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第二十二話 亡国の歴史
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しおりを挟む「ルウド、何をしているの?帰る準備は進んでいるの?」
「はい、帰る手配は済んでいます。何時でも城を出立できます」
「本当?図書室で調べが済んでない本も全部借りて帰るのよ?」
「えっ?それはちょっと…‥無謀で欲張りすぎでは?」
「騎士が五十人もいるんだから可能でしょう」
「騎士は本を運ぶために姫についてきたのではないのですが?」
「護衛なんてほとんど役に立たないんだから構わないでしょう?ついでよついで」
「……」
帰国の長い数日を重い本を何冊も担いで行かねばならないなんて悪夢だ。
騎士は本来姫の護衛であるのにあの剣技大会以来どうも立場が弱い。
「では姫は大人しく馬車での旅を満喫して下さいよ?外へ逃げようなんて考えずに」
「国ざかいのあの宿で仲良くなった子達に挨拶して帰りたい」
「絶対いけません。どうしてもと言うなら手紙で済まして下さい、フレイ隊長が届けて下さいますから」
「顔を見て挨拶したいのに」
「帰りの馬車にはリリアナ嬢も同席するのでしょう?彼女まで連れていく気ですか?」
「……そうね…。手紙にするわ…」
帰りの馬車はリリアナ嬢も同席するので姫は単独で勝手は出来ない。ティア姫はともかくリリアナを危険に巻き込む訳にはいかない。
その点ではリリアナ嬢のお陰で平穏な旅が出来そうだ。
「さてまだしていない荷造りをしなければ。借りる本は別に纏めておいて下さいよ?」
「それでルウド、調べ物、何か見つかった?」
ティア姫に疑惑の目を向けられルウドは内心怯んだが表向き平静を装う。
「いいえ。なにも」
「何も無くて丸一日徹夜で何を調べていたのかしら?」
「この城へきてやっと開いた貴重な時間を捜し物に使ってはいけませんか?私は色々多忙でなかなか調べ物などする時間がありませんでしたから。結局無駄に終わりましたが」
「つまり丸一日も無駄と思える仕事を徹夜でしていたわけなのね」
「そうなってしまいました」
「………」
「……‥」
姫が疑惑で一杯の眼差しでルウドを睨んだが、ルウドはあえて知らぬ顔をした。
「姫も調べ物はそろそろやめて帰る準備を済ませて下さい。王家の方々へのご挨拶も早めに進めて下さいね。そろそろ出立しませんと帰れなくなってしまいます。皇子も待っている事ですし、急がねばなりません」
「……そうね…」
夏が終わればあっという間に西の国は寒くなる。山を越え、湖の側を通る旅路に寒さはさらに姫には酷だ。
ルウドは姫の部屋から出てその足で真っすぐ最奥の図書室へ向かい入る。
ここには誰もいない、薄暗く、人がいる気配もない。
書籍はあるがその本達の存在すら忘れられたような。
「―――――ロヴェリナ様…」
名を呼んでも何の反応もない。姿も見せない。
ルウドがあの部屋に入ったその時から。
「……ロヴェリナ様、出てきて下さい」
出てくることが出来ないのか?出てきたくないのか?
ルウドの質問に答えたくないのか?
「……真実を知りたいのです」
彼女は出てこない。そしてあの壁の向こうにはもう行くことはできない。
「答えて下さい」
あの日、壁の向こうで沢山の書物を夢中で捜した。
書物のほとんどは古代文字で記され、ルウドが読める物はほんのわずかだった。
しかしそのわずかの中にロヴェリナが散々迷い、ルウドが知り得た情報があった。
知ってしまえば気になってしょうがない。
もっと真実を知りたいと、求めてしまうのは人の性だ。
ルウドの知り得たロヴェリナの歴史はけして危険なものではない。彼女の知りたい歴史でもあるのだ。
「一つだけ、どうしても聞きたいのです…」
しかし彼女は出てこない。もうここには居ないのか?どこかへ行ってしまったのか?
「……」
ルウドは仕方なく諦めて図書室を出た。
もうじきこの国を旅立つ以上、たぶんもう二度とここへ足を踏み入れる事はないだろう。
「王妃様、準備が整い次第国へ帰国いたします。いろいろお世話になりとても感謝していますわ」
サラ王妃は残念そうにティア姫と付き添いのスティア皇子を見る。
「仕方ないわね。もうそんな時期ですもの。ティア姫とお別れなのは寂しいですけどまたいつかお越しくださいね?うちの国との友好関係は長く続けて行きたいですから。
スティアの事も考えて下さいませね?まあスティアは呼んでいただければ何時でも姫の所へ飛んで行かせますので。ふふふっ」
「まあそんなとんでもない。冬のマルスはとても寒いのですよ。山の風と湖の風が入ってきて。旅には辛い季節です」
「構わないのよ?スティアは季節なんて感じないほど旅慣れているから。一人でどこへでも行けるのよ?」
「…母上…そんなにどこへでもは……」
「ああいっそのことスティアも一緒にマルスへ行ってはどうですか?リリアナもあなたがいれば安心でしょうし」
「そんなに頻繁に他国に出入りできません。姫と婚約した訳でもありませんし」
「うちの姉の婚約者はそんな権利もあるのに滅多に姉に会いに来ないわよ?仕事が忙しいって。スティアだって忙しいでしょう?別に来なくていいわよ?」
「……姫様、私そんなに多忙でもないですが…」
スティアががっくり肩を落とす。それを見た王妃が残念そうに首を横に振る。
「リリアナの事は私にお任せ下さい。けして悪い様には致しませんので」
「ええ、お任せしますわティア様。あの子、あの通りの奔放な子ですけどどうか見放さないでパラレウス皇子様との仲を取り持って下さいませね?吉報をお待ちしていますわ」
「……努力いたします」
ティア姫がかすれた声で確約した。
パラレウスはともかく難題なのはリリアナである。
あのミザリー姫の様な何を考えているのかよく分からない娘の世話は多少骨が折れる。
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