さないけど」
「――――――!」
騎士は凍りつき、泣きそうな顔で姫を見る。
「ひひひひひひひひっ姫様……」
「小者の勝負に興味ないわ。ルウドはどこかしら?」
「…‥隊長は第三競技場です、試合は後半でしょうからどこかで見物しているのではないでしょうか」
「そう、分かったわ。貴方はせいぜいがんばることね」
ティアはリリアナを連れてとっとと先を進む。
「ティア様、いいのですかあの方の試合見なくて?」
「いいのよ、あれで十分脅しが効いているから」
「……」
第三競技場にルウドは居なかった。訓練場の隅々まで見回しても銀髪が見えない。
「一体どこ行ったのかしら?」
「ティア様、ルウド隊長に何か御用が?」
「別にないけど姿が見えないと気になるじゃない」
そうだろうか?リリアナは首を傾げる。
「あっ、ティア様」
ジルが嬉しそうにやってきた。
「私、一回戦勝ちましたよ。二回戦の相手は薄紫ですが頑張ります!」
「ああそう、頑張ってね」
「もうすぐ試合です、見て行って下さい」
「嫌よ」
にべもない姫にジルは笑みを引き攣らせる。
「姫様が見ていて下されば勇気百倍、そんなに時間は取らせませんから」
「私に試合を見て欲しいなら残り十人に入ることね。三日目の最後の試合はいやでも見る事になるわ。王族全員揃う席に同席するんだから。
ただし、そんな席で無様な試合してこの私に恥ずかしい思いをさせたら絶対許さないわ。置いて帰るからせいぜい黒騎士隊長にでも鍛えて貰いなさい」
「…………!」
ジルは笑みを引き攣らせたまま固まってしまった。
「ひひひひひ、姫、そんな事は、けして……」
「ところでルウド知らない?」
「……ここに居られないなら牧場の方かと。あちらは隊長クラスが固まっていますから…」
「そう」
肩を落とすジルを置いてティア姫は牧場へと進路変更した。
その間数人のマルスの騎士が姫に声をかけたがその度ティアは騎士達に脅しをかけた。
各競技場で二回戦が行われている。
とりあえず初戦に勝って気が緩んでいるマルスの騎士達がたるんだ試合をしているだろう事を予想したルウドだが彼らは何故か危機迫る勢いで相手に猛攻をかけていた。
「なかなか気合いが入っているな。いい騎士達だ」
昼食を終えて牧場競技場へやってきたベリル皇子に褒められた。
「ありがとうございます……」
しかし彼らの危機迫る勢いは何だろう?二回戦についてはルウドは何も言っていない。
何が彼らを駆り立てているのか?
それはすぐに知れた。
「ルウド!やっとみつけたわ!何してるのよ?私のとこにも来ないで」
「ティア様、今日は楽しい剣技大会ですよ?見なきゃ一生損じゃありませんか」
「……一生損て…そんな大袈裟な。少しくらい私を気にして頂戴。隊長のくせに他国の護衛任せってどうなの?」
「申し訳ございません。では姫様もご一緒に見学しましょう。うちの隊、結構頑張っていますよ?」
ティア姫は不機嫌な視線を試合中のマルスの騎士に向けた。
「―――――――ひっ!ひひひひひひひひひひいい!」
不幸にも一瞬姫と目が合ってしまったらしい騎士は突然奇声を上げ、狂ったように相手に剣を振いまくり、そして勝った。
相手の青騎士は彼の気迫と異常な奇声に圧倒されて負けてしまった。
「………」
ルウドは相手の騎士に同情しつつ、何も見なかったことにした。
「……ええと、姫様。こちらはベリル皇子です。初対面ですよね?」
ティア姫はベリル皇子に目を向けてさらに不機嫌になる。
「ああ、最近私のルウドに張り付いているって言う目障りな皇子ね。ルウドは絶対あげないわよ?」
「そんな事、お姫様に決める権限があるのか?どこへ行こうがルウドの勝手だろ?」
いきなり二人はにらみ合って火花を散らした。
「いい騎士が選べないからってルウドに目をつけんじゃないわよ、このヘタレ」
「何だと!たかが姫のくせに偉そうに何だ!嫁に行くしか能がないくせに!そんな口のきき方で嫁の貰い手があるのかよ!」
「剣も持てない軟弱者のくせに口先だけは一人前ね。馬鹿じゃないの?私だって剣くらい扱えるわよ」
「下手な嘘つくなよ、馬鹿馬鹿しい。嫌だねお姫様は、やたらお高くとまる割には何も出来やしない。黙って大人しくどこかの皇子に嫁いでさっさと騎士を開放してやれよ。他国に行ったらもう騎士は用済みだろうが」
「ルウドは絶対離さないわ!」
「あんたの意思なんか関係ないんだよ、分かれよ馬鹿姫」
「――――――あなた、私と勝負なさい!」
ティア姫がすかさずルウドの棒剣を奪って、その先を皇子に向けた。
「ひ、姫、おやめ下さい…」
「ルウドは黙ってなさい!許さないわこの子供!」
「子供って言うな!剣を扱えない事知ってて言うのか、卑劣な姫だな!」
「――――くっ、何にも出来ない非力な子供って口ばっかりで情けなくていい感じよね!
なら賭けをしましょう!私が勝ったらルウドになれなれしく近づかないで!下らない勧誘するんじゃないわよ!」
「いいだろう、じゃあ僕が勝ったらルウドは僕の物だな!それで何を掛けるんだ?」
「この試合、ルウドが優勝したら私の勝ちよ!」
「じゃあ僕は黒騎士ローリーだな、決めたぞ?訂正はないだろうな?」
「ないわよ!絶対ルウドが勝つんだから!」
「………ひ、姫…‥」
ベリル皇子は満足そうに鼻を鳴らし、去って行った。
ルウドは姫の後ろで固まっているリリアナ嬢と共に凍りついた。
「……そんな…‥、無茶な……」
何故だ?年頃も近い二人は結構仲良くなれると思っていたのに。
初対面でこんなに仲が悪くなるなんて思わなかった。
「ルウド、固まってるんじゃないわよ」
「……ひ、姫。何の冗談…‥?」
血の気がひいたルウドをティア姫は熱く見つめる。
「大丈夫よ、ルウド強いもの、絶対勝てるわ!頑張ってね。
優勝したらご褒美に私の熱いキスを進呈するわ」
「……」
この一件は遠巻きに見ていた観客達の口からあっという間に城内全土に広まった。
皇子と姫の賭けごと内容よりも、優勝者には姫の熱いキスという褒賞がより克明に、である。もちろんルウド限定のつもりで言った姫は慌てたが手遅れだった。
「……なんてことだ…‥」
ルウドはさらなる大きなプレッシャーを背にのせる羽目になった。
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