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第二十三話 ティア姫の帰還
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しおりを挟むルウドはパラレウス皇子の執務室へ帰還の報告に赴いた。
が、執務室の皇子は居なかった。
執務室の中には五番隊隊長と三番隊隊長がいた。
「あれ、お帰りルウド。早かったね」
「お帰りなさいルウドさん」
「ハリス、コール、ただいま。ここは皇子の執務室のはずだが?」
「皇子は今自室の方だよ…」
二人が何だか困ったように顔を見合わせる。
「何か起こっているのか?」
「いや何も無いだけど皇子の心の準備がねえ?」
「それでアリシア様がお怒りになってねえ?いやあ怖い怖い」
「何なんだ?とにかく皇子は自室か、報告に行く」
「……きっと生半可な事じゃないと思うけど?」
「怖いなあ、でも私も一緒に行こうかな。面白そうだし」
「……?」
ルウドはハリスと共に皇子の自室へと向かう。
自室へ向かう廊下を歩いていると遠くから誰かが喚いている声が聞こえた。
「もういい加減にして!甘えてんじゃないわよ覚悟を決めなさい!」
誰かがドアをガンガンと叩いているようだ。
「人に迷惑かけないで!いい年して何を情けない事してるのよ!」
皇子の自室の前で五人ほどの人が集まっていた。
ドア前の金髪の女性が何故か棍棒を持ってドアをガンガン突いている。
「とっとと出てきなさい!もうなるようにしかならないのよ!何時まで心の準備してるのよ!もう十分じゃない!」
「……ええと、あれは誰かな?ハリス」
「見たとおりアリシア姫だよ。この所皇子の負担がアリシア様ばかりに行ってしまってねえ。いい加減アリシア様も心の余裕がなくなってしまったようでね」
よく見るとアリシア姫の目の下にクマなどが出来ている。相当疲れているようだ。
アリシア姫はティア姫張りの罵詈雑言を吐いている。
「さっさとでてきて!もうお客様は着いているのよ!ああもういいわ!そこの一番隊騎士、ドアを粉砕なさい!」
「ええ?そんな無茶な。出来ませんよ」
「何なの役立たずね?何の為にそこにいるのよ?入口も開けられない騎士なんかいらないわ、クビね」
「ええええ?いや私は皇子の護衛ですよ?入口を守って外敵から守るのが仕事ですよ?」
「じゃあ内敵はどうでもいいってわけね?ていうか私敵?敵なわけ?」
「いいいいいいいいいええええ、そんなこと!あるわけないですよ!」
「ならドアを粉砕なさいっ!」
「えええっ…‥?」
騎士があたふたと困っている。
引き返そうと思ったが困っている騎士と目が合ってしまい仕方なくアリシア姫の傍に出ばる。
「アリシア様、ただ今帰還致しました。ティア様も今陛下にご挨拶に行っていますよ」
「あっ、ルウド。お帰りなさい。お兄様はこの中よ?朝から閉じこもりきりで。全くいい加減にしてほしいわ」
「私は皇子に帰還の報告をしに来たのです。少し話をさせて下さい」
「……まあいいわ。ルウドならここを開けるかもしれないわね」
ルウドはドアを叩く。
「パラレウス様。ティア姫と二番隊騎士、全員無事帰還致しました。明日からの仕事の事でお話があります。入っても宜しいでしょうか?」
「……あ、そうだね、うん、分かった…‥」
少し待つとドアが開いて皇子が顔を見せた。
「パラレウス様、あまり顔色が宜しくないですね。大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ、君達の大変な苦労を思えば私の事など……、いや気にしないでくれ」
部屋にルウドだけ招き入れられ、アリシア姫とハリスは締め出された。
「ロレイアのお客様も無事に城のお入りになられました。落ち着いたらご挨拶に来られるでしょう。でもやはり皇子が先に出向くべきでしょうね」
「……分かっているよ…。ええと、今三番隊と五番隊が城内警備に入っているから二番隊はもう少し休めるよ。警備編成を変えなければいけないからそれが終わるまで二番隊は休んでいいよ。十日位か……十分休めるだろう?褒美と思って受け取ってくれ」
「有難うございます」
「その、色々と立て込んでいてね、アリシアが怒るくらい何も出来ていないのは分かっているし済まないと思っているんだけど…、なんだかやる気が起きなくてね」
「…皇子も休まれてはどうでしょう?補佐する方はいるでしょう?気分転換が必要なのですよ?できればお客様のお相手などして下さると大変助かります」
「…そうだね、私の為にわざわざ遠方から来て頂いたのだから私がお相手しなければ…」
「その件ですが、お客様には皇子の事は全く伝えておりません。ただこの国を見てほしいと姫が言葉巧みに誘ってほぼ強引に連れて来たのです」
「……だまして連れて来たのかい?」
「騙しておりません、皇子の事を話していないだけです」
「それじゃ私が相手しなくてもいいと言う事かい?」
「連れて来たのはティア姫なので責任持つのはティア姫ではありますね」
「………」
「これから冬が来ますからもう春の終わりころまでマルスを出るのは難しくなります。長期の滞在になりますね。お客様には楽しく暮らして頂きたいですね」
「……ああ、そうだね…」
「ともあれ私含め二番隊は休暇をありがたく頂きます。皆喜ぶでしょう」
ルウドはニッコリ笑って部屋を退出する。
何の義務もないと言われた皇子は何かもの言いたげにルウドを見ていたが知らぬ顔を通した。
廊下に出るとまだアリシア姫とハリス隊長がいた。
「ルウド、お兄様の様子はどうだったの?何とか仕事してくれる気になったの?」
「いえ私は別に皇子に仕事をしろと言いに来たわけではないので」
「ええ?じゃあ何しに来たの?」
「仕事の話ですよ。明日より十日の休暇を二番隊は頂きました。大任の褒美と思って十分鋭気を養うようにと」
「ええ?二番隊全員休みかい?私達も欲しいのに…」
「ハリス、後で私達の苦労話を沢山聞かせてやろう。十日飲み明かしても有り余るほどあるからな」
「わあ、聞きたいような、聞きたくないような…」
「お兄様が出てこないと私も休めないのだけど?」
「お客様も到着されたことですし皇子にも気分転換が必要でしょう?仕事は補佐に任せていただいて皇子も休まれては」
「……まあその為のお客さまだからお兄様がお相手しなければ意味無いのだけど。補佐ねえ…‥?」
「じきに冬です。他国のお客様も少なくなりますからそう難しくはないでしょう?」
「まあそれはそうね……だけど補佐に全てを任せるのはお兄様の立場が」
「必要な時もありますよ」
「……そうね。ティアが連れて来たお客様にご挨拶に行こうかしら。私も疲れたわ」
「少しお休みになって下さい。何とかなりますよ、きっと」
「…‥そうね…」
アリシア姫は疲れた様子で自室へと戻って行った。
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