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第二十二話 亡国の歴史
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しおりを挟むその頃ルウドは図書室で書籍を調べていた。もうあまり時間はないが姫がいない今のうちに捜したい情報は捜しておきたい。
先日ロヴェリナが示した書庫を中心に古代の歴史書を調べる。
「ルウドさん、こんな奥部屋に捜し物ですか?この最奥の書庫はこの国代々の書籍官が無用な書物と思ったものをほおり込む書庫だったらしいのですが」
「フレデリック様、それで本の種類がバラバラなのですね。年代とか国もバラバラだ」
「ここにあるのは雑用書と言えるものです」
「こういう所に意外と見つかるらしいですよ。まあ私が捜しているのは歴史書ですが」
「歴史書ならそれ関係の書物庫があります。ここよりは見つかる確率が大きいと思いますが」
「歴史書は姫がほとんど調べていましたよ、魔女ロヴェリナがらみの書物ですから」
「あなたも同じものを捜しているのでは?」
「いいえ、私は魔女が消えた時代の歴史を」
「古代英傑時代の歴史ですね。歴史には様々な英雄が様々な国に点在しますが世界を変えた魔女を倒して王となった英雄の名はほとんど残っていません。何しろ魔女ロヴェリナの名すら全く残されていませんから」
「古い時代過ぎて資料がほとんどありませんから別方面から捜してみるのもいいかもと思いまして」
「それもそうかもしれませんね。私に何かお手伝い出来ることはないですか?」
「有難うございます。この辺りは私だけでも十分ですので、姫の集めている方を調べてみて下さい」
「分かりました」
本日姫はいないが姫の捜している本が常に積み上げられている。
フレデリックはすごすごと積み上げられている書物のある図書室へ去って行った。
「―――――ロヴェリナ様」
「なあにルウド?」
「怪しい本とか捜して下さい。まだ魔法の使える時代でしたから何か特殊な事がしてあるのかもしれません。ロヴェリナ様の時代は余り残すべきでない記録が多々ありそうですし」
「…ルウド、そんな特殊な本がこんな図書室にあるかしら?危険なモノはふつう封印するわよね。そう言う事が出来る時代だったし」
ロヴェリナはルウドの側に姿を見せてあっさり言う。
ルウドはじろりとロヴェリナを見る。
「【ロヴェリナの記述書】。あれも厳重に封印されていましたね。封印を解いた主が消えたらまた元の位置に封印されるのでしょう?」
「そうなるわね…」
「他にも封印されている書物がある可能性がありますね。というか知っているのではないですか?」
「……ええと……」
「まさかこの書籍のどこかにあるのを知っているとか?封じられた場所を知っているとか?」
「……ルウド、あのね…」
「そもそもあなたが知らないはずはないですよね?あの封印を施した始祖なのですから」
「……知っている、と言うか分かるわよ。それはまあ……でも」
「危険なモノは知るべきではないというのでしょう?それは私も同意見です。しかし私が捜している物はただの歴史ですよ?危険ですか?」
「危険はないわ。でも余り有益ではないかも」
「有益を考えて捜しているわけではありません。大体あなたの亡くなった後の歴史でしょう?知りたくはないのですか?」
「別にいいのよ?本当に。どうしても知りたいわけではないから…」
「もし知ることが出来るなら知りたいでしょう?何故そう引き気味なのです?」
「……うっ…それは…」
ロヴェリナは目を逸らす。この期に及んでまだ迷っている。
「何か恐れる事があるのですか?それでも知るべきことは知るべきだし、知りたい事を知らずにいるのは不幸ではないのですか?たとえそれがどれだけ辛い歴史であっても」
「歴史は歴史、今に影響を及ぼすものはどうなのかと迷うのよ」
「…とにかく時間がもうありません。私に見せるのなら早く決断して下さい」
「…‥」
ロヴェリナが揺らいでいる。何をそんなに迷うのかとルウドはじっと彼女を見る。
「ロヴェリナ様、私は一応大人です。まだまだ貴方から見れば未熟者でしょうが事の善悪や重要性の判断くらいできます。もしそれが危険なモノならすぐに忘れます」
「……分かったわ…・」
ロヴェリナはしぶしぶという様に書庫を案内する。
書庫の奥の奥、さらに奥へと進んで行き、行き止まりの壁に辿り着く。
「ルウド、そうよね。貴方は大人だからちゃんと判断できるわよね。何を見ても、きっと大丈夫だって分かっているわ。だけどきっと知り得た事は忘れられないし、今のままではいられない。【魔女ロヴェリナ】が危険なものだって知っているでしょう?ルウド」
「分かっているつもりです」
だから姫からあの記述書を取り上げた。あれさえ取り上げれば危険は姫に降りかからないと思ったから。
「貴女の歴史すら危険だという事ですか」
「【魔女ロヴェリナ】に関わる危険な書物は全て封印してあるの。だからいくら調べても簡単には出てこないわ」
「危険でないのは名前だけですか…」
「歴代の魔術師が危険と判断した物はほとんど彼らが封じたから」
姫は偶然封印されていた書を見つけた。フレデリックは魔女ロヴェリナの名だけを元に物語を造り出した。
「秘密に触れられるのはほんのわずかの魔女に関係する者達だけよ」
「……」
「今ならまだ知らないままで変わらずにいられる」
「でも知りたいでしょう?貴方は知りたくないのですか?」
「私は大昔の意識の残骸、そんなモノの為に危険を冒す事はないわ」
「でもあなたはここにいる。目的は知りませんが、私はあなたの為に何かして差し上げたい。それは今でなければ出来ない事でしょう?貴方はいつ消えるか分かりませんし」
「優しいわねルウド。なら一つだけ約束。貴方の知りたい歴史以外の事は全て触れない事、すぐに忘れる事」
「努力します」
「そう…まあいいわ」
ロヴェリナは壁に近づく。ルウドに手を伸ばす。
「ロヴェリナ様……」
「いらっしゃい、貴方なら越えられる、ルウド」
何故?と思いつつロヴェリナの手を取り、そのまま何も無い壁へと誘われる。
壁はぶつかることなく抵抗なくルウドを吸いこんだ。
夕刻、ようやくティア姫とスティア皇子が帰ってきた。
双方何だか微妙な顔をしている。
「姫様、お話がうまくいかなかったのですか?」
「…うまく行ったわ。リリアナも何とか承諾してくれたし」
「ではなにか納得いかない事でも?」
黙する姫の代わりにスティア皇子が説明する。
「フレディ、それがその、話が進んでいるのは良い事ですけど、あのリリアナが下手を打てば王妃なんて…、ちょっとすごく私も不安だし。間違いである方を願いたいよ」
「ああそれは……国の問題だし、身内からすれば不安かもしれませんね」
「……そそそそそ、そんな事はないのよ?うちの兄が決める事だしその……あの子だっていい子だとは思うし……。先のことなんて誰も分からないし」
「先が分からないというのはある意味怖い事ですが面白い事でもありますね。この先どうなるのか、実に興味深い」
「他人事ならね…」
「パラレウス皇子様のご慧眼も図られますね」
「大問題ね。下手すれば国が傾くという。結婚相手を自ら選ぶ権利って、怖い義務も付き纏うわ、特に王位継承権を持つ皇子には。自分の事でそこまで考えた事なかったわ」
「姫様は皇子よりは深刻ではないでしょうし、良い国へ嫁ぐ事が重要ですからねえ」
ティア姫は珍しく迷うように二人を交互に見る。
「…私何か間違ってないかしら?とんでもないことしてないかしら?」
「結果を見なければわかりません。その、パラレウス皇子を信じましょう?」
「そ、そうよね…‥信じるしかないわね…」
しかし姫の顔は晴れない。色々葛藤があるようだ。
フレデリックは迷ったが話を切り出す。
「ところで姫様、ルウド隊長が見当たらないのですが」
「え?」
「午後から図書室で調べ物をしていたのですがいつの間にか姿が見えなくなってしまいまして」
「ちゃんと探したの?消えるわけないでしょう?呼んだら出てくるでしょ?」
「呼んでも出てこないもので。もしやどこかで迷って出てこれなくなったのかと」
「ここの図書室は迷宮なの?ありえないわ」
「十室ある大図書室を一つ一つ捜し回るのはかなり手間なので困っているのですが」
「…‥子供じゃないんだから夕食時には出てくるでしょ?全く何をしているのかしら?」
「さあ?調べ物に夢中になっているのでしょうか?これでは姫の事を責められませんね」
「全くだわ」
しかしこの日、結局ルウドは夕食にも出てこなかった。
心配した騎士達が散々捜し回っても結局見つからなかったが、朝食時間にあっさり現れたルウドは多少疲れた顔をして言う。
「すまない、調べ物に夢中になっていたらすでに朝になっていた。皆に心配を掛けてしまったな」
「一体どこにいたのです?」
「だから図書室だ。かなり広いからな。見つからなかったのも無理もない」
「……そ、そうなのですか?」
手の空いた騎士や使用人達が総出で捜したのに見つからないのはおかしい。
騎士達は納得いかなかったが勝手に納得させられた。
ルウドがそれ以上何も言わなかったので。
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