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第二十二話 亡国の歴史
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しおりを挟む庭園は暖かく明るくて気持ちいい。
ティア姫は二人を連れて庭を散策しながら話す。
「さて、剣技大会もその始末も終わったことだし、帰る前に例の件を片付けなければならないわ。もうあちらからの返答は来たのよ。アリシアお姉さまからなのだけどね」
ルウドが息を呑んで姫を見つめる。
「そ、それで結果は?」
「どうやら当たりの様らしいわ。お姉さまがいうにはね。
ほら例の肖像画を国へ届けさせたでしょう?お兄様ったらあれを部屋に飾って部屋に籠って出てこなくなってしまったらしいわ。仕事が全く回らなくなって周囲が大変困っているそうよ。お姉さま方までお兄様の仕事をする羽目になっているって」
「それは大変な事態ですね。我々ものんびりしている訳にはいかないのでは?」
「そうね、早く帰った方がいいかも。でもそれで問題が解決するとは限らないけどね」
「ともあれ話を進めなければ」
「そうよね……」
ティア姫が珍しく何かに迷う風に呟く。
話の見えないスティアが困ったように尋ねる。
「あの…?すいません姫、私だけ話が分からないのですが?」
「ああそうでした、スティア様はお忙しそうでしたのでまだ話していませんでした。リリアナ様の話です」
「うちのお兄様があるパーティで一目ぼれした相手がリリアナかも知れないって話よ」
「…………パラレウス皇子が……‥あのリリアナを?まままままままままさかっ?そんな!何かの間違いでは?」
「肖像画を届けさせて確認させたけど、所詮肖像画ですもの。どれだけ似て居るかなんて分からないわ。私肖像画見てないし」
「そ、そうですよね?」
「ですからリリアナ様をうちの国へご招待する手はずを整える訳です」
「ええええええ?リリアナをマルスへ?」
「サラ王妃様にはもう話を通して手筈は整っているの。後は一度リリアナのご家族にご挨拶しに行かなければならないのだけど、もう行かないとね」
「そうですね」
「あの、それ、本人には?」
「言ってないわ。変な期待持たせるのも可哀そうだし、まだ本当かは分からないし。大体本人が何と言うか分からないし」
「ただ家に招待したいと言えば喜んで付いてくるかもしれないけど、事情を話したら断られるかもしれない。そんな気がしますね」
「……そうだね…」
夏花の咲く庭園を通り過ぎて、サラ王妃のいる庭へと入る。
王妃様はテラスでお茶をしながら読書などを嗜んでいた。
姫と皇子を認めて嬉しそうに微笑む。
「まあ、二人揃ってお散歩?仲が宜しい事」
後ろにいたルウドは密かに距離を取った。
「王妃様、私ももうじき国へ帰らねばなりません。その前にギルイッド家へご挨拶にまいらねばなりません」
「ああそうね、それならもう話してあるから何時でもよろしくてよ?そうね、明日にでも済ましてしまいましょうか。お帰りの準備とか姫もお忙しいでしょうし」
「有難うございます。素早いご対応でとても助かりますわ」
「うふふ、嬉しい事と言うものは手早く進めたいものですのよ?私ったらせっかちなので」
にこやかにティア姫とスティア皇子を眺めて言う。
こちらの二人も早く纏まって欲しいというのがサラ王妃の本心だろう。
王族とも縁深い由緒あるギルイッド伯爵家当主は本日頭を痛めていた。
それと言うもの先日お城に上がった三女リリアナが持ち帰ってきたセラ王妃からの手紙の内容のせいである。
それを渡された時はリリアナがやはり他国の姫を怒らせる言動をして大変な事になっているのかと真っ青になったのだが、その手紙の内容を見てその深刻さに脳が停止してしまった。
リリアナは問題なくお姫様とも仲良く接したらしい。それはそれで不思議で興味深いが、手紙を読んだ彼はそんな事に興味をもてる心境ではなかった。
ともあれ王妃の指示通りに例の物を城に届けさせ、まさかまさかと思いつつ二日程不安で眠れもしない落ち着かない日々を過ごし、そして三日目結果が届いた。
ギルイッド伯爵は真っ青を通り越して真っ白になった。
あまりの顔色に妻フィンネルが心配した。
「どうかなさったのですか?ここ数日ホントにおかしいですよあなた」
「…‥フ、フィンネル、これが笑わずにいられるか。あのリリアナが…‥リリアナが…‥嫌まさかそんな、間違いだ。これは絶対何かの間違いだ」
「何なのです?」
伯爵は妻に王妃から来た手紙を渡す。
手紙を見た妻は驚いた。
「――――――まあ、大変!」
「そうだ、これは絶対何かの間違いだ。これを何とか…」
「明日、セラと他国のお姫さまがご挨拶にいらっしゃるなんて。もっと早く言って下さらないと。ああ早く準備しなければなりませんわ!お姫様どんなお菓子がお好きかしら?ああそうだ、リリアナに聞けば分かるわね」
「………‥」
違う、それはそれで大変なのだろうが問題は挨拶の内容である。
妻は慌ててリリアナの部屋へと飛んでいく。
「リリアナ、リリアナ」
「まあお母様、どうなさったの?慌てて」
「慌てるわよ、明日他国のお姫様とセラがご訪問されるって」
「ああ、そういえば近々うちに来るってお二人から言われたわね。結構早かったけどまあもうすぐティア姫様も国へ帰られる時期だし」
「そう言う事はもっと早く言いなさいよ。ああ明日だなんて、どうしましょう!」
「そんな大袈裟に考えなくてもいいわよ。セラ様はたまにふらっと来られるし、ティア様もそんな感じで屋敷に遊びに来るつもりなのよ?」
二階の廊下から楽観的な声がする。手紙の内容を読んだ妻も何を考えているのか呑気なものだ。
「……‥」
伯爵は胃も痛くなってきた。
何故こんな事になったのか?やはりリリアナを王城になど出さなければ良かった。
次女マリアンナでも十分姫様のお相手は出来た。
「…‥何故リリアナなのだ?そうだ、マリアンナでもいいではないか。そうだ、やはりこれは何かの間違いだ。もっとしっかり話し合って状況を分析し、可能性を皆で考えなければならない!」
万が一にでも、間違いに違いない。そうであってほしい。
あのリリアナに王妃など万が一にも務まるはずがないのだから。
そして翌朝、セラ王妃とスティア皇子、そしてティア姫様が朗らかにやってきた。
客部屋でギルイッド伯妻フィンネルと三女リリアナが楽しくお茶をしながらお客様方と世間話に花を咲かせている。
「うふふ、それでどうなのかしら?スティア様は」
「お母様、そんなはっきり不躾に聞くものではないですよ」
「まあリリアナ?あなたがそんなこと言うなんて……?」
「結局お二人の問題なんです!他人が口を挟むと余計面倒になるのです!」
「………リリアナ、あなた………?」
フィンネルが不安そうにリリアナから皇子と姫の方に目を向ける。
「……何か大変なご迷惑をリリアナが?あの、もうご存じでしょうがこういう子なので…」
「いえ何も迷惑なんて掛っておりませんよ?」
スティア皇子が困ったように弁明し、ティア姫もふっとうすら笑う。
「寧ろ面白おかしくなってしまったわ。そうですね、リリアナにお会いできてある意味大変楽しかったですわ」
「そうですの?それは良かったわ」
素直に微笑むフィンネルとちょっとほっとしたようなリリアナは何も気付かず喜ぶ。
「それにしてもマルスの白薔薇姫にじかにお会いできるなんて何と言う幸運かしら。この功績の元はスティア皇子様にあるとお聞きしましたわ」
「そうそう、スティアがマルスへ赴いてティア様と友好関係を持つという奇跡が起こったのよ?詳細は教えて貰えないのだけど」
サラ王妃がちらりと皇子を見ると彼はふっと目を逸らす。
「…‥その話は聞かないでください。お願いですから。いいじゃないですかもう、結果さえよければ」
「その奇跡の過程がとても気になるのは私だけではないのだけど。まあいいわ、出会いの奇跡と言うのは結構身近にあるものだし」
「………‥そのようですね…」
スティア皇子は困ったように息を吐き、サラ王妃は嬉しげな視線をリリアナに向ける。
「何か嬉しいお知らせでもあるのですか王妃様?まさかお二人に進展が?」
「まあ、おほほほ、ないわね。もうスティアの件について焦るのはやめたのよ。結局当人同士の問題ですからね」
「気の長い話になりそうな気もしますが王妃様が宜しいなら私が口を挟むことではありませんね」
「ふふふ、いいのよもう。それよりもうじきティアさまが国へお戻りになってしまうでしょう?マルスは寒くなるのが他国より早い国だから夏が終わる前にはお戻りにならねばならないのよ。もっとごゆっくり滞在して頂きたかったのだけど仕方がないわ」
「寒くなったら旅はますます辛くなるので早めに出立しなければなりません。もっとゆっくりしていたかったけど。国の方でも困ったことが起こっているというし」
「ティア様、それはご心配でしょうね。でもせっかくお友達になれたのにもうお会いできなくなるのかしら?それはとても悲しいわ。お手紙とか書いても宜しいですか?」
「リリアナ、それよりもいっそ私の国へ来て下さらないかしら?一緒に国へ入ったらしばらくはここへは戻れなくなってしまうのだけれど」
「…‥ティア様、お誘いは嬉しいのですけど時期を改めて訪問させていただきますわ。他国のお城へ長期的になんて私には無理ですので。ここはやはりお手紙で」
「冬になったらお手紙も難しいのよ。春になってから纏めて届いたりするのよ?」
「そんなに寒くなるのですか?」
「まあ国周辺が山だしねえ。冬には他国の交友は厳しいわ」
「では今旅立てば春まで戻れないと。やはり残念ですが無理です」
「それは残念ね、うちの国は冬でも他国では見られない面白いものもあるのだけれど」
「そうなのですか…でも…‥」
リリアナが母に目を向けると彼女はニッコリ微笑み言う。
「行ってらっしゃいな。私達は一向に構わないわよ」
「え?お母様、そんなのお父様が許すはずがないと思うのですが」
「大丈夫よ?きっと許すと思うわ。だって姫様のご招待ですもの。文句の言えようはずがないわ」
「それはそうかもしれない、けど…‥」
リリアナは迷う。さすがに知らない国へ一人で行くのは不安だった。
「あー、ゴホン、失礼する」
リリアナが返事に渋っているとこの屋敷の主が部屋へ入ってきた。
「あ、お父様」
「リリアナ、私はすこし姫様方にお話がある。席を外してくれないか、自分の部屋へ戻っていなさい」
「え……?……はい…」
リリアナは父に疑問の視線を向けたが大人しく部屋を出て行った。
ギルイッド伯爵は席についてティア姫に挨拶する。
「はじめまして姫君。早速ですがその、やはり今回の一件、何かの間違いではないのかと私は推察しているのですが」
「伯爵、リリアナの絵をうちの国に送ったのでしょう?間違いなくリリアナの絵を?」
「はい、間違いなくリリアナの絵を。しかし、やはり、うちには娘がまだ二人いまして、リリアナの一つ上の中の娘も赤毛なのですが?」
「赤毛で小柄で猫目の暇人なの?」
「……‥いいえ、中の娘は普通の娘で…‥」
「レナン伯のパーティに出席なされたのはどなた?」
「……あのパーティにはリリアナが少しだけ」
「……可能性がますます上がったわ。ともかくそれが原因で今うちの国では面倒な事になっているからリリアナにはどうしてもお越し願いたいのだけど」
真っ青だったギルイッド伯の顔はますます蒼白となった。
「リリアナが原因で問題とは?」
「兄が部屋に閉じこもって仕事をしなくなってしまったらしいの」
「……それは大変お困りでしょう。しかし…」
「とにかく兄と会って頂けなければどうしようもないの。これからの事とかそれも全て二人が出会ってお話しして、それから全てが始まるのよ?」
「………‥始まるのですか…・?」
「……それも分からないけどとりあえず。リリアナに私の国を見てほしいわ」
「……‥」
ギルイッド伯は大変迷ったが姫様たっての願いに結局断ることは出来なかった。
他国との交流は願ってもない事だがこの先何がどう転ぶか分からない。運命の分かれ道を遠くから見守るだけなんてとても不安だが仕方がない。
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