意地悪姫の反乱

相葉サトリ

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第二十二話 亡国の歴史

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 エバンジェリン皇女の日誌

【その昔英雄と呼ばれ、国を起こした王はその心に深い闇と哀しみを抱えていました】

 その昔、魔女を倒した英雄王として国を支える柱となり国を守り続けていた王はいつも憐れみと哀しみを含んだ目で国を見つめ、口癖のように呟いていました。

「二度と、国が戦の道具になるような世界を造ってはいけない。それが消え逝った先人たちの願いであり、子孫に残してはならないと命を掛けて滅ぼしたものなのだから」


 アルメディア公国皇女エバンジェリンは英雄と呼ばれた王の哀しみが分からずに沢山の話を英雄王から聞きました。
 王の痛みも分からずに、ただ好奇心と彼を知りたい一心で。

「おじいさま、私にはわかりません。地位も栄誉も財産も手に入れたおじいさまが何故幸せではないのですか?民に英雄視されるたびおじいさまは苦しいお顔をされます。どうしてでしょうか?」

「エバンジェリン。それは私がけして英雄ではない事を自分が一番分かっているからだよ。私は誰も救えなかった、ただの臆病者なのだよ」

「どうしてそんな風に言われるのですか?とてもそのようには見えないのに」

「エバ、一族の者として君には語っておくよ。この先どれだけの時が過ぎようともこの真実だけはたとえ公には出来ずとも語り継がねばならない。知りたい事があれば何でも聞きなさい、私が生きているうちに」

 皇女エバンジェリンは祖父英雄王から沢山のお話を聞きました。
 命を掛けて国を守った英雄は彼の父と魔女と呼ばれた母である事。
 まだ若い皇子に戦のない未来を託して、最強の魔法を国に与えた事。
 連綿と続いていた王の苦しみと国の憂いを最強の魔女がたち切り、まだ若かった皇子は逃げ出しただけで何も出来なかったこと。
 王の苦しみも民の憂いもない戦火のない世界、この恩恵を与えたのが父王と賢者と呼ばれた魔女である事。

「私はただの無力なおろか者なのだよ」

「おじいさま…‥」

 例え結果が魔女と王の望むものであっても、彼らを犠牲にするしか術がなかった彼には苦しみでしかなかった。
 まだ幼かったエバンジェリンには分からなかった。
 王の気持ちも、魔女の気持ちも。


【たとえ国を失っても民を無くしても、全てを失ったとしても、けして無くしてはならないものがある】

 エバンジェリンはそれを知ってしまった。
 そしてそれは語り継がねばならない大切なことである事を。

【私達は鍵を持つ一族。真実を知り、今ある世界を知り、選ばねばならない】

 大切な子供達に語り継がせるためにエバンジェリンは子守唄を歌い聞かせる。
 けして忘れないよう、一族が続く限り語り継ぐよう幾度とも。






 帰り準備が整い、ロレイアの城を出立する日がきた。
 城門前には皇子や騎士達が見送りに集まってくれた。

「何はともあれ一応の目的は果たせたわけですね。本当に良かった、ロレイアの方々が心の大やかないい方々ばかりで。よその国ではティア姫の所業を笑い話程度にはしないでしょうからね」

 ティア姫がじろりとルウドをひと睨みしてから皇子方を眺める。

「そもそもこの私を城に招待しようと言いだすとこから生半可ではないわよね。あのスティアなんかもう呑気な顔して油断ならないわ」

「折角ここまで来たのにスティア様との仲が全く変わらないのが唯一の心残りです」

「ルウドは随分皇子や騎士達に気に入られてたわね。新しい就職先まで紹介して貰えて。…他にも色々得るものがあったようね?」

「そんな……特にないですよ得るものなんて。まあロレイアの凄い騎士達と戦えたのはとても良い経験でしたが」

「私の目を誤魔化せるなんて甘いわね。まあそれは国へ帰ってからじっくり暴いてあげるわ」

「……」

「あの、ティア様、私…‥」

 リリアナがおずおずと姫の側に来た。姫と同じ馬車に乗るのだ。

「荷物は乗せ終わったの?じゃあもう行くわよ」

「姫様…やっぱり私…‥」

「心配しなくていいわよ、ここまで来て迷わないで行くわよ」

 ティア姫はリリアナを馬車に押し込め自分もすかさず乗り込んだ。





 国境まではスティア騎士団が護衛について来てくれる。

「では皆様、長い間大変お世話になりました。姫ともどもとても楽しく過ごさせて頂きとても感謝しています。今後とも貴国との友好を続けるべく王にはしっかりご報告いたします。有難うございました、では」

 姫を乗せた馬車と護衛騎士隊は出発する。
 見送りの皇子や騎士達が手を振って叫んでいる。

「また来いよー」

「面白かったぞ、また剣技大会に出場しにこいよー」

「ルウド―、何時でも待っているからなー」

「お姫様もまた遊びに来て下さいねえー」

「お調べの書物は捜して送りますのでご心配なく―」

 ルウドが絶大な人気だった。

「ルウド、ベリル皇子が名残惜しそうだよ?ほんとに残らなくていいのかい?」

「フレイ殿、また御冗談を」

「まあ皇子より姫の方がいいか。手もかからなさそうだし」

「……かからないと思いますか?本当に」

「……いや、その…、失言でした」

 フレイ隊長とルウドは姫の乗る馬車を挟んで城門を出る。
 そしてマルスへの帰路の旅が始まった。





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