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第二十一話 魔女の秘策
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しおりを挟むロレイアの剣技大会の通例として決勝に残った二人を相手に王騎士二人が剣を組みかわす前座試合があった。
競技場に四人が集い、王族前でそれぞれの技を披露する戦いである。
この戦いは決勝に残った二人が協力して王騎士をと戦ってもいいし、互いに一対一で戦ってもいい。
前座試合は毎回戦法が違った。
「さて今回はどうする?2人纏めてかかって来てもこちらは一向に構わんぞ?」
「御冗談を。一対一で精一杯ですよ」
競技場に立った四人は王族に一礼し、そして相手と握手を交わす。
「ローリー様、私色々不利ですが。王様の騎士の情報が」
「ああそうだね、ルウド隊長の前にいる彼の名はリゼイン、王騎士歴四十ウン年。経験と実力はすごく高いよ」
「強いのは分かりますが他には?」
「それは剣を交えてみて考えてくれたまえ」
「そんな…‥」
「ちなみに私の前にいるのはグラデイオ。王と共に戦場を駆け抜けてきた最強騎士だ。こちらの歴戦の強敵がいいなら代わるよ?」
「いえ……」
ルウドは前方の王騎士リゼインに剣を向ける。
「よ、よろしくお願いします」
「マルスの騎士よ、遠慮なくかかってきなさい」
ともあれ懐へ飛び込んでみなければ分からない。
ルウドは開始の合図とともに用心しながら王騎士の間合いに飛び込んだ。
王騎士と勝ち残ってきた二人の騎士たちの戦いを王族や騎士達が息を呑んで見守っていた。ティア姫も同様である。
しかし―――――
「…‥ひ、ひひひひひ姫様、申し訳ございません…」
「…ジル。あっさり負けすぎよ。あとはもうルウドしか。あてにならないけど」
室内の窓から王騎士との試合を眺めながらティア姫は忌々しそうに件のベリル皇子に目を向ける。
王族の応援席で楽しげに白熱した試合を眺めている。
「結局は自分で片を付けるしかないということね。仕方がないわ」
ジルはビクリを姫を見る。
「ひ、姫様、何を…・?」
「もう手は打ってあるわ。あとは、貴方も手伝いなさいよ?」
「………は、はい」
ローリーを倒せなかったジルにはもう姫を止められない。というか姫が一体何をやらかすのか、ジルには及びもつかない。
ただ、短気を起こした姫が決勝の会場ごと爆破してしまわない事を願うばかりだった。
王騎士は強い。
ルウドはリゼインの隙を図り、間合いに入って素早く打ち合い、そしてすぐに下がる。
リゼインはルウドの剣を力強く振り払い薙ぎ払い、防御も隙がなく強い。
ルウドはリゼインの動きを見ては同じ攻撃を何度も繰り返した。
するととうとう苦情が出た。
「――――こりゃ若造!同じ攻撃ばかりなんだ!絶対的必殺技を出さんか!そんな小技でこのわしを倒せると思うたか!舐めるでないぞ!」
「えっ、申し訳ありません…」
文句を言われたがルウドにそんな大技はない。
さらに相手を見るとすでに息を切らしているようだ。
「……‥」
一体どうすればいいんだ?
ちらりとローリーの方を見ると彼はにやりと笑みを見せ、グラデイオに向かっていく。
派手に高く飛びあがると剣を大振りに振りおろす。
グラデイオはその剣を振り払い大勢を立て直す前にローリーの横薙ぎを防ぎそこね、倒れた。
「くうう、さすがローリー、腕をあげたな」
「有難うございます」
ローリーはグラデイオの手を取り立ち上がらせる。
そこで周囲から拍手がわき、それで試合がおわる。
「……」
つまり大技で王騎士を倒せばいいと言う事らしい。
見た所彼らは強く誇り高い王騎士ではあるがやはり年齢が禍し、若い騎士達の相手は難しいようだ。
ともあれ彼らの誇りを守るべくルウドも派手に見える技を使い、リゼインを倒した。
多少力が入り過ぎて彼を昏倒させてしまった事はちょっぴり反省した。
少しの休憩の後、決勝戦が始まる。
王族貴族騎士達が見守る中、最高潮の盛り上がりを見せている。
選手はマルスの騎士ルウドと黒騎士隊長ローリーである。
二人が競技場に上がったところで盛大な歓声が上がった。
「やあルウド。嬉しいな、こんな場で戦えるのは。マルスの騎士がどのくらい強いのか試させて貰うよ?」
「ローリー様、私など国ではまだまだ下っ端で。うちの国には私など相手にもならない位の強い騎士達がゴロゴロいます。ここまで来れたのは運が良かった程度の事でしょう」
「運も実力の内さ。一度君の国にも行ってみたいなあ」
「よろしければぜひ」
ローリーは笑って頷き、剣を構える。
そして試合開始の合図とともに激しい打ち合いが始まった。
両者の腕は拮抗していた。その上スタミナも同等。
二人は最初からハイテンションで戦いを楽しんでいる。
試合はまだまだ長く続く。
王や、皇子達、騎士達も真剣に試合を見ていた。
ローリーと互角に戦える者など滅多にいない。
「うーむ、いいなああの騎士」
「ルウド、やっぱりあの姫のお守にしておくのは惜しい人材だな。ローリーに負けたらホントに来てくれないかな…」
「ベリル、そう言えばそんな賭けをしていたって?」
「クライブ、そうだけどルウドがどう言うか分からない」
「今回は諦めた方がいいね、たぶん」
「僕だってそこまで期待してないよ」
応援席でクライブがあいまいに笑う。
ベリルは聡明だがまだ子供っぽさも併せ持つ。
姫に喧嘩を売られて勢いで買っただけだ。
何も姫の物を本気で取ろうとかは考えてはいない。
久しぶりの手ごたえのある相手にローリーは手加減なく楽しんでいた。
「必殺!ローリースペシャル!」
いきなり懐に飛び込んで相手の腰に蹴りを入れ、その反動で折り返し突っ込み突きを繰り返す攻撃である。
蹴られたルウドは後ろに跳ねてローリーの突きを全部交わし、その間横薙ぎの剣を振う。
「…なんですそのふざけた技名は!」
「失敬だね君は、そして余裕があるかい!」
「ただの突きじゃないですか!」
ルウドの横薙ぎを避けた彼は後ろに下がり剣を持ちかえルウドに向かう。
縦切り横切り斜め切り、どれだけ技を繰りだしてもすべてうまく塞がれ切り返された。
大技小技を切りだしても全て見きられた。
他国から来たルウド=ランジールの剣技はとても重くて強い剣だと部下からの情報も入っていた。そして持久力も計り知れないと聞いている。
経験はローリーに比べればまだまだ浅いが技術は同等と試合を見てとうに推し量っていた。
が、ここにきてもう一つ分かったことがある。
熱くなるローリー相手にいつまでも冷静なままのルウド。
彼も確かにローリー相手に試合を楽しんでいるがその目はずっと冷静なまま相手を観察している。相手の動きを集中して観察し、瞬時に分析し攻撃を防いでいる。
彼の冷静な分析力が怖い。
これを壊すには彼の集中力を削ぐ事に尽きる。
ローリーは攻撃を仕掛けながらひとしきり考える。
弱点。卑怯だが相手の弱点を突くのも戦法だ。
「そう言えば君、負けたらロレイアに残るって?嬉しいなあ」
「そんなことにはなりませんよ、今すぐどうこう出来る話じゃないのはベリル様も分かっていますから」
「そうかい?でも君のお姫様は絶対分かっていないよねえ?どうする気だろうねえ?」
「姫は自分でどうにかするでしょう。知りません!何故今そんな話を…!」
「いや何か企んでる風だったからさあ?」
「……‥」
ルウドの剣が鈍った。ルウドの集中力が低下した。
「そう言えば優勝者には姫からの熱いキスだってね?ここで?周囲の熱い視線の中で!そりゃ堪らないねえ!君の目の前で!」
「……‥」
ルウドの額から何だか変な汗が出てきた。
ルウドの防御力が心なしか落ちてきた。
「…ひっ、姫は自分で何とかすると……!そそそそ、そんなの今関係ないでしょう!」
「何とかするってどうするのかなあ?面白いねえ、想像もつかなくて」
「……‥」
ルウドの集中力が切れて来た。
ローリーはすかさずルウドに小手を入れた。
「一本!」
「……‥」
会場は歓声に沸く。
ルウドはローリーに非難の目を向けたが何も言わず立ち上がる。
「姫の事は責任持ちません。折角の勝負なのにいらぬ雑念で邪魔されたくありません!」
「そうかい?でもすぐそこで姫様すごく睨んでるけど…」
「――――――…!」
ルウドはちらりと客席を見たが知らぬ存ぜぬを通した。
しかし彼の研ぎ澄まされた集中力は完全に途切れている。
ローリーは開始の合図と共にルウドに突っ込み間髪入れず攻撃を仕掛ける。
ルウドは押され気味に剣を防ぎ続ける。
「――――――くっ…!」
「責任逃れしても姫は聞かないかもねえ」
「ローリー殿、勝負中に姫の話はやめて下さい」
「いやあごめんねえ、弱点を突くのも戦法の一つでねえ」
「…‥弱点‥…」
間違いではないが多少不服である。
ルウドは気を取り直して神経をとがらせる。
ローリーから二、三歩間合いを取って態勢を立て直し、ルウドからローリーに飛びこむ。
「――――あっ!」
「えっ?」
ルウドはすかさず腰を落としローリーの足を掛け同時に下から腰を打った。
「一本!」
「………」
不意をつかれたローリーは苦々しく笑う。
やはり弱点不意突き戦法は両者に不利っぽい。
「……悪かったよ、ここはもう全力勝負しかないのだね」
ルウドは笑い頷き、冷静に相手を見る。
最終戦は互いの実力を出し切る力勝負となった。
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