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第二十三話 ティア姫の帰還
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しおりを挟むロレイアで夏を過ごし、マルスへ帰還するともう気候は秋半ば。
とうに薔薇は落ちて土の上にはその残骸が変色して敷き詰められている。
薔薇園の手入れは各場所の管理人や庭師に頼んでおいたのだがあまり行き届いていない。
今までずっとそれはルウドの仕事だったから仕方ないとは思う。
姫の護衛とはいえ、こんなに長期でここを離れる事などなかったのだ。
「ルウド、悪いなその、いろいろあって余り見ていられなくて」
「仕方ない、私もこんなに長くここを開けるとは思ってなかったから。ハリス、長い事済まなかった」
何しろティア姫の事、隣国へ行ってもすぐに帰ると言いだすに決まっていると思っていたのだ。
「姫様、ロレイアを楽しまれたのか?あの皇子様と進展があったとか?」
「いやそれはなかった、残念だが。別の目的があったから期間ぎりぎりの滞在となったんだ。二番隊はロレイアの騎士達と大いに友好を育んだが」
「へえ、ロレイアの騎士か。有名どころが続々いたろう?『撃戦の大騎士』とか『奇策名将』とか『瞬速鬼将』とか」
「沢山いたぞ、凄い人達が。剣技大会に参加して、そんなすごい人達と戦った。お陰で幾分二番隊のレベルは上がったと思うぞ?」
「へえ、羨ましいな。ロレイアか、私も一度行ってみたいな」
「……済まない、折角そんなすごい人達に出会ったのにサインの一つも貰って来なかった」
「いやいいよそれは。遊びに行った訳でもないんだし」
「姫の護衛で行ったんだが余り役に立った気がしないな。むしろ遊んでいた感が大きい」
「…まあいいじゃないか。姫は無事ここに戻ったし、皆楽しく過ごせたようだし、ロレイアともうまくいった様だし」
「ああ、あと気になるのはお客様の件だな」
「それは皇子の管轄だ、君はもう気にする事はない」
「分かっている。だから別件に手を付けようと思っている。当分休みだし」
「別件?」
「大したことではないがちょっと気になることがあってな。その前に薔薇園の掃除だ。寒くなる前に片付けてしまいたい」
「そうか、私も手伝おう。今休みだし」
「……パラレウス皇子はどうしてる?仕事か?」
「いや、なんか愚図ってるみたいだ」
「……?」
魔法使いの塔では相変わらず魔法使いが困っていた。
「……あの…?パラレウス様?」
「………」
お客様用控え部屋で皇子は座ってじっとしている。
部屋の隅には相変わらず無愛想な顔の一番隊騎士が立っている。
ゾフィーは困って何度も騎士に目を向けるが彼は知らぬ顔で眉一つ動かさない。
仕方がないのでゾフィーはさりげなく世間話を始める。
「ティア姫様、ご無事の御帰還で何よりです。そう言えばご一緒にロレイアのお客様をお連れしたとか。もうお会いになられましたか?どんな方です?」
「―――――――えええええと?」
皇子が何故だか大袈裟にうろたえた。
「どうかなされましたか?」
「いやいや、何でもないよ、ご挨拶はまだ、行ってない。もう行かないといけないな、しかし何と言えばいいのか?」
「え、普通にいつものご挨拶でいいのでは…?」
「あ、そうか、そうだね、うん、……普通の挨拶って何だったかな…?」
「……皇子様?」
おかしい。いや最近噂になるほどおかしかったがやはり何やら緊急事態だ。
しかし何が緊急の事態なのかがゾフィーには分からない。
何しろ皇子はここに来ても座っているだけで何をそんなに悩むのか口に出して言ってくれない。
いくら魔法使いといえど言って貰わなければどうすることも出来ない。
「……あの、皇子様…?」
「―――――ゾフィー、居るの―?」
外からティア姫の声が聞こえた。
「ティア様ですね、どうしたのでしょう?いつも勝手に入ってくるのに」
ゾフィーが外に出ると、姫ともう一人いる。
「お客様ですか、姫様?」
「そうよ、ロレイアからのお客様。リリアナ=ギルイッド嬢よ」
「魔法使い様、はじめまして。リリアナと申します」
小柄な令嬢が嬉しそうに挨拶した。
「私、魔法使いって初めてですわ。どんな魔法を使うのですか?とても興味ありますわ」
「…‥ああ、私はゾフィーと申します。魔法使いと言ってもそれほど不思議な事はしていないのですよ?ご期待に添えないと思いますが、おもに薬品の調合とか、お城の方々のお悩み相談とか、きわめて地味です」
「そうなのですか?」
「ですが長期の滞在中に何かお困りの際には何でもご相談ください。体調不良の場合でも簡単なお薬を調合しますよ?」
「わあ、有難うございます」
小柄な赤毛の表情のくるくる変わる可愛らしい少女だ。年頃はティア姫と同じくらい。
「魔法使いと聞くと派手に思われがちですが実際の所は室内で大半を研究に費やす地味で暗いもので。期待はずれで申し訳ないです」
「いいえ、そんな事。ティア様がお持ちの魔法の道具もゾフィー様が造られたのでしょう?面白かったですわ」
「面白かったのですか…?」
使用目的を考えるとそれほど面白い物を造った覚えはなかったが、要は使い方だろう。
「…まあお嬢様方が楽しめるような玩具の様なものもありますから。退屈されたらお見せしましょう」
「まあ、楽しみね」
「ところでいまパラレウス様が中に居られるのですが…‥?」
「お兄様ったらここにいたの。何しているの?」
「さあ?何でしょうかね…?」
「全く困ったお兄様!引きずり出してくるわ、待ってて」
ティア姫は塔の中へ足早に入って行った。
すぐに客部屋の方から怒鳴り声が聞こえたのでゾフィーは外へ出てドアを閉めた。
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