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第二十一話 魔女の秘策
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しおりを挟む勝負は時の運と言うがティア姫には冗談ではなかった。
周囲が歓声を上げ力の限り戦った二人が握手を交わし喜んでいるが、姫は最高潮に怒り狂っていた。
ふざけるな。
姫の周りにいる下僕達は震えあがった。
もう誰も姫を止める事は出来ない。
優勝者が決まり、祝賀ムードに沸き上がった会場に怒りに燃える黒々とした人物が現れ競技場に立ち、宣言する。
「お待ちなさい、ローリ隊長。まだ試合は終わっていなくてよ。私の物が欲しいならば、私を倒しなさい!」
「……え?」
何故か杖とローブを羽織った魔女姿のティア姫が優勝者ローリーに杖先を突き立てる。
「うちの騎士倒したくらいでいい気になってんじゃないわよ!この私を倒さない限り私は絶対認めないわよ!
そこで高みの見物してるヘタレ皇子、見てなさい!私は大人しくこんな結果認めて自分の物を渡すほど諦めは良くないわ!そこの騎士を倒せば私の勝ち!それで終わりよ!」
「………!」
ヘタレ皇子は余りの事に言葉を失った。
「……え、と、ししししし審判…?」
審判は何故か怯えた表情でローリーに伝える。
「特別試合を認めます、その、王妃も皇子も合意の上で……」
「え……?」
ローリーが客席を見ると皇子達に目を逸らされた。
「………」
「ティア様!何考えているのです!あなた剣使えないでしょう?剣技大会ですよ?」
「負け犬は黙ってなさい」
「……‥」
負け犬ルウドは黙った。
「特別ルール―よ?貴方は騎士、私は姫。多々のハンデがあっても後で言いがかりを付けるのはやめて貰うわよ?負けは負けよ、認めなさい」
「……ええと、姫様……しかし…」
「私の持つ技術の全てを駆使してでもあなたに勝つわ!うちの騎士は誰ひとりヘタレになんかくれてやらないわ!」
姫は謎の杖を振い、ローリーに向ける。
「……ひ、姫…‥」
マルスの騎士達はなんだか感動したが、隊長ルウドは戦慄した。
どうしよう、姫を止められない。
互いの技を競い合い、ようやくその勝者が決まったとき、とうとうラスボスが競技場に現れた。
真っ黒いローブを羽織り、怪しげな木の杖を持った魔女である。
「…え?あの……?」
ローリーが困っているうちに試合開始の合図が上がってしまった。
ティア姫が杖を一振りすると突然競技場内が突風に包まれた。
「――――なっ?魔法?」
風はティアの杖から巻き起こり、ローリーの周囲を包むように流れる。
そしてティアは開いた手で懐に隠し持っていた銃を取り出しローリーに向ける。
「…‥‥えっ、拳銃?」
ティアは容赦なくローリーに向けて撃った。それは水の玉で何発もローリーに向けてはなったが彼に直接命中することはなく、風の中に巻き込まれていった。
「…‥な、何のつもり…‥?」
拳銃が玉切れすると懐に戻して再び杖をかざす。
「…‥えっ?」
姫の魔法なのか、円陣の光がローリーの足元を照らす。
「貴方はそこから動けないわ、観念なさい」
「え……!」
ローリーは動こうとするがやはり動けない。
姫の起こす風がローリーと周囲の観客席にも巻き起こる。
そして…‥
「―――――う?」
「あれえ…?」
「―――――――?」
観客席から異変が起こる。風に包まれた人々が次々に倒れて行く。
「ひっ、姫、まさか眠り…‥」
ローリーは口を押さえ、膝を折る。
「―――――くっ…こんな…」
「なかなかしぶといわね、ローリー」
ティア姫は首に付けていた白い球を取り、ローリーの魔法陣にほおり込む。
「えっ?ぐわあああっ!」
円陣の中で白い球が爆竹の如く爆発した。そして―――
「…っ、なんか、身体が痺れ……ッ」
ローリーが倒れ、動かなくなった。
「……‥」
魔女がじろりと審判を睨むと、審判はあえなく宣言する。
「ローリー様戦闘不能。姫様の勝利です」
辺りが静まりかえった。
と言っても観客席の一、二階部分の大半の客は眠らされていた。
三階席の城階部分にいた皇子達は呆然とし、ベリル皇子は開いた口が閉じられなくなった。
「私に勝とうなんて百万年早いのよ!全く私の物を奪おうなんてそこのヘタレ皇子にも呆れたものだけど何なのかしら?戦えもせずに負けるなんて」
騎士は強いが幾らなんでも魔女相手の戦い方など知らなかった。
しかも姫に剣を向けるなど計算外だ。
しかしティア姫はベリル皇子に向けて堂々と豪気に言い放つ。
「私の物が欲しいなら直接私に挑んできなさい。でなければ何一つ認めないし渡しはしないわ!」
姫は高笑いをあげながら会場を後にして行った。
辺りには真っ白になった騎士や皇子達と眠りこける観客達だけが取り残された。
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