意地悪姫の反乱

相葉サトリ

文字の大きさ
153 / 200
第二十三話 ティア姫の帰還

6

しおりを挟む






 ロレイアで夏を過ごし、マルスへ帰還するともう気候は秋半ば。
 とうに薔薇は落ちて土の上にはその残骸が変色して敷き詰められている。
 薔薇園の手入れは各場所の管理人や庭師に頼んでおいたのだがあまり行き届いていない。
 今までずっとそれはルウドの仕事だったから仕方ないとは思う。
 姫の護衛とはいえ、こんなに長期でここを離れる事などなかったのだ。

「ルウド、悪いなその、いろいろあって余り見ていられなくて」

「仕方ない、私もこんなに長くここを開けるとは思ってなかったから。ハリス、長い事済まなかった」

 何しろティア姫の事、隣国へ行ってもすぐに帰ると言いだすに決まっていると思っていたのだ。

「姫様、ロレイアを楽しまれたのか?あの皇子様と進展があったとか?」

「いやそれはなかった、残念だが。別の目的があったから期間ぎりぎりの滞在となったんだ。二番隊はロレイアの騎士達と大いに友好を育んだが」

「へえ、ロレイアの騎士か。有名どころが続々いたろう?『撃戦の大騎士』とか『奇策名将』とか『瞬速鬼将』とか」

「沢山いたぞ、凄い人達が。剣技大会に参加して、そんなすごい人達と戦った。お陰で幾分二番隊のレベルは上がったと思うぞ?」

「へえ、羨ましいな。ロレイアか、私も一度行ってみたいな」

「……済まない、折角そんなすごい人達に出会ったのにサインの一つも貰って来なかった」

「いやいいよそれは。遊びに行った訳でもないんだし」

「姫の護衛で行ったんだが余り役に立った気がしないな。むしろ遊んでいた感が大きい」

「…まあいいじゃないか。姫は無事ここに戻ったし、皆楽しく過ごせたようだし、ロレイアともうまくいった様だし」

「ああ、あと気になるのはお客様の件だな」

「それは皇子の管轄だ、君はもう気にする事はない」

「分かっている。だから別件に手を付けようと思っている。当分休みだし」

「別件?」

「大したことではないがちょっと気になることがあってな。その前に薔薇園の掃除だ。寒くなる前に片付けてしまいたい」

「そうか、私も手伝おう。今休みだし」

「……パラレウス皇子はどうしてる?仕事か?」

「いや、なんか愚図ってるみたいだ」

「……?」






 魔法使いの塔では相変わらず魔法使いが困っていた。

「……あの…?パラレウス様?」

「………」

 お客様用控え部屋で皇子は座ってじっとしている。
部屋の隅には相変わらず無愛想な顔の一番隊騎士が立っている。
 ゾフィーは困って何度も騎士に目を向けるが彼は知らぬ顔で眉一つ動かさない。
 仕方がないのでゾフィーはさりげなく世間話を始める。

「ティア姫様、ご無事の御帰還で何よりです。そう言えばご一緒にロレイアのお客様をお連れしたとか。もうお会いになられましたか?どんな方です?」

「―――――――えええええと?」

 皇子が何故だか大袈裟にうろたえた。

「どうかなされましたか?」

「いやいや、何でもないよ、ご挨拶はまだ、行ってない。もう行かないといけないな、しかし何と言えばいいのか?」

「え、普通にいつものご挨拶でいいのでは…?」

「あ、そうか、そうだね、うん、……普通の挨拶って何だったかな…?」

「……皇子様?」

 おかしい。いや最近噂になるほどおかしかったがやはり何やら緊急事態だ。
 しかし何が緊急の事態なのかがゾフィーには分からない。
 何しろ皇子はここに来ても座っているだけで何をそんなに悩むのか口に出して言ってくれない。
 いくら魔法使いといえど言って貰わなければどうすることも出来ない。

「……あの、皇子様…?」

「―――――ゾフィー、居るの―?」

 外からティア姫の声が聞こえた。

「ティア様ですね、どうしたのでしょう?いつも勝手に入ってくるのに」

 ゾフィーが外に出ると、姫ともう一人いる。

「お客様ですか、姫様?」

「そうよ、ロレイアからのお客様。リリアナ=ギルイッド嬢よ」

「魔法使い様、はじめまして。リリアナと申します」

 小柄な令嬢が嬉しそうに挨拶した。

「私、魔法使いって初めてですわ。どんな魔法を使うのですか?とても興味ありますわ」

「…‥ああ、私はゾフィーと申します。魔法使いと言ってもそれほど不思議な事はしていないのですよ?ご期待に添えないと思いますが、おもに薬品の調合とか、お城の方々のお悩み相談とか、きわめて地味です」

「そうなのですか?」

「ですが長期の滞在中に何かお困りの際には何でもご相談ください。体調不良の場合でも簡単なお薬を調合しますよ?」

「わあ、有難うございます」

 小柄な赤毛の表情のくるくる変わる可愛らしい少女だ。年頃はティア姫と同じくらい。

「魔法使いと聞くと派手に思われがちですが実際の所は室内で大半を研究に費やす地味で暗いもので。期待はずれで申し訳ないです」

「いいえ、そんな事。ティア様がお持ちの魔法の道具もゾフィー様が造られたのでしょう?面白かったですわ」

「面白かったのですか…?」

 使用目的を考えるとそれほど面白い物を造った覚えはなかったが、要は使い方だろう。

「…まあお嬢様方が楽しめるような玩具の様なものもありますから。退屈されたらお見せしましょう」

「まあ、楽しみね」

「ところでいまパラレウス様が中に居られるのですが…‥?」

「お兄様ったらここにいたの。何しているの?」

「さあ?何でしょうかね…?」

「全く困ったお兄様!引きずり出してくるわ、待ってて」

 ティア姫は塔の中へ足早に入って行った。
 すぐに客部屋の方から怒鳴り声が聞こえたのでゾフィーは外へ出てドアを閉めた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

迎えに行ったら、すでに君は行方知れずになっていた

月山 歩
恋愛
孤児院で育った二人は彼が貴族の息子であることから、引き取られ離れ離れになる。好きだから、一緒に住むために準備を整え、迎えに行くと、少女はもういなくなっていた。事故に合い、行方知れずに。そして、時をかけて二人は再び巡り会う。

お前が欲しくて堪らない〜年下御曹司との政略結婚

ラヴ KAZU
恋愛
忌まわしい過去から抜けられず、恋愛に臆病になっているアラフォー葉村美鈴。 五歳の時の初恋相手との結婚を願っている若き御曹司戸倉慶。 ある日美鈴の父親の会社の借金を支払う代わりに美鈴との政略結婚を申し出た慶。 年下御曹司との政略結婚に幸せを感じることが出来ず、諦めていたが、信じられない慶の愛情に困惑する美鈴。 慶に惹かれる気持ちと過去のトラウマから男性を拒否してしまう身体。 二人の恋の行方は……

【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~

夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」 婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。 「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」 オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。 傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。 オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。 国は困ることになるだろう。 だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。 警告を無視して、オフェリアを国外追放した。 国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。 ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。 一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

契約結婚のススメ

文月 蓮
恋愛
 研究一筋に生きてきた魔導士のレティシアは、研究を続けるために父に命じられた結婚をしかたなく承諾する。相手は社交界の独身女性憧れの的であるヴィラール侯爵アロイス。だが、アロイスもまた結婚を望んでいなかったことを知り、契約結婚を提案する。互いの思惑が一致して始まった愛のない結婚だったが、王の婚約者の護衛任務を受けることになったレティシアとアロイスの距離は徐々に縮まってきて……。シリアスと見せかけて、コメディです。「ムーンライトノベルズ」にも投稿しています。

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...