140 / 200
第二十一話 魔女の秘策
4
しおりを挟むロレイアの剣技大会の通例として決勝に残った二人を相手に王騎士二人が剣を組みかわす前座試合があった。
競技場に四人が集い、王族前でそれぞれの技を披露する戦いである。
この戦いは決勝に残った二人が協力して王騎士をと戦ってもいいし、互いに一対一で戦ってもいい。
前座試合は毎回戦法が違った。
「さて今回はどうする?2人纏めてかかって来てもこちらは一向に構わんぞ?」
「御冗談を。一対一で精一杯ですよ」
競技場に立った四人は王族に一礼し、そして相手と握手を交わす。
「ローリー様、私色々不利ですが。王様の騎士の情報が」
「ああそうだね、ルウド隊長の前にいる彼の名はリゼイン、王騎士歴四十ウン年。経験と実力はすごく高いよ」
「強いのは分かりますが他には?」
「それは剣を交えてみて考えてくれたまえ」
「そんな…‥」
「ちなみに私の前にいるのはグラデイオ。王と共に戦場を駆け抜けてきた最強騎士だ。こちらの歴戦の強敵がいいなら代わるよ?」
「いえ……」
ルウドは前方の王騎士リゼインに剣を向ける。
「よ、よろしくお願いします」
「マルスの騎士よ、遠慮なくかかってきなさい」
ともあれ懐へ飛び込んでみなければ分からない。
ルウドは開始の合図とともに用心しながら王騎士の間合いに飛び込んだ。
王騎士と勝ち残ってきた二人の騎士たちの戦いを王族や騎士達が息を呑んで見守っていた。ティア姫も同様である。
しかし―――――
「…‥ひ、ひひひひひ姫様、申し訳ございません…」
「…ジル。あっさり負けすぎよ。あとはもうルウドしか。あてにならないけど」
室内の窓から王騎士との試合を眺めながらティア姫は忌々しそうに件のベリル皇子に目を向ける。
王族の応援席で楽しげに白熱した試合を眺めている。
「結局は自分で片を付けるしかないということね。仕方がないわ」
ジルはビクリを姫を見る。
「ひ、姫様、何を…・?」
「もう手は打ってあるわ。あとは、貴方も手伝いなさいよ?」
「………は、はい」
ローリーを倒せなかったジルにはもう姫を止められない。というか姫が一体何をやらかすのか、ジルには及びもつかない。
ただ、短気を起こした姫が決勝の会場ごと爆破してしまわない事を願うばかりだった。
王騎士は強い。
ルウドはリゼインの隙を図り、間合いに入って素早く打ち合い、そしてすぐに下がる。
リゼインはルウドの剣を力強く振り払い薙ぎ払い、防御も隙がなく強い。
ルウドはリゼインの動きを見ては同じ攻撃を何度も繰り返した。
するととうとう苦情が出た。
「――――こりゃ若造!同じ攻撃ばかりなんだ!絶対的必殺技を出さんか!そんな小技でこのわしを倒せると思うたか!舐めるでないぞ!」
「えっ、申し訳ありません…」
文句を言われたがルウドにそんな大技はない。
さらに相手を見るとすでに息を切らしているようだ。
「……‥」
一体どうすればいいんだ?
ちらりとローリーの方を見ると彼はにやりと笑みを見せ、グラデイオに向かっていく。
派手に高く飛びあがると剣を大振りに振りおろす。
グラデイオはその剣を振り払い大勢を立て直す前にローリーの横薙ぎを防ぎそこね、倒れた。
「くうう、さすがローリー、腕をあげたな」
「有難うございます」
ローリーはグラデイオの手を取り立ち上がらせる。
そこで周囲から拍手がわき、それで試合がおわる。
「……」
つまり大技で王騎士を倒せばいいと言う事らしい。
見た所彼らは強く誇り高い王騎士ではあるがやはり年齢が禍し、若い騎士達の相手は難しいようだ。
ともあれ彼らの誇りを守るべくルウドも派手に見える技を使い、リゼインを倒した。
多少力が入り過ぎて彼を昏倒させてしまった事はちょっぴり反省した。
少しの休憩の後、決勝戦が始まる。
王族貴族騎士達が見守る中、最高潮の盛り上がりを見せている。
選手はマルスの騎士ルウドと黒騎士隊長ローリーである。
二人が競技場に上がったところで盛大な歓声が上がった。
「やあルウド。嬉しいな、こんな場で戦えるのは。マルスの騎士がどのくらい強いのか試させて貰うよ?」
「ローリー様、私など国ではまだまだ下っ端で。うちの国には私など相手にもならない位の強い騎士達がゴロゴロいます。ここまで来れたのは運が良かった程度の事でしょう」
「運も実力の内さ。一度君の国にも行ってみたいなあ」
「よろしければぜひ」
ローリーは笑って頷き、剣を構える。
そして試合開始の合図とともに激しい打ち合いが始まった。
両者の腕は拮抗していた。その上スタミナも同等。
二人は最初からハイテンションで戦いを楽しんでいる。
試合はまだまだ長く続く。
王や、皇子達、騎士達も真剣に試合を見ていた。
ローリーと互角に戦える者など滅多にいない。
「うーむ、いいなああの騎士」
「ルウド、やっぱりあの姫のお守にしておくのは惜しい人材だな。ローリーに負けたらホントに来てくれないかな…」
「ベリル、そう言えばそんな賭けをしていたって?」
「クライブ、そうだけどルウドがどう言うか分からない」
「今回は諦めた方がいいね、たぶん」
「僕だってそこまで期待してないよ」
応援席でクライブがあいまいに笑う。
ベリルは聡明だがまだ子供っぽさも併せ持つ。
姫に喧嘩を売られて勢いで買っただけだ。
何も姫の物を本気で取ろうとかは考えてはいない。
久しぶりの手ごたえのある相手にローリーは手加減なく楽しんでいた。
「必殺!ローリースペシャル!」
いきなり懐に飛び込んで相手の腰に蹴りを入れ、その反動で折り返し突っ込み突きを繰り返す攻撃である。
蹴られたルウドは後ろに跳ねてローリーの突きを全部交わし、その間横薙ぎの剣を振う。
「…なんですそのふざけた技名は!」
「失敬だね君は、そして余裕があるかい!」
「ただの突きじゃないですか!」
ルウドの横薙ぎを避けた彼は後ろに下がり剣を持ちかえルウドに向かう。
縦切り横切り斜め切り、どれだけ技を繰りだしてもすべてうまく塞がれ切り返された。
大技小技を切りだしても全て見きられた。
他国から来たルウド=ランジールの剣技はとても重くて強い剣だと部下からの情報も入っていた。そして持久力も計り知れないと聞いている。
経験はローリーに比べればまだまだ浅いが技術は同等と試合を見てとうに推し量っていた。
が、ここにきてもう一つ分かったことがある。
熱くなるローリー相手にいつまでも冷静なままのルウド。
彼も確かにローリー相手に試合を楽しんでいるがその目はずっと冷静なまま相手を観察している。相手の動きを集中して観察し、瞬時に分析し攻撃を防いでいる。
彼の冷静な分析力が怖い。
これを壊すには彼の集中力を削ぐ事に尽きる。
ローリーは攻撃を仕掛けながらひとしきり考える。
弱点。卑怯だが相手の弱点を突くのも戦法だ。
「そう言えば君、負けたらロレイアに残るって?嬉しいなあ」
「そんなことにはなりませんよ、今すぐどうこう出来る話じゃないのはベリル様も分かっていますから」
「そうかい?でも君のお姫様は絶対分かっていないよねえ?どうする気だろうねえ?」
「姫は自分でどうにかするでしょう。知りません!何故今そんな話を…!」
「いや何か企んでる風だったからさあ?」
「……‥」
ルウドの剣が鈍った。ルウドの集中力が低下した。
「そう言えば優勝者には姫からの熱いキスだってね?ここで?周囲の熱い視線の中で!そりゃ堪らないねえ!君の目の前で!」
「……‥」
ルウドの額から何だか変な汗が出てきた。
ルウドの防御力が心なしか落ちてきた。
「…ひっ、姫は自分で何とかすると……!そそそそ、そんなの今関係ないでしょう!」
「何とかするってどうするのかなあ?面白いねえ、想像もつかなくて」
「……‥」
ルウドの集中力が切れて来た。
ローリーはすかさずルウドに小手を入れた。
「一本!」
「……‥」
会場は歓声に沸く。
ルウドはローリーに非難の目を向けたが何も言わず立ち上がる。
「姫の事は責任持ちません。折角の勝負なのにいらぬ雑念で邪魔されたくありません!」
「そうかい?でもすぐそこで姫様すごく睨んでるけど…」
「――――――…!」
ルウドはちらりと客席を見たが知らぬ存ぜぬを通した。
しかし彼の研ぎ澄まされた集中力は完全に途切れている。
ローリーは開始の合図と共にルウドに突っ込み間髪入れず攻撃を仕掛ける。
ルウドは押され気味に剣を防ぎ続ける。
「――――――くっ…!」
「責任逃れしても姫は聞かないかもねえ」
「ローリー殿、勝負中に姫の話はやめて下さい」
「いやあごめんねえ、弱点を突くのも戦法の一つでねえ」
「…‥弱点‥…」
間違いではないが多少不服である。
ルウドは気を取り直して神経をとがらせる。
ローリーから二、三歩間合いを取って態勢を立て直し、ルウドからローリーに飛びこむ。
「――――あっ!」
「えっ?」
ルウドはすかさず腰を落としローリーの足を掛け同時に下から腰を打った。
「一本!」
「………」
不意をつかれたローリーは苦々しく笑う。
やはり弱点不意突き戦法は両者に不利っぽい。
「……悪かったよ、ここはもう全力勝負しかないのだね」
ルウドは笑い頷き、冷静に相手を見る。
最終戦は互いの実力を出し切る力勝負となった。
0
あなたにおすすめの小説
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
崖っぷち令嬢の生き残り術
甘寧
恋愛
「婚約破棄ですか…構いませんよ?子種だけ頂けたらね」
主人公であるリディアは両親亡き後、子爵家当主としてある日、いわく付きの土地を引き継いだ。
その土地に住まう精霊、レウルェに契約という名の呪いをかけられ、三年の内に子供を成さねばならなくなった。
ある満月の夜、契約印の力で発情状態のリディアの前に、不審な男が飛び込んできた。背に腹はかえられないと、リディアは目の前の男に縋りついた。
知らぬ男と一夜を共にしたが、反省はしても後悔はない。
清々しい気持ちで朝を迎えたリディアだったが……契約印が消えてない!?
困惑するリディア。更に困惑する事態が訪れて……
事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~
水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」
第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。
彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。
だが、彼女は知っていた。
その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。
追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。
「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」
「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」
戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。
効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。
助けた騎士団になつかれました。
藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。
しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。
一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。
☆本編完結しました。ありがとうございました!☆
番外編①~2020.03.11 終了
【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~
夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」
婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。
「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」
オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。
傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。
オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。
国は困ることになるだろう。
だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。
警告を無視して、オフェリアを国外追放した。
国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。
ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。
一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました
菱沼あゆ
恋愛
ご先祖さまの残した証文のせいで、ホテル王 有坂桔平(ありさか きっぺい)と戸籍上だけの婚姻関係を結んでいる花木真珠(はなき まじゅ)。
一度だけ結婚式で会った桔平に、
「これもなにかの縁でしょう。
なにか困ったことがあったら言ってください」
と言ったのだが。
ついにそのときが来たようだった。
「妻が必要になった。
月末までにドバイに来てくれ」
そう言われ、迎えに来てくれた桔平と空港で待ち合わせた真珠だったが。
……私の夫はどの人ですかっ。
コンタクト忘れていった結婚式の日に、一度しか会っていないのでわかりません~っ。
よく知らない夫と結婚以来、初めての再会でいきなり旅に出ることになった真珠のドバイ旅行記。
ちょっぴりモルディブです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる