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第十九話 悪夢の剣技大会
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しおりを挟む広まった噂を聞いたロレイアの騎士達は更に張り切った。
しかしマルスの騎士達はさらに緊迫し、怯え震えた。
「どう言う事だ?そんな馬鹿な?」
「何が起こったんだ?ありえない!」
そしていちいち騎士達を脅して去って行った姫が再び戻ってきて逐一説明した。
そして最後に恐ろしい命令を下していく。
すなわち―――――
「黒騎士ローリーを倒しなさい!共倒れでもいいから何としても倒してルウドを優勝させるのよ!」
既に姫も危機迫る形相になっていた。
もはや負けたらただ殺されるだけでは済まないだろうと騎士達は予想して震え上がった。
第三競技場二回戦第五試合。ルウド対赤騎士である。
競技場に入ったルウドと赤騎士に再び歓声が上がった。
しかしルウドは歓声の意味も分からず、ただ黒騎士ローリー戦の事で気が重くなっていた。目の前の赤騎士相手にローリー戦を考える。
「――――――始め!」
合図とともにルウドは素早く相手の間合いに入り容赦なく鋭い一撃を入れ、素早く下がった。
「……‥‥‥?」
赤騎士は動きもせずに倒れた。
そして周囲は初戦と同様、静まり返った。
何故だ?
納得いかない思いを抱いて柵を出るとクライブ皇子が嬉しそうに待っていた。
「やあルウド隊長、素晴らしいね。赤騎士の精鋭を一撃かい。君ならローリーも倒せそうだね?」
「クライブ皇子、これじゃ訓練にもなりません!ローリー隊長対策を取らねば勝てません!そもそも剣技すら見た事がないのに対策の取りようがない!」
「初戦は見ただろう」
「逃げ腰のポールとの試合では参考にならない。うちの姫を守らねばなりません」
「キスくらいいいじゃないか。私も張り切るよ」
「冗談じゃない、姫様ですよ!あれでも!一応!余所の男とキスなんてふしだらな事許しません!」
「へー、じゃあ君ならいいわけだ」
「ダメに決まっているでしょう!何考えてるんですか!」
「……やれやれ、それで黒騎士を本気で倒そうとする者が増えたわけだ。スティアは最初から死ぬ気で優勝狙ってるし、マルスの騎士達は黒騎士の優勝を阻止しようと必死になっているし、他の騎士達は姫の唇狙って張り切っているし」
「………」
「もちろん私も本気だよ。ますます白熱した試合になりそうだね。うーんでもあえて言えばフレイかなあ、あの黒騎士の剣に届きそうなのは。彼の剣技は独特だからねえ」
「……なるほど」
変則的なフレイの剣なら黒騎士に対抗できる。
しかしそんな独特の剣を即席で覚えられる訳もないし、むしろ自分の型を崩す恐れがある。ルウドでは無理だった。
「…‥そう言えばスティア皇子は?昔黒騎士やクライブ皇子に剣を習い、今はフレイ隊長に剣技を仕込まれている。一体どんな剣技を見せているんだ?気になりますね?」
クライブ皇子は何故か目をあさっての方向に向ける。
「……いやその、そうだ、ビビアンの試合を見に行ってみないか?奴も強いから参考になるよ」
「スティア皇子の方が気になります。ここ数日姿を見かけていませんし、一体どんな訓練を受けていたのか…‥?」
「いや見ない方がいい……」
「……上へあがれば嫌でも見る事になるでしょう?隠してどうなるのです?」
「それはそうか、しかし、あれはちょっと。兄としてあまり人に見せたくないと言うか…」
「何言ってるんですか。競技場は衆人監視の下じゃないですか。行きましょう」
「……うん…‥」
歯切れの悪いクライブ皇子を連れて、ルウドは第八競技場へ向かう。
第八競技場のスティア皇子の試合はもう始まっていた。
相手は黒騎士だ。しかし―――――
「……ええと、スティア皇子はどこに?」
「……あれだよ」
「……」
何だか赤黒いまだら模様のボロ雑巾にしか見えない。
皇子の金髪は煤けて赤黒く変色し、目が何だか死んでいる。
服がぼろぼろで赤黒い部分が全身にあり、死臭すら感じさせる雰囲気を醸し出している。
それだけでもう、相手の黒騎士が怯んでいた。
「―――――ひっ!」
ぼろ雑巾の目が光り、突如ゆらりと動いた。陽炎の様に浮かんでは消え、黒騎士に迫り剣を振るう。
黒騎士は何とか受け止めて相手の剣を振り払う。
ぼろ雑巾は変則的な動きで容赦なく黒騎士の急所を突きまくる。
黒騎士は異様に素早い変則的な動きについて行けず急所を突かれ、吹っ飛んだ。
「うっわあああっ!」
「―――――い、一本!」
誰もがその異様なぼろ雑巾に目が離せず、辺りは静まり返る。
しかし黒騎士はくじけず再び剣を取り、ぼろ雑巾に向かっていく。
ぼろ雑巾は黒騎士の剣をすべて受け流した。そして―――
「ぐあああああっ!」
「うわああああ!」
襲い来る不気味なぼろ雑巾にひるんで黒騎士は腰を落とし、ぼろ雑巾に肩を打たれた。
「――――一本!」
黒騎士は負けてしまった。迫力負けだ。
黒騎士は放心し、ぼろ雑巾は黙って去って行った。
「……‥あれは一体?」
「だからスティアだって…」
「そんな馬鹿な…‥?」
「いやあ二、三日でどんな訓練をされたんだか。見事なものだったろうあのフレイ仕込みの剣技」
「――――――!」
確かに剣技はフレイ隊長のもの。あれを教えられるのは薄紫騎士団だけだ。
「……しかし人格が?皇子の性質が消えていましたが」
「どう改造されたらああなるのかねえ。まあローリーに勝つつもりならあれくらいするか、薄紫は」
「そうなのですか…?」
「東の地から来た騎士団は容赦ないって一部では有名だからねえ」
「一部って?」
「もちろん薄紫に入った新入りだな。余りな容赦なさ加減に半日で逃げだした騎士が何十人いたことか」
「…お、皇子はすべて分かった上でぼろ雑巾に……」
「当然だな、あれはスティアが連れて来た騎士団だ」
「……しかし…‥」
皇子の目的は分かっている。少しでも姫の心をスティア皇子に向けて貰う為にいい所を見せようとしているのだろう。
しかしあれは幾らなんでもやり過ぎだ。あんな皇子を姫様がみたらどう思うだろう。
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