134 / 200
第二十話 勝敗の行方
5
しおりを挟むマルスの騎士達の作戦は見事成功した。
しかし王族用の控えの部屋の隅で泣いている姫を見たルウドは悪い事をしたと気が咎めた。
「……ティア様…‥もう大丈夫ですから…」
「ルウド!ちゃんと会場消毒したのでしょうね?あれはもう処分したのでしょうね?」
「しましたよ。もう出ませんから……」
「本当?でもあれは一匹いたらあと三十匹はどこかに潜んでいるというわよ?本当に大丈夫なの?」
ルウドは困って周囲を見るとクライブ皇子と目があった。
「クライブ様、平気ですよね?」
「……勿論だよ、わが城にあんなモノが棲んでいる訳がない。どこから紛れ込んできたのか知らないが、嫌だな。もう二度とあのような事がないように手配するから安心してほしい。姫様にも、不快な思いをさせて申し訳なかった。どうかお許しください」
ルウドにしがみ付いたままのティア姫にクライブ皇子は微笑む。
「……そう、それならいいのだけど…」
クライブ皇子の顔を見てティア姫はようやく落ち着いた。
「そう言えばルウドの試合は?」
「もう終わってしまいましたよ?」
「そんな、何時の間に。見たかったのに……」
「勝ちましたからまだ次がありますよ」
「そう、良かった。でもスティアはどうしたの?役立たずな上に姿も見えないなんて。いいとこなしね彼。ルウドに負けてへこんでいるのかしら?」
「………」
しまった。スティア皇子のフォローを全く考えていなかったルウドはクライブ皇子に助けを求めたが視線を横にそらされた。
「……ええと、皇子もすぐに気を取り直してここに来られますよ?まだフレイ隊長とクライブ皇子とローリー隊長の試合も見たいでしょうから」
「そうね…」
さして興味もなさそうに姫は呟く。
「ええと、姫様、嫌な事は忘れて試合を見に行きましょう?今は第二試合、赤騎士ビビアン様とフレイ殿の勝負中ですよ?早くいかないと終わってしまいます!」
「……‥」
「不吉なモノはもういませんから心おきなく試合を鑑賞いたしましょう!うちの部下二人は三試合目と四試合目ですよ」
「知ってるわよ、あの二人。なんて運がいいのかしら。いつも思うのだけどあの運の良さをもっと有効活用する手段はないのかしら?」
「………そうですね…‥」
姫をエスコートして王族用会場席へ誘導するルウドは笑みを引き攣らせる。
見事御前試合にまで這い上ってきた実力と幸運を備えた騎士は、姫に目をつけられ最早下僕にされている二人である。
しかもこの二人は初戦から黒騎士ローリーとクライブ皇子にばっちり大当たりした。
王国の最強とされる騎士と皇子である。
確率が高いとはいえ、何と言う悪運の強さだろうとルウドは不憫を通り越して感心した。
ルウドに害虫退治され樽にほおり込まれたスティア皇子は強制的に皇子の部屋へ戻され、待ち構えていた皇子の執事や使用人、さらに医者に取り囲まれ、害虫から人間へと短時間で完璧に修正された。
しかしスティア皇子の心の傷は短時間では修正されない。
薄紫宿舎の地下に一人籠った皇子は出てこなくなってしまった。
地下訓練場を閉めだされてしまった騎士達が心配してドアの外から様子をうかがう。
「……スティア皇子?」
「………私は虫……どうせ虫…‥嫌われものの害虫さー……」
「お、皇子、そんな…!そんな事ないですよ!」
「……もういいんだ、私の人生おしまいさー。姫にもきっと嫌われた…‥…」
「お、皇子!そんな事ありません!早まらないで下さい!おしまいなんかじゃありませんから!」
騎士達は慌てて隊長の所に飛んでいくがあいにくフレイ隊長は未だ真剣勝負中だった。
なのであの結果の原因となったルウド隊長を呼んだ。
「ルウド隊長!皇子を何とかして下さいよ!責任とって下さい!」
「……‥ああ、すまない…」
ルウドは地下の入り口に降りて中の様子をうかがう。
「……スティア皇子?」
「……ほっておいてくれ私の様な虫けら……」
「………」
皇子の傷は深そうだ。
「…スティア様、試合見に行きましょう?姫様も待っていますよ?」
「…‥ルウド、そんなわけない。きっと忌み嫌われてる」
「大丈夫ですよ、皇子が皇子のままでいて下されば誰も嫌いませんから」
「……何故なんだ?強いと嫌われるなんて分からない。皇子は強くあるべきだと皆言っているし、ルウドだってそう思っているだろう。だから頑張ったのに…」
「姫にあんな血なまぐさい姿を見せたりしないでください。あんな姿見せたら確実に嫌われますよ?」
「いいよもう、嫌われたし…」
「あれが貴方とはばれていません。上手く誤魔化せましたから」
「そんな嘘だ。はっきり忌み嫌ってたじゃないか」
「事前に恐怖の大虫が居ると知らされてはっきり直視出来るわけないじゃないですか?何か黒いものを認めてすぐに部屋へ引き返しましたよ姫は」
「…………」
「皇子、別に強さなどで姫の気を引かなくともいいでしょう?そんな事をしても姫は興味も持ちませんよ?知っているでしょう?」
「……だったらどうすればいいんだ?私なんか何のとりえもない皇子なのに」
「そのような事はありません、もっと自信を持って下さいよ」
「……‥」
「ルウド、何してるのよ?第二試合終わっちゃったわよ?」
「ティア様」
姫が地下に降りてきていぶかしげにルウドを見る。
「何なの?」
「スティア様が籠ってしまいまして…」
「スティアが?全く情けないわね、ルウドに負けた位で何いつまでもへこんでんのよ?最初っからルウドに勝てるわけないのは分かってたんだからいちいち引き摺ってんじゃないわよ!」
「ひ、姫様…‥」
「そんな事より何よ、フレイ隊長の試合を見にもいかないで!あなたの騎士でしょう?ちゃんと応援しなさいよ!」
「…姫様、フレイは…‥?」
「勝ったわよ!次の相手はルウドよ?さっさと出てきてフレイ隊長の所に行きなさい!」
「は、はいいいいいっ!」
スティア皇子は慌ててドアを開けて宿舎を出て行った。
「……」
「ルウド、私達も行きましょう。ばっちり睨みを効かせてないとローリー相手に簡単に諦めるわよあの根性無しは」
「……はい」
0
あなたにおすすめの小説
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
転生令嬢はやんちゃする
ナギ
恋愛
【完結しました!】
猫を助けてぐしゃっといって。
そして私はどこぞのファンタジー世界の令嬢でした。
木登り落下事件から蘇えった前世の記憶。
でも私は私、まいぺぇす。
2017年5月18日 完結しました。
わぁいながい!
お付き合いいただきありがとうございました!
でもまだちょっとばかり、与太話でおまけを書くと思います。
いえ、やっぱりちょっとじゃないかもしれない。
【感謝】
感想ありがとうございます!
楽しんでいただけてたんだなぁとほっこり。
完結後に頂いた感想は、全部ネタバリ有りにさせていただいてます。
与太話、中身なくて、楽しい。
最近息子ちゃんをいじってます。
息子ちゃん編は、まとめてちゃんと書くことにしました。
が、大まかな、美味しいとこどりの流れはこちらにひとまず。
ひとくぎりがつくまでは。
迎えに行ったら、すでに君は行方知れずになっていた
月山 歩
恋愛
孤児院で育った二人は彼が貴族の息子であることから、引き取られ離れ離れになる。好きだから、一緒に住むために準備を整え、迎えに行くと、少女はもういなくなっていた。事故に合い、行方知れずに。そして、時をかけて二人は再び巡り会う。
助けた騎士団になつかれました。
藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。
しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。
一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。
☆本編完結しました。ありがとうございました!☆
番外編①~2020.03.11 終了
とめどなく波が打ち寄せるように
月山 歩
恋愛
男爵令嬢のセシルは、従者と秘密の恋をしていた。彼が従者長になったら、父に打ち明けて、交際を認めてもらうつもりだった。けれども、それを知った父は嘘の罪を被せて、二人の仲を割く。数年後再会した二人は、富豪の侯爵と貧困にあえぐ男爵令嬢になっていた。そして、彼は冷たい瞳で私を見下した。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~
夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」
婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。
「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」
オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。
傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。
オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。
国は困ることになるだろう。
だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。
警告を無視して、オフェリアを国外追放した。
国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。
ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。
一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる