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第二十一話 魔女の秘策
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しおりを挟む剣技大会は終わった。
剣技大会なのに魔女の勝利と言う何とも言えない結果であった。
姫の眠り薬を嗅がされつい一緒に寝こけてしまったルウドは競技場の真ん中で倒れているローリーを見て真っ青になった。
すぐに病棟へ運ばれたが特に怪我もなくとりあえず安堵した。
目覚めたローリー隊長にルウドは直ちに謝った。
「申し訳ないです、本当に。姫を止めなければならない私達が止められなかったせいで。本当情けない」
「いやいや、そんなに落ち込むことはないよ。びっくりしたけど面白かったし。すごいなあティア姫様、魔法なんか使えるんだ?」
「魔法ではありません、あんなモノは。しっかり種も仕掛けもあるのですよ?」
「え、じゃあ奇術とか言うものかい?面白いなあ」
「ローリー様、間違っても姫様に面白がってそのように褒めることはよして下さいよ?悪戯が酷くなるばかりか他者への被害が甚大になるのですから」
「……分かったよ。きっと見ていた者達全てが面白いと思ったと思うけど」
「冗談ではありません。姫にもきつく叱っておきますよ」
「そうかい…」
外へ出るともうすでに魔女の噂は城内中に広まっていた。
あの観客席で眠らされずに姫の所業を見ていた者達は興奮気味に面白可笑しく話しまくっている。
「すごかったぞ!ローリー様の足場に円陣の光が出てだな!その中で火花が散ったんだぞ!バチバチって!そしたらローリー様は倒れたんだ!」
「あれが魔法攻撃ってやつかな?すごいな!隣国の姫様はすごい魔女だったんだな!」
魔法ではない。本当の魔法と言うものを知らない国の人達は種も仕掛けもある奇術に興奮した。
マルスの騎士達は皆知っているがわざわざ種や仕掛けを説明する気には到底なれない。
ルウドはともかくティア姫がいるだろう姫の部屋へ向かった。
「失礼、ティア様居られるのでしょう?入りますよ?」
中に入るとティア姫とベリル皇子がスティア皇子を挟んで火花を散らしていた。
「………」
ドアの横に控えて出来るだけ目を逸らしているフレイ隊長にそっと事情を問う。
「どうなっているので?」
「見たとおりの展開ですな」
「……」
分からない。なのでルウドもフレイの隣で状況を見守る。
姫はじろりとベリルを睨む。
「なによ?試合に不服でもあるの?戦いもしないでローリーに命運を任せた貴方が?」
「ローリーが言わないのに僕が言うものか。今回は負けを認める」
「そう、それで?」
「だからってルウドは諦めない。次は僕がお前を倒してルウドを堂々と奪い取ってやる!覚えておけよ」
「まあそう?剣も持てないあなたが何時の事になることかしら?まあいいわよ、奪える者なら奪ってみなさい?無駄でしょうけど」
「うちには強い皇子や騎士が幾らでも居るんだ。幾らでも教えて貰ってすぐに強くなってやる!今回ローリーが負けたのは手の内が分からなくて意表を突かれたからなだけだ!次にあんたに負ける事なんか無いだろうが、次は僕がやって勝ってやる!ローリーのかたきは僕が打つ!」
「あ、そう、せいぜいがんばることね」
そしてやはり二人は火花を散らす。
間に入っているスティア皇子は困ったように二人をなだめる。
「あの、仲直りしに来たのでしょう?ベリル?」
「……‥」
「ティア様、大会は終わったことですし、騎士の件もこれで一応片が付いたでしょう?」
「………」
「あの、そんなルウドさんの事でそんなにムキにならなくても。正直喧嘩する理由も理解出来ないって言うか。どうでもよくないですか?」
「なんですって?」
ティア姫の火花がスティア皇子に向けられた。
「私のルウドが奪われようとしている時に黙って見てなんていられるわけないでしょう?スティア!あなた危機感薄いわよ!あなただって大事な騎士が取られそうになったら黙っていられないでしょう?」
「いや、あの、うちは基本自由なんで。そりゃフレイとかいなくなられたら困るけどまあ本人の意思に任せるというか…」
「本人の意思?駄目ね!駄目駄目だわ!そんな人任せにしているから弱いお坊ちゃんのままなのよ!軟弱な皇子のままでいい騎士が集まると思って?たとえ集まってもうまく動かせなきゃ皆離れて行くだけよ、お馬鹿さんね!」
「……‥はい…」
ティア姫にぐっさりと的を突かれて止めを刺されてしまった。
これでは姫の心どころか誰の心も掴めない。
スティアは自信を地の果てまで落とされてしまった。
「うっ、ごめんなさい…‥」
横で聞いていたベリル皇子もとても人事とは思えず深刻な顔になった。
「しかしマルスの姫が魔女とは。スティアは知っていたのだな?」
「ベリル、まさかあんな魔法が使えるなんて知らなかったよ。すごかったなあれ」
スティアが姫の所業を思い出し、尊敬のまなざしを姫に向ける。
「魔法なんて、すごく勉強してもなかなか出来る事じゃないでしょう?」
ティア姫が機嫌を良くして得意げになったのでルウドがすかさず口を挟む。
「魔法じゃありません。あんなものはただの錯覚ですよ」
ティア姫に睨まれたがルウドは知らぬ顔で言い続ける。
「ただの道具を使ったはったりです。ローリー殿はまんまと薬で眠らされただけです」
「ルウド!勝ちは勝ちよ?気に入らない訳?負けたくせに」
「姫の手の内を知り尽くしたものには効きやしませんよ?」
「一緒に寝てたくせに」
「……」
「ええと、眠り薬は分かったけどあの風の魔法は?あれは魔法と言うべきものではないのかい?」
ルウドの隣のフレイが真面目に説明を求めたのでルウドが口を開く。
「あれは確かに魔法の杖ですがうちの魔法使いが造った道具です。うちの魔法使いは姫に甘くて。確か二、三年前の夏に姫が暑いから何とかしろと駄々をこねて作らせた送風機でしょう?冷たい水を杖に仕込めば涼しい風が吹き、熱い湯を入れて風を送ると温風が出るというすぐれものです」
「道具と言うのは使い方次第でどんな風にも使えるものよ?」
「姫様を楽しませて差し上げようという目的で造られたあの丸薬。闇で光れば綺麗な花火が出るというのに人を驚かすような悪用ばかりに使って。魔法使いが泣いてますよ?」
「折角だから色々試してみたかったのよ」
「痺れ薬まで使う事ないでしょうに」
「ローリーはなかなかしぶとかったから」
「足止めの魔法まで使って。卑怯満載でしたね」
「相手は最強騎士よ。最初から多々のハンデがあっても当然だと宣言したでしょう?」
ティア姫は悪びれもしない。困った魔女だとルウドは息を吐く。
「スティア様はともかくロレイアの王族の皆さまの前でなにも魔女を晒す事なかったでしょうに。ああ王家の方々はどう思われたことか……」
「面白い余興だったと喜んでいたよ。だからあまり気に病まないでいいよ、ルウドも」
「……スティア皇子、そうですか。しかしやはり一応お詫びに窺わねば。皇子がたの顔も潰してしまった事ですし」
「まあ別に兄上も母上も気にしていなかったけどね」
「だからと言って知らぬ顔は出来ません。さあお詫びに行きますよ、姫様」
「ええ?なんで私が?」
「貴方の所業でしょう!マルスの姫としてしっかり始末をつけなさい!」
「………」
ティア姫はしぶしぶルウドに従い、王妃や皇子達の所へお詫び廻りにいった。
幾らなんでも他国でやり過ぎたかもと、姫も少しは反省したらしい。
しかしこれ以降、マルスの騎士と魔女が出たこの剣技大会はロレイアの騎士達の語り草となり、他国にまで面白おかしく流され語られる噂話となった。
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