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第二十三話 ティア姫の帰還
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しおりを挟むやらなければならない事が沢山あるのに、何もやる気になれない。
周囲の者達にはとても迷惑をかけているのは分かっているがどうしようもない。
この所ずっと部屋に籠り切りでただ壁に飾られた肖像画を眺めて溜息をつく。
家族には悪いと思っている。
しかし、本当に何の気力もなくなってしまった。
「お兄様、パラレウスお兄様。お話があるの。開けて下さい」
護衛の騎士すら外に追い出し部屋に鍵をかけて閉じこもってしまい、周囲の者には困惑させ心配をかけていた。
「……アリシア、すまないが……」
「お兄様、ティアがロレイアの城を出立したと報告が来たわ。お客人を連れてもうすぐ帰ってくるわ」
「…………」
パラレウスはのろのろと立ち上がり、ドアを開ける。
目つきの怖いアリシアが部屋に入ってきた。
「しっかりなさってお兄様。どうするのよそんな事で」
「…‥す、すまない…」
「いい加減に仕事に戻って下さらないと私も限界なのですけど?」
「そうなのかい?何か騎士団内でとても評判がいいようだけど?指示の手際がいいから仕事がはかどるとか…。私などが騎士団を纏めるより君の方が向いているのかもしれないね」
「馬鹿な事を言わないで。私が居なくなったらどうする気よ?大体この先国を守って行かねばならないお兄様がそんな頼りのない事でどうするのよ?何時までも甘えないでそろそろ仕事にお戻りになって」
「……アリシア、なんか口調がティアみたいだね。目つきも何か…、やはり姉妹なのだね」
「当たり前です。それにお兄様の仕事を全部取り仕切っているのよ?働き過ぎで疲れているのよ!もう限界です!さあお兄様、やる気なくても仕事をして!」
「ええ?そう言えばミザリーは?」
「とっくに逃げたわよ!お友達の所へ遊びに行って帰ってこないわ!」
「そうなんだ…‥」
「さあ今日こそは部屋から出て仕事して貰うわよ?さあお兄様を連れて行きなさい!」
「え…?」
廊下にいた護衛騎士達が入ってきてパラレウスの腕を取って無言で外へと運び出す。
「え……?ちょっと?」
「私もいい加減疲れたわ。それにお客さまが到着するまでにある程度仕事を済ませておかないと困るでしょう、色々と。お客様のお相手をする時間もなくなるわよ?」
「――――――!」
「さあ私もお手伝いしますから頑張りましょう」
「……うん…‥」
何の気力もないパラレウスは仕方なく実に十日ぶりに仕事部屋に入った。
ティア姫様がようやく帰ってくる。
とてもとても静かで平和だった日々がまた久方ぶりに騒々しい日常に様変わりする。
この数カ月ティア姫様がいなくてとても平和だったがやはり城内の皆は一抹の寂しさを感じていた。
王族一家も騎士達も皆姫達の帰りを待ち焦がれていた。
勿論魔法使いゾフィーもティア姫の帰りを首を長くして待っている。
「パラレウス皇子のお相手と言う手土産を持って帰ってこられるそうですよ?静かな王城がますますにぎやかになりそうですねえ」
「たしかミザリー姫のような性格の御方だそうで。よくこの時期に連れ帰ることが出来ましたね。さすがティア様と言うか…」
「まあそれは当人にお会いしなければ何も分かりませんし。パラレウス皇子の問題ですしね。ロレイアでは問題なくお過ごしになれたようですね。良かった、ルウドがうまくやってくれたのかなあ」
「ハリスさん、そうですね。ルウド隊長も相当苦労したでしょう、帰ってきたら労わって差し上げなくては」
「二番隊は休みを取れるよう他の隊とも相談して計画してあるよ。大任を済ませた後なのだからね。少しの報奨金も出るらしい。羨ましいようなそうでないような、微妙な所だね」
「二番隊がいない間、城内警備をしっかりされていた三番隊と五番隊には何も無いのですか?」
「それは元々の仕事だからねえ、それにティア様がいないから大したトラブルもなかったし」
「それは何よりでした。まあ確かに私も随分仕事と研究に没頭できましたし」
「皆何か花が消えたように寂しく感じていたでしょうけどね」
「居なくなると本当に身に染みますよね。ここにはティア様が居て下さらないと詰らない」
「やっと帰ってきて下さるのですね。それまでに片付けて置くべき仕事は片づけておかないと」
「そうですね、帰ってきたら沢山土産話を聞きたいしね」
平和を満喫した魔法使いゾフィーとハリス隊長が呑気に笑ってお茶を飲む。
もう少しだけ静かな日常を満喫して居たい。
数日後、ティア姫と二番隊が城に帰ってきた。
何故か大量な書物を荷台に積んでいた。
それを運んできた騎士達が城に着いた途端ぐったりした。
「やっと着いたあー」
「長い道のりだったなあ」
「山道きつかったー」
馬車を降りたティア姫がだらしない二番隊を睨みつける。
「だらしないわね、しっかりなさいよ!その本全部ゾフィーの塔の空き部屋に入れて頂戴」
「ええ…ハイ…」
全く姫に逆らえなくなった二番隊はしぶしぶ仕事を始める。
「あっ、それがすんだら今日は二番隊全員休んでいいぞ。明日からの任務は、まあ明日言うが大任を果たした後だからな、しばらく休みを貰えるかもしれない。まあ皇子次第だが期待して待っていてくれ」
「ルウド隊長…!」
疲労困憊の騎士達には多少の励みになったらしい。二番隊は少々元気を取り戻した。
「ルウド……」
「ティア様、お客様もお疲れでしょう。早く陛下と王妃にご挨拶を済ませて本日は休んで頂きましょう。姫様も帰還の挨拶に行かねば。私も皇子の所へ向かいます」
「……どうしたのかしらお父様とお母様。お姉さま方も。いつも出迎えに来て下さるのに。いるのは門番警備の三番隊だけ。面白くないわ」
「きっと皆お忙しいのでしょう?」
「お客様もいるって先に知らせておいたのに」
「きっとやむにやまれぬ事情があるのでしょう」
「何なのよ一体。三番隊の隊長もいないのね?」
ティア姫が門番を睨むと門番が慌てて駆け寄ってきた。
「姫様、ご無事で何よりです!城内一同御帰還を心待ちにしておりました!」
「お顔を見せて下されば皆様お喜びになられますよ!さあ城内へどうぞ!」
「……いいわよそんな持ち上げなくても。もういいわよ、お父様の所ね。リリアナ、いい加減に出てきなさいよ?」
未だに馬車から出てこないお客人を仕方なくティア姫が引っ張り出す。
「ティア様…‥ここがマルスのお城。ロレイアと余り変わりませんね…」
リリアナが戸惑う様にお城を眺める。
「まあお城ですもの。基本余り変わらないのではなくて?さあ行くわよ。早く休みたいでしょう?」
「え、でもまだ心の準備が…」
「十分でしょう?ロレイアを出てから何日準備してるのよ?もう着いたのだから腹を決めなさい」
「あああああああ、姫様……」
リリアナはティア姫に引っ張られて城内へ引きずられていった。
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