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第二十話 勝敗の行方
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しおりを挟む第七競技場では第四試合が行われていた。
薄紫隊長フレイとマルスの騎士アイサである。
アイサはこの不運に冷や汗をかく。
三回戦で負ければデスゲームだと言われたけれど、相手がこの人では全く勝てる気がしない。
「…フレイ隊長、勝ちを譲ってくれませんか?」
「何言ってんのさ君、嫌だよ。勝ちたいなら実力で勝たないと」
「……そ、そうですよね…」
フレイは容赦なく剣を振るう。
その変則的な動きにアイサは戸惑い、すぐ間合いを取る。
対処が難しい。戦法をいろいろ変えて試しながら当たるしかない。
しかし気をつけなければ一撃で伸される可能性もある。
―――――くっ、もう当たって砕けろ!
考えた所で目の前の隊長に勝てるわけではない。
アイサは捨て身の戦法でフレイに立ち向かう。
第八競技場第四試合。
選手の待合席で試合を見ていたとあるマルスの騎士は凍りついた。
「………なんだあれ…‥?」
第四試合はスティア皇子対赤騎士である。
赤騎士と対しているのは何だか赤黒いぼろぼろの姿の何かである。
あまりにも不気味なそれに赤騎士は引き気味である。
しかも不気味なそれは更に不気味な動きをして赤騎士を攪乱させる。
「―――――ひっ!」
不気味な動きで迫るそれの動きに圧倒されて赤騎士は剣を打たれ、取り落とした。
「――――――一本!」
赤騎士は剣を拾い、再びそれに対峙する。
迫力に圧倒されず負けじと剣をふるったが、結局負けてしまった。
「……」
不気味なぼろ雑巾の様なあれはけしてそれだけではないようだ。
何しろ薄紫に三日間あんな姿になるまで扱かれたのだからそれだけの成果が出ているのだろう。
負けた赤騎士が去って行き、不気味なそれが待合席に座る。
「………‥」
マルスの騎士は隣をちらちら眺めてから、思い切って声をかけてみる。
「……ス、スティア皇子……?」
スティア皇子らしきものはマルスの騎士を見て、にやりと笑った。
「―――――――!」
怖い。もはや彼は皇子とは別の者のように思えた。
確かに隊長の言うとおり、姫にはけして見せたくない姿だ。
黒騎士隊長ローリーは楽しんでいた。
何だか今回ヤル気ある騎士達が必死で挑んでくる上に、結構骨のある騎士達が居る。
さらに今回ほとんど出ない薄紫が全員出席、さらに客人であるマルスの騎士も中々強い。
「ホント面白いな、四回戦、五回戦と続けてマルスの騎士か。初戦のポール君もなかなか面白かったし。まだまだ楽しめるなあ」
心中穏やかでないマルスの騎士と違い、ローリーは余裕だった。
次に対戦するマルスの騎士はとても勝てる気がしなかった。
第三競技場四回戦一戦目は薄紫リルガと黒騎士マクレイだ。
黒騎士は三回戦でのアレンとの勝負で慣れたのかリルガの剣技にうまく応じている。
いささか押され気味のリルガはスピードを上げていく。
「――――――くっ!」
変則的な動きに加え、どこから飛んでくるか分からない剣の応酬に黒騎士は次第に押されていく。そして―――、
「――――一本!」
黒騎士は一本取られてしまった。
ただでさえ黒騎士には苦手な変則的な動きを驚異的なスピードで詰められ攻められたら落ちるのも時間の問題ともいえる。
薄紫相手に長期戦は不利の様だ。
しかし黒騎士は粘り、考え、頑張った。
それでも黒騎士は負けてしまった。やはり経験不足だった。
第二戦目、ルウドはリルガの剣技を思いつつ、柵の中に入る。
そう言えば対戦相手は誰だろう?
ふと相手を見るとマルスの騎士が立っていた。
「何だお前?ここにいたのか?」
「た、隊長、ずっといましたよ、気づいてなかったんですか…?」
「いや全く。紫と黒ばかりが気になってな」
ルウド隊長の試合が派手すぎて余り目立っていなかったが彼も強豪ばかりの中で頑張ってここまで勝ち上がって来たのだ。
「そうか、それは良かった」
「は?何がです?」
「お前が私に勝てば私は肩の荷が下りるな。お前にはスティア皇子を片づけてローリー隊長を倒す義務が発生するが」
「……そんな、勘弁して下さいよ」
「その前に私を倒すんだな。手加減したら後が怖いぞ」
「………分かっていますよ…‥」
勝っても負けても不幸な騎士は息を整え構える。
普段からキツイ扱きに耐えているマルスの騎士達はルウド隊長の剣をよく知っている。
開始の合図とともに騎士は隊長の間合いに飛び込む。
待合席でリルガは感心していた。
「流石というか、やはりマルスの騎士だな」
今までただの一、二撃で倒されてきた騎士達と違い、しっかり隊長ルウドの剣技に応戦している。
これならやっとまともにルウドの剣技を見れる。今まで黒や赤の騎士が一撃で倒されてきた謎も解けるだろう。
五回戦の対リルガ戦は休憩を挟んでから行う事になった。
他の試合もとても気になったがルウドはとりあえず休むことにした。
「あいつ何時の間にあんなに腕をあげたんだ?片付けるのに結構手間取った」
「片付けるって…‥、すごく扱いていたように見えましたが」
全く手加減なしで長々と散々扱かれて彼は倒れるまで頑張った。
何だかマルスの騎士達の強さが分かった気がする、とリルガは笑う。
「うちの隊長とタメ張る鬼具合で」
「いや、あのぼろ雑巾…‥いえ皇子の悲惨さ程ではないと思うが」
「まあ色々やり方がありましてね。目的の為には手段は選ばないと言うか」
「やり過ぎだろうあれは。とても姫には見せられん。本日中に片付けばいいが」
「簡単に片付くような鍛え方はしていませんから」
「そうか…」
最初から優勝目的ならそれに沿った鍛え方だろう。しかもほんの数日。
壮絶具合の想像がつかない。
「今日片が付かなければ明日少しでも早く片付けなければ…」
「一応皇子の野望を叶えるのが我々の仕事なんで次の試合で阻止させて貰いますよ」
五回戦の開始と共に二人は激しい打ち合いとなった。
予測の難しい動きをするリルガの剣に応対するルウドもやりにくそうだが、ルウドの剣を受けるリルガも衝撃がきつかった。
ルウドの剣に対応できなかった騎士達の謎が彼の剣を受けてやっとわかった。
――――――重い!
剣はただの木剣、振るうルウドも軽々それを振っている。
だがルウドの振るった剣が相手にもたらす衝撃は酷く重く、一振り一振りが受ける相手を消耗させる。
長期戦が不利なのはリルガも同様だった。
「――――くそっ!」
激しい打ち合いで重い剣を受けるリルガは分が悪い。
ひと時打ち合ってリルガはルウドとの間合いを取った。
以前訓練で戦った彼の部下ジルも大層重い剣を振っていた。ただの木剣でこれなら真剣では相当怖い。
そしてそんな彼らだから持久力はかなりのもので、リルガの動きを見るルウドはだんだん動きに慣れてくる。
リルガはじわじわと間合いを詰めてルウドに集中する。
どこから見てもルウド隊長に一寸の隙すらありはしない。
だからと言ってルウド隊長に必殺の重い一撃を加えられてはひとたまりもない。
前の試合、マルスの騎士はルウド隊長と間合いを詰めて打ち合っていた。振るう高さや角度によっても幾らか衝撃が軽減されるらしい。
考えた所でもうリルガが勝つために取る道は限られていた。
覚悟を決めて、リルガはルウドの間合いに飛び込み死力を尽くして剣技を振るう。
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