意地悪姫の反乱

相葉サトリ

文字の大きさ
149 / 171
第二十三話 ティア姫の帰還

2

しおりを挟む

 ルウドはパラレウス皇子の執務室へ帰還の報告に赴いた。
   が、執務室の皇子は居なかった。
 執務室の中には五番隊隊長と三番隊隊長がいた。

「あれ、お帰りルウド。早かったね」

「お帰りなさいルウドさん」

「ハリス、コール、ただいま。ここは皇子の執務室のはずだが?」

「皇子は今自室の方だよ…」

 二人が何だか困ったように顔を見合わせる。

「何か起こっているのか?」

「いや何も無いだけど皇子の心の準備がねえ?」

「それでアリシア様がお怒りになってねえ?いやあ怖い怖い」

「何なんだ?とにかく皇子は自室か、報告に行く」

「……きっと生半可な事じゃないと思うけど?」

「怖いなあ、でも私も一緒に行こうかな。面白そうだし」

「……?」

 ルウドはハリスと共に皇子の自室へと向かう。
 自室へ向かう廊下を歩いていると遠くから誰かが喚いている声が聞こえた。

「もういい加減にして!甘えてんじゃないわよ覚悟を決めなさい!」

 誰かがドアをガンガンと叩いているようだ。

「人に迷惑かけないで!いい年して何を情けない事してるのよ!」

 皇子の自室の前で五人ほどの人が集まっていた。
 ドア前の金髪の女性が何故か棍棒を持ってドアをガンガン突いている。

「とっとと出てきなさい!もうなるようにしかならないのよ!何時まで心の準備してるのよ!もう十分じゃない!」

「……ええと、あれは誰かな?ハリス」

「見たとおりアリシア姫だよ。この所皇子の負担がアリシア様ばかりに行ってしまってねえ。いい加減アリシア様も心の余裕がなくなってしまったようでね」

 よく見るとアリシア姫の目の下にクマなどが出来ている。相当疲れているようだ。
 アリシア姫はティア姫張りの罵詈雑言を吐いている。

「さっさとでてきて!もうお客様は着いているのよ!ああもういいわ!そこの一番隊騎士、ドアを粉砕なさい!」

「ええ?そんな無茶な。出来ませんよ」

「何なの役立たずね?何の為にそこにいるのよ?入口も開けられない騎士なんかいらないわ、クビね」

「ええええ?いや私は皇子の護衛ですよ?入口を守って外敵から守るのが仕事ですよ?」

「じゃあ内敵はどうでもいいってわけね?ていうか私敵?敵なわけ?」

「いいいいいいいいいええええ、そんなこと!あるわけないですよ!」

「ならドアを粉砕なさいっ!」

「えええっ…‥?」

 騎士があたふたと困っている。
 引き返そうと思ったが困っている騎士と目が合ってしまい仕方なくアリシア姫の傍に出ばる。

「アリシア様、ただ今帰還致しました。ティア様も今陛下にご挨拶に行っていますよ」

「あっ、ルウド。お帰りなさい。お兄様はこの中よ?朝から閉じこもりきりで。全くいい加減にしてほしいわ」

「私は皇子に帰還の報告をしに来たのです。少し話をさせて下さい」

「……まあいいわ。ルウドならここを開けるかもしれないわね」

 ルウドはドアを叩く。

「パラレウス様。ティア姫と二番隊騎士、全員無事帰還致しました。明日からの仕事の事でお話があります。入っても宜しいでしょうか?」

「……あ、そうだね、うん、分かった…‥」

 少し待つとドアが開いて皇子が顔を見せた。

「パラレウス様、あまり顔色が宜しくないですね。大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だよ、君達の大変な苦労を思えば私の事など……、いや気にしないでくれ」

 部屋にルウドだけ招き入れられ、アリシア姫とハリスは締め出された。
「ロレイアのお客様も無事に城のお入りになられました。落ち着いたらご挨拶に来られるでしょう。でもやはり皇子が先に出向くべきでしょうね」

「……分かっているよ…。ええと、今三番隊と五番隊が城内警備に入っているから二番隊はもう少し休めるよ。警備編成を変えなければいけないからそれが終わるまで二番隊は休んでいいよ。十日位か……十分休めるだろう?褒美と思って受け取ってくれ」

「有難うございます」

「その、色々と立て込んでいてね、アリシアが怒るくらい何も出来ていないのは分かっているし済まないと思っているんだけど…、なんだかやる気が起きなくてね」

「…皇子も休まれてはどうでしょう?補佐する方はいるでしょう?気分転換が必要なのですよ?できればお客様のお相手などして下さると大変助かります」

「…そうだね、私の為にわざわざ遠方から来て頂いたのだから私がお相手しなければ…」

「その件ですが、お客様には皇子の事は全く伝えておりません。ただこの国を見てほしいと姫が言葉巧みに誘ってほぼ強引に連れて来たのです」

「……だまして連れて来たのかい?」

「騙しておりません、皇子の事を話していないだけです」

「それじゃ私が相手しなくてもいいと言う事かい?」

「連れて来たのはティア姫なので責任持つのはティア姫ではありますね」

「………」

「これから冬が来ますからもう春の終わりころまでマルスを出るのは難しくなります。長期の滞在になりますね。お客様には楽しく暮らして頂きたいですね」

「……ああ、そうだね…」

「ともあれ私含め二番隊は休暇をありがたく頂きます。皆喜ぶでしょう」

 ルウドはニッコリ笑って部屋を退出する。
 何の義務もないと言われた皇子は何かもの言いたげにルウドを見ていたが知らぬ顔を通した。
 廊下に出るとまだアリシア姫とハリス隊長がいた。

「ルウド、お兄様の様子はどうだったの?何とか仕事してくれる気になったの?」

「いえ私は別に皇子に仕事をしろと言いに来たわけではないので」

「ええ?じゃあ何しに来たの?」

「仕事の話ですよ。明日より十日の休暇を二番隊は頂きました。大任の褒美と思って十分鋭気を養うようにと」

「ええ?二番隊全員休みかい?私達も欲しいのに…」

「ハリス、後で私達の苦労話を沢山聞かせてやろう。十日飲み明かしても有り余るほどあるからな」

「わあ、聞きたいような、聞きたくないような…」

「お兄様が出てこないと私も休めないのだけど?」

「お客様も到着されたことですし皇子にも気分転換が必要でしょう?仕事は補佐に任せていただいて皇子も休まれては」

「……まあその為のお客さまだからお兄様がお相手しなければ意味無いのだけど。補佐ねえ…‥?」

「じきに冬です。他国のお客様も少なくなりますからそう難しくはないでしょう?」

「まあそれはそうね……だけど補佐に全てを任せるのはお兄様の立場が」

「必要な時もありますよ」

「……そうね。ティアが連れて来たお客様にご挨拶に行こうかしら。私も疲れたわ」

「少しお休みになって下さい。何とかなりますよ、きっと」

「…‥そうね…」

 アリシア姫は疲れた様子で自室へと戻って行った。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿
恋愛
この作品は「悪役令嬢の役割は終えました」のヴォルフ視点のお話になります。 本編を読んでない方にはネタバレになりますので、ご注意下さい。 母親が亡くなった日、ヴォルフは一人の騎士に保護された。 そこから、ヴォルフの日常は変わっていく。 これは保護してくれた人の背に憧れて騎士となったヴォルフと、悪役令嬢の役割を終えた彼女とのお話。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

おばあちゃんの秘密

波間柏
恋愛
大好きなおばあちゃんと突然の別れ。 小林 ゆい(18)は、私がいなくなったら貰って欲しいと言われていたおばあちゃんの真珠の髪飾りをつけた事により、もう1つの世界を知る。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

修道院パラダイス

恋愛
伯爵令嬢リディアは、修道院に向かう馬車の中で思いっきり自分をののしった。 『私の馬鹿。昨日までの私って、なんて愚かだったの』 でも、いくら後悔しても無駄なのだ。馬車は監獄の異名を持つシリカ修道院に向かって走っている。そこは一度入ったら、王族でも一年間は出られない、厳しい修道院なのだ。いくら私の父が実力者でも、その決まりを変えることは出来ない。 ◇・◇・◇・・・・・・・・・・ 優秀だけど突っ走りやすいリディアの、失恋から始まる物語です。重い展開があっても、あまり暗くならないので、気楽に笑いながら読んでください。 なろうでも連載しています。

処理中です...