意地悪姫の反乱

相葉サトリ

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第二十話 勝敗の行方

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 対戦表が出来た時点でマルスの騎士達の作戦が始動した。
 ティア姫は王族用の控えの部屋で王家の方々とお茶をしていた。

「まあ本当に可愛らしいお姫様だわ。お相手はスティア皇子でなければ本当に駄目なのかしら?」

「まあ、スティア皇子をお相手になんて一言も言った覚えはありませんわ。ふふふっ」

「そうなの?それじゃ、他の皇子でもいいということね?」

「そんな、私今回友好目的で訪問しただけですのでそんなつもりはないのです。考えておりません。御免なさい…」

「…いいのよ御免なさい、困らせてしまったわね。今回は初めての訪問ですもの、楽しんで行って下さればいいのよね」

 セラ王妃だけでなく、第二王妃アリーや第三王妃マルトにまで何故か気に入られてしまった。一体どこがお気に召されたのか姫にはさっぱり理解できない。

「ティア様、本日は王族が強制参加されておられますから皇子全員のお顔を拝見出来ますわ。大会に参加されてる皇子様二人はご存知ですね」

「リリアナ、それは勿論。あとあのべリル皇子かしら。口ばっかりのヘタレ皇子」

「……‥ええと、あとはあちらに、赤騎士の皇子アルベル様、緑のカリフ様、黄色のルアン様、青のフルード様、あとは末の皇子ザカール様」

「へえ…‥」

 これだけ皇子が居れば仲も悪いのかと思えば表面上なのか何なのかは分からないが仲は良さそうだ。そもそもここには王妃が三人もそろっているが同じ席で仲良く喋っている。
 何だか微妙で不可思議な光景に見える。
 この部屋にも対戦表が張られたのでそれを見たティア姫は席を立った。

「姫様、どちらへ行かれます?」

 この部屋内にいた護衛のマルスの騎士が呼び止めた。

「…どこって決まっているでしょう?初戦はルウドとスティアじゃない。見なくてどうするのよ?」

「お待ちください、今少々会場に差し障りが―――」

「は?何言っているのよ?王家主催の会場にそんなものが」

「実は、姫様のお嫌いな黒くてカピカピしたあの虫が」

「ば、馬鹿言ってんじゃないわよ!そんな物が居るわけないじゃない!」

「しかも異常なほどの大きさで……」

「嫌な夢見てんじゃないわよ!やめてよこんな席で!」

「今隊長が退治いたしますから……」

「いいいっいるわけないでしょうそんな生き物!何の冗談よ!」

 ティア姫は部屋の外へ出て会場を一目見て、すぐさま踵を返して部屋に戻った。

「……姫……大丈夫ですか…‥?」

 ティア姫は蒼白になって騎士を見る。

「――――――っ、何よあれ?何なの?ねえ何なのよおおおおおっ!」

「…‥ですからあれは……」

「いやあああああああああっ!聞きたくないわ!早く退治しなさい!すぐやりなさい!いやよおおおっ!気持ちわるいいいいいいっ!」

 怯えて錯乱しだした姫を騎士達は宥める。

「落ち着いて下さい、姫。大丈夫です、すぐ片付きますから」

 王族たちが何事かと姫を眺める。
 皇子達がこわごわと近づいてきた。

「どうかなされましたか?姫様?」

「嫌よおおお!早く抹殺なさい!何してるの!こちらに来たらどうするのよおおおっ!何であんな物が存在するのよおおお!早く抹消なさい!怖くて外に出れないじゃないのおおおおおっ!」

「姫様、大丈夫ですから。すぐ消えさりますよ」

 宥めるマルスの騎士達に皇子達が疑問の目を向ける。

「一体何が…‥?」

「お騒がせして申し訳ありません。姫はその、外にいる黒い物体が異常に嫌いで…」

「いやあああっ、聞きたくないわ!言わないでええっ!」

「……‥」

 皇子達はとりあえず外へ出て会場を見回す。
 会場ではすでに第一試合が始まっている。ルウド隊長と何やら赤黒い物体が戦っている。
 あれは多分スティア皇子のはずだ。
 姫にそれを撤回したかったがあれがスティアだとは誰も口にしたくなかった。
 それに錯乱した姫にあれを撤回して逆の結果になりかねないとも皇子達は思った。





 ルウドは冷酷な目をスティアに向けて、容赦なく剣を振るう。
 スティア皇子は黒騎士隊長の剣技もフレイ隊長の剣技も知っている。そして勝つために短期間で剣技を磨いた。
 今の皇子にはその自信も誇りも気迫も十分にある。
 マルスの騎士ルウドにだって負けはしないと思っていた。

 ―――――しかし…‥

「しぶといな…」

 冷酷な目をして吐き捨てるように呟くルウドの声に何故かひやりと汗が出る。
 何だろう?何かが違う。
 そう、目つきとか態度とか。
 そう言えばルウド隊長は訓練も試合もどこか楽しんでいる風だった。今回それがなく、何やら倒す事のみに集中しているように思える。
 それにこの異様な迫力。今まで迫力で押してきたスティアが完全に圧倒されていた。

「早く退治せねば恐ろしい事になる」

 ルウドは素早くスティアに迫り轟剣を振るう。スティアは必死でよけて後ろに引く。
 ただの棒剣のはずだがまともに当たれば確実に即死しそうだ。
 スティアは間合いを取ってルウドの動きを図る。
 このルウド相手にどう動いていいのかスティアは考えあぐねていた。
 油断なく間合いを取りながらルウドの動きに集中しているとどこかから騒ぐ甲高い声が聞こえた。

「いやああああっ、まだなのルウド!早くそこから抹殺してよおおおおおっ!そんな気持ち悪いもの衆人環視の目に晒していいと思ってるのおおおっ!王族の目に入れていいわけないでしょおおおおおっ!罪深過ぎるわよおおおっ!早くなさいいいいいいっ!」

「申し訳ありません、すぐ片付けますからもう少しだけ目を閉じていらして下さい」

「…………‥」

 スティアは瞬間脳停止し、真っ白になった。
 抹殺?気持ち悪い?罪深い?……退治…?

「うちの姫は黒くてカピカピした虫が死ぬほど嫌いなんだ。早く退治してしまわないと会場ごと殺処分しかねない」

「…………私は虫か……?」

 ふと周囲の皇子達を見ると誰もが目を逸らした。セラ王妃にすら知らぬ顔を決め込まれた。

「……………」

 気がつくとスティアは孤独だった。

「いい加減目を覚ましなさい!皇子!」

 そしてまんまと害虫退治に尽力する騎士に退治されてしまった。




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