意地悪姫の反乱

相葉サトリ

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第二十一話 魔女の秘策 

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 王族や騎士達の見守る中、第四試合は続いていた。
 クライブ皇子とマルスの騎士ジルの対戦だが対等な戦いが繰り広げられている。
 姫はいらいらしていたがルウドは感心していた。

「ジルだけではないがうちの騎士はちゃんと根性見せればあれだけの戦いが出来るのか。訓練ではすぐ根をあげるからここまで来るとは思わなかった。
 普段の私の訓練が優しすぎたせいか…。もっと強い騎士がいればもっと強くなれたはずだな…」

 選手席で、ぼそりと呟くルウドの声を聞いてしまったローリー隊長は困ったように進言する。

「……上を見たらきりがないですよ?騎士には何らかの大義があって、その目的の為に強くあろうとするのですからただ強くなれというのは無理からぬことです。強ければいいというものでもありませんし」

「ローリー殿…、そうですね…」

 マルスの二番隊騎士はティア姫を護る事を仕事としている。しかし姫は簡単には護らせてくれない。
 逃げられ、いじめられ、実験台にされ、騎士達は散々な苦難を毎日味あわされている。
 それでもくじけず二番隊に在籍する騎士達はルウドに締めあげられてもめげることなく強靭な精神と肉体を磨きつつあった。
 まだ若い、姫に目を付けられた不幸な騎士二人などはどれだけ姫にいたぶられてもへこたれず、何故か姫の事が好きらしく、喜んで下僕になり下がっていた。
 姫を守る為に強くなりたいと望みここまで来て、今姫にいい所を見せようと頑張っている。
 第三試合の彼も姫の前で頑張った。結果は負けたが姫とて彼の頑張りを認めないわけにはいかないだろう。
 そして今、ジルも姫にいい所を見せようと戦っている。姫が怖い顔で睨んでいるが彼は結構冷静にクライブ皇子と戦っている。




 マルスの騎士ジルは若いがさすがに精鋭と言われる腕の持ち主だ。
 以前レグラスやリルガが若いのに強いと彼を称賛していたが、実際剣を交えてとてもそれが良く分かる。
 隊長ルウド程ではないが鋭く重い剣を振るい、素早い突きを繰り出してくる。
 気を抜けばたちまち負けてしまうとクライブ皇子は警戒し、間合いを取る。
 前試合のように姫様が鬼のような形相で彼を睨みつけているにもかかわらず、彼は冷静に剣技を見せる。
 マルスの騎士はこういう会場での試合は初めてのはずだ。しかも目に入る所に姫と隊長、さらに他国の王族たち。冷静なのが不思議ではあった。

「こんな場所で、度胸も据わっているねえ君」

「……」

「もしかしてやっぱり緊張してる?」

 余裕をもって話し掛けるクライブをジルはじっと冷静に睨む。

「……」

 どうやらとても集中して本気で勝ちを狙っているようだ。
 クライブの隙を窺い、素早く間合いに入り剣を振るう。
 ルウド程ではないがひと振りが重く、受けるクライブは不利を感じる。
 守りに徹していては先が持たない。
 クライブはジルの剣を返して攻撃に転じる。
 ジルはクライブから離れて体勢を立て直す。

「……参ったな…ホント強いね君」

 クライブはローリー隊長に鍛えられ、それなりの腕はあるが騎士は本職ではない。
 本職の精鋭騎士が本気で相手となるとなかなかに不利だ。

「…君、私の顔を立てて負けてくれる気ないかい?」

「あるわけないでしょう。むしろ私にうちの隊長と姫の顔を立てさせて下さい」

「……いやそれはちょっと、私も優勝したいし」

 ジルの目が鋭くクライブを射抜く。

「あなたもやはり姫の唇狙いでしたか。不埒な目的で優勝狙うのは皇子としてどうかと思いますが」

「……え?いやそんな事は……?」

「そうと分かればますますあなたを勝たせる訳にはいかない。本気で勝ちを取らせていただく」

「……」

 誤解だ、と言い訳する間もなくジルが攻撃してきた。スピードも、剣の重さも一段と上がっている。
 クライブは防戦一方となった。





 今回の剣技大会は客人マルスの騎士と薄紫の騎士が出場している事で番狂わせがたくさん起こっていた。
 初戦から強い黒騎士があっさり倒され、さらに薄紫とマルスの騎士によって他のカラー騎士達が倒されていった。
 御前試合には、隊長はローリー、ビビアン、フレイ。あとはクライブ皇子とスティア皇子。他は全てマルスの騎士という状況だった。
 そしてさらに御前試合でも初戦から番狂わせが起こった。
 第一試合のスティア皇子対ルウド隊長の試合はともかく、第四試合のクライブ皇子対マルスの騎士ジルの試合である。
 クライブ皇子は毎回御前試合に参加し、大体ローリーかビビアンに負ける。他の騎士には負けた事はないのだが今回他国の若い騎士に負けてしまった。

「―――――なぜ負けた?」

「相手が強かったからですよ?」

「経験や年から言ってもお前が上だったはずだ」

「世界は広いってことですよ?」

「つまりは鍛え方が足らなかったという事か……」

「勘弁して下さいよ、ダンダリア殿」

 王騎士ダンダリアは眉間に深い皺をよせてクライブ皇子を睨む。

「うちの皇子が二人ともマルスにやられるとは。たるんどる。一度徹底的に二人纏めて扱いて差し上げたい」

「……勘弁して下さい。相手が強かったんですよ、本当に。手合わせしてみれば分かりますよ」

「むうう…、それにしてもマルスの騎士、少しは遠慮というものがないのか?普通皇子が相手なら少しは手加減もするだろうが」

「誰もあのお姫様の前で手加減なんか出来ませんよ、様々な意味で」

「お姫様か、全く最近の騎士は」

「マルスの騎士達にも負けられない事情があるのですよ」

「……」

 第二試合はもう始まっている。
 マルスの騎士ルウドと薄紫のフレイの試合を王騎士ダンダリアは難しい顔で眺める。





「頑張ってねルウド、勝ったら私からの熱いキスを進呈するわ」

「もうやめて下さいその冗談、真に受ける騎士がどれだけいると思っているのですか」

「ルウド限定だと言っているのに…」

「たちの悪い冗談です。大体そんな不埒な目的の為に頑張っているなんて周りに思われたら私が不愉快です。純粋に試合を楽しんでいるのに…」

「ルウド、あんまり先の事考えてないわね…」

「姫の賭けごとなら私は知りませんよ。勝手に自分で始末をつけなさい」

「ローリーに勝てる自信がないわけね」

「その前にフレイさんに勝てる自信もありませんね」

「……偉そうに言う事じゃないわ。完全に自棄ね」

 きっぱりとティア姫を見捨てる宣言をしてルウドはフレイとの試合に挑みに行った。
 ティアは困った。
 ルウドはあてに出来ない。こうなったら勝てる手立てを打たねばならない。

「あっ、ティア様」

 試合に勝ったジルが戻ってきた。嬉しそうに駆け寄ってきて微笑む。

「私、勝ちました!あの皇子に!姫様を守ることが出来ました!」

「あ、そう、おめでとう。でも次が本番よ?ローリーを倒さなくてはいけないわ」

「大丈夫!倒せます!私が姫を守って見せます!」

 ジルはまだ興奮が冷めないらしい。先程の試合で随分自信を持った。

「ジル、でも相手は国一番といわれる騎士よ?簡単に行かないわ。今回はどんな事をしても勝って貰わなくては困るの。私の物を奪われるなんて我慢ならないわ」

「大丈夫です。どんな手を使っても勝ちます!」

「本当に?何なら私が手段を講じるけど…」

「今回は私にお任せ下さい。卑怯な手段も騎士と魔女ではやり方が違うのです。騎士には騎士のやり方があります。見ていて下さい」

「そう…」







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