意地悪姫の反乱

相葉サトリ

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第十九話 悪夢の剣技大会

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 スティア皇子は不敵に笑う。
 薄紫騎士団は強い。たった三日程度の特訓で黒騎士を圧倒するほどの力を得た。
 勝てる。これならローリーにだって届く。

「くっ、ふふふふふ…‥」

 この数日、地下訓練場で薄紫騎士団相手に百万回めったぎりにされた。十万回死んだ。
 切られても切られ続け、倒れても無理やり立たされ再び倒される。
 頭の先から足の先まで傷だらけの血まみれでもさらに傷を受け、空腹で死にそうでも情け一つ掛けられなかった。
 やらなければやられる。欲しいものは自ら奪い取らねば明日はない。

 まさしく戦場である。しかしそれが彼らが生きてきた世界であり、自分が解りたいと思った世界であった。
 平和ボケのボンボンで本当の戦場など知らない皇子はここに来て薄紫の非情なまでの強さを知った気がした。なんだかそれが嬉しくて誇らしかった。
 しかし―――――

「スティア皇子!ここを開けて下さい!離せお前達!」

 ドアの向こうからマルスの騎士が呼んでいる。あれは隊長のルウドだ。

「なんなんだ?」

 外の騎士達には手に余ったのだろう。ルウド隊長が無理やりドアを蹴破った。
 スティア皇子は立ち上がり、ルウドを睨む。

「地下室は薄紫の騎士以外出入り禁止だ。特別訓練中だと言ったろう?
 一体何の用だ、幾ら客人とはいえ余り無礼が過ぎると許さんぞ?」

「ああああああああ、スティア皇子!何をなさっているのですか貴方は!ふざけてるんですか!格好付けて脅迫してもその格好!ぼろ雑巾じゃないですか!そんな恰好じゃ皇子の判別も付きませんよ!どうか正気に戻って下さい!」

 皇子は不愉快そうに眉を顰める。

「私は正気だ。強さの証は紫の誇り。それをローリーを倒して証明して見せるのだ!ふふふふあはははははは!」

「どれだけ強くてもぼろ雑巾では意味ありません!貴方本来の目的完全に忘れているでしょう?やめて下さい!」

「何を言う!忘れてなんかいないぞ?強ければ誰もが私にかし付き従うに決まっている!」

「……な、何の冗談ですか……!」

「もういいから出て行け。文句があるなら私を倒してから言え」

 完全に人格が破壊されている…。
 肩を落としたルウドは強制的に地下室から追い出された。






 一階の詰所に移動したルウドは地下室の方をマザマザと見つめる。
 人格を失う程の特訓を受けるスティア皇子の姿が痛々し過ぎる。
 しかもそこまでして得るものより、恐らく失う物の方が大きい。

「やあルウド隊長、駄目じゃないか地下室行っちゃ」

 にこやかにフレイが言うが目が笑っていない。

「フレイ隊長!何ですかあれは!あんな皇子、皇子じゃない!やめさせて下さい!」

「同情有難う、ルウド隊長。しかしあれはこちらの事情。あなたが関与することではないよ?」

「しかし!人格変わってるじゃないですか!何であそこまでするのですか!」

「こちらの事情に口を挟まないで貰おうか」

「こちらにも事情があります!何故私達がここにいるか、忘れたのですか?」

「……ああ、でもまああれでも良いというのが本当の愛だね」

「あんな皇子嫌です!絶対嫌です!うちの姫だってきっと嫌ですよ!」

「それは君の勝手だろう?もういいかな?文句があるなら戦って打ち負かせばいいだろう?」

「―――――……!」

 フレイ隊長は簡単に言い去っていった。
 しかし、スティア皇子とルウドが対戦するのは三日目の王族前での対戦だ。
 あれを姫に見せないためには明日の内に倒してしまわねばならない。

「………」

 ルウドは対戦表を広げて調べる。
 明日の三、四、五回戦、スティア皇子と当たる可能性のあるマルスの騎士は―――ー。



 
 
 
 二回戦に勝ち残ったマルスの騎士は二十人。意外にも皆踏ん張っている。
 しかし勝ち残ってしまった彼らは不幸度が上がっていた。
 初戦に負けた者は隊長主催の罰ゲームだが、勝ち残ってしまった者はティア姫に脅しを掛けられた。今後負けたら恐ろしい事が待っている。
 しかも―――――

『黒騎士ローリーを倒しなさい!』

 ティア姫の命令である。とにかく明日黒騎士ローリーと対戦する者は何としてでも勝たねばならない。そんな不幸な騎士が二人もいた。勝ち上がれば四回戦、五回戦で当たる。
 そしてさらにその日、騎士達にさらなる不幸が降りかかる。

 ルウド隊長の命令である。

『スティア皇子を止めてくれ。けして王族の前に出してはいかん。明日中に絶対倒してくれ。あんな血なまぐさい姿を姫の前に晒すなど絶対だめだ』

 血まみれのぼろ雑巾のような皇子の姿を姫様に見せたくない気持ちは分かる。姫を護る騎士達とてそれはいやだ。

 しかし、人格が変わっているうえ強さも半端ない皇子に対抗できる術があるのか?
 明日、皇子と対戦することになるだろう騎士は不幸にも二人いた。こちらも四回戦、五回戦で当たる。最早途中で負ける事など論外だった。

「即席だがやらんよりはましだろう。明日に向けての特訓をする。スティア皇子と対戦する二人と、薄紫、黒の騎士達と対戦経験のある者達は全員参加してくれ」

 不幸度急上昇中の勝ち残った騎士二十名は自らの不幸を実力で何とかする為に訓練に参加した。

 ――――勝ち上がり続けるしかない。
 
 騎士達の悪夢は自らの力で勝ち上がる事でしか終わらないのだ。

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