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第二十一話 魔女の秘策
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しおりを挟む長期戦に入っているルウド対フレイ戦は最初の勢いから全く変わらず続いていた。
傍にも重い剣を振るうルウドをフレイは受け流して返す。
フレイは素早く攻撃に転じ、ルウドの動きを予測しながら間合いをはかる。
息をつく暇もない戦いが続いていた。
傍から見ると最初からずっと変わらない早さ、強さ、勢いなのだがこの長期戦で流石のフレイも疲労を感じて来ていた。
しかし対するルウドは全く変わらない重い剣を素早くふるいながらも疲れが見られる感じがない。
フレイは何だかだんだん目前の敵が怪物に見えてきた。
なので少し聞いてみる。
「ルウド、少し疲れてきたろう?」
「え、いいえ全く。これからでしょう戦いは。いい所なのですから雑談は止めて下さい」
「……」
何だか楽しそうなルウドを見てフレイはホントに目の前にいるのが怪物な気がしてきた。
フレイの動きになかなか不慣れを感じていたルウドも長期戦で大分慣れてきた。
彼の動きは傍から見れば不規則だが、それでも動く当人には一定の規則性があった。
それを見破れば型を破ることは簡単だが、フレイ隊長の動きはこのロレイアで覚えた型と元から持って居た型が組み合わさって完成された型のように思われる。
二つの動きを見極めると言うのは容易なことではない。
フレイの動きに慣れてはきたがルウドはけして見極めてはいなかった。
ただフレイの動きを見て技を繰り出し、剣を返す。
ほとんど本能的な野生の勘ともいう力でただ動く。
何も考えず、ルウドはただフレイに集中し、動きに合わせて剣を振るう。
楽しかった。滅多に出来る経験ではない。
強い彼らと戦っていると、自分ももっと強くなれる気すらした。
変わらない剣技を見せる二人だが微妙な変化を王騎士ダンダリアは見た。
動きと速度がフレイ隊長の剣技の特性だが重い斬撃を素早く振るい続けるルウドに流石のフレイも押されてきた。
長期的な戦いとなれば互いの持久力が戦いを左右する。もはやただの消耗戦ともいえる。
「……」
二人は強いが致命的な欠点をダンダリアは見た。
ダンダリアは歴戦の勇者。幾度もの戦地を駆け巡り生き残ってきた。
仲間が死にただの一人になっても生き残れたのは、幾千幾万の敵をも相手の出来る必殺の剣を持っていたからだ。
命を懸けた戦いというものをしたことのないルウドと、恐らく戦場経験のないフレイにはそれがない。
もはや勝敗は決していた。
「試合が終わってしまうぞ。まだそちらは決まらんのか?」
「もう少しお待ちを、いま候補者たちが狩りをしておりますので」
「次の試合はローリー戦だ。どうせそう時間もかからんぞ?早く決めてしまえ」
「はい!すぐに!」
彼の部下は慌てて部屋を出て行った。
候補者たちの勝負の時間切れの合図が鳴った。
騎士達の紋章狩りをしていた王騎士達は選定の部屋に戻り結果を待つ。
例え何十枚紋章を取っても持ち主の実力によって点を付けられるので結果が出なければ分からない。
候補者十名はカラーの騎士達から紋章を奪い取ってきた。
点が高いのは赤、黒、薄紫の騎士である。しかし雑魚では点も入らない。
「うーん、お前らどうだった?」
「うん、たぶん強い騎士の紋章をとったと思ったがなあ…。最近の騎士は張りがないからホントに強いかよう分からん」
「黒騎士でも強いとは限らんのでなあ。集中的に奪っても点になるのかどうか?」
「見学者などそれほど強い騎士ではなかろう。微妙なところだなあ」
待ち時間に探り合いをしたところでこんなところだ。余り意味はない。
そして選定者が結果を持ってやってきた。彼はダンダリアの右腕セリアムという。
「……セ、セリアムどの?」
「うーん、本音を言ってしまえばだれでもいいかなあ。頑張って奪ってきたこの紋章だがどれも似たり寄ったりの実力者ばかりだ。
そもそも今回の試合、実力者は全て試合に参加し、しかもあっけなく敗れて病院行きだ。
初戦の一撃で他国の騎士にやられた例の彼などまだ立ち直れずに引きこもってるらしい。
情けない事にそんな騎士が多数いてな、その辺で見学などしている騎士はあっけなく負けて祭りに響じている者たちばかりだ。大した腕ではない」
「それでは私達の選定が」
「見た所点が付くのは赤騎士ロべーヌ、黒騎士ルアン、薄紫トール。緑のドードリ、青のザービア。そんなところだな。彼らの紋章を取ってきたのは三人か、もう時間もない事だしじゃんけんで二人決めてくれ」
「………」
王騎士三人は結局じゃんけんで挑戦者二人を決めた。
試合は最高潮に盛り上がっていた。
ルウド隊長対フレイ隊長の試合がルウドの勝利という結果で終わり、次の対戦はローリー隊長対マルスの騎士ジルの試合が始まる。
ローリーは誰もが知る最強の騎士だがマルスの騎士ジルは前試合でクライブ皇子を破っている。
なかなか面白い試合になると周囲は期待に満ちていた。
いつも慣れているローリー隊長とは違い、さすがにジルは緊張していた。
こんな何千人もの観衆がいる中での試合は初めてなのだ。
目に見える所にロレイアの王族や、ティア姫様もいる。
ティア姫は祈るようにジルを睨んでいる。他の観衆は期待を込めた視線で。
「……やあ大丈夫かい?」
「大丈夫じゃないです」
目の前にいるロレイア最強騎士ローリーは楽しそうにジルを見る。
「そんなに堅くなっていては実力を出せないよ。軽く行こうよ、軽くね」
「はい…」
そう言われてもローリーの軽くレベルはジルの軽くレベルとははるかに違いがあり過ぎる。
長々と試合をしても未だに楽しんでやっているとある隊長とは違いジルは先刻のクライブ戦でもう力を使い果たした。
圧倒的に不利な戦いである。
「ローリー様、うちの姫の顔を立ててここで引いて下さいませんか?でないと後でどんな事が起こっても責任とれませんが」
「あのね君、もうそれやめなよ。お姫様の事は忘れて純粋な勝負を楽しもうよ?物騒なこと言わないでさ」
「物騒な事になる前に交渉しているのです。私が最後の姫の壁なので」
「ルウド隊長は?」
「隊長は姫の為には戦いませんよ。純粋に楽しみたいようなので」
「そうでなくてはね。単なる剣技大会なのだから。君もここまで来たのだから楽しまなくては」
「そうはいきません」
「そうか、それは残念だね」
そして試合開始の合図がでた。
騎士には騎士なりの卑怯な手段があると姫には言ったものの、そんな手段は相手が同等かそれ以下のものに使える奇跡的なもので、そもそも最強騎士ローリーに姑息な手など通用するはずもない。
経験も実力も上過ぎる相手にジルは全く歯が立たなかった。
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