意地悪姫の反乱

相葉サトリ

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第二十四話 ルウド誘拐疑惑事件

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 ―――――疲れた…・。

 馬車から飛び降りてから長々と歩きつづけ、全く距離が縮まず疲れて休むことにした。
 木陰に座り遠くの空を見上げる。
 街は見えるのに未だに遠い。
 なぜ自分はこんな事になっているのだろう?
 ルウドはむなしくなった。こんな事なら馬車をとめるか盗賊を締めあげて馬でも取り上げるかすれば良かった。
 後の祭である。

「……」

 ルウドは仕方なく重い腰をあげる。その時人の足音が耳に入った。

「―――――あれ?」

 木々の間から人が現れた。何故通行路ではなく森から現れたのかが分からずにルウドは警戒する。
 見た所赤茶の髪のごく普通の青年に見える。

「どうかされたのですか?こんな山道で?」

 青年は臆面もなく近づいて来た。ルウドは密かに怯んだ。

「何かお困りでは?」

「―――――ああ、うん。困っています。その、街へ帰りたいのですが足がなくて…」

「ああ、馬も馬車もないから。この道は滅多に人も通りませんし」

「そうなのです。早く街に戻らないと大変なのですが」

「この山を歩いて越えようとすれば一昼夜かかりますよ。まず登って降らないとなりませんから」

「……そうですか」

「私は旅行者でロズと言います。この奥にある小屋に昨晩から泊っているのですが今食料調達に。お疲れのようですし小屋に来られませんか?」

「……いやしかし、急いで山を降りないと…」

「私の馬がありますがお急ぎならお貸ししてもいいですよ?その前に何か食べた方がいいのでは?」

「……そうですね…」

 ルウドは情けなさそうに答える。昨日から水一杯飲んでいない、空腹で腹がなっている。

「これでは山も越えられない。お言葉に甘えます。私はルウド=ランジール、王国騎士団のものです」

 ロズは微笑み頷いてルウドを森の中のぼろ小屋に案内する。
 小屋の隅で火を焚いて食事を作って出してくれた。

「…‥有難う、いやホントに有り難いです。天の助けだ」

「偶然ですよ?でもなぜ山に一人で?」

「気が付いたら馬車にのせられ運ばれていたのです。嫌お恥ずかしい」

「…それ誘拐では?」

「その真意を問う前に馬車から飛び降りましたので何も分かりません」

「飛び降り…。無茶しますね…・」

「かってに山を越えられては困りますから」

「……しかしここからならもう西の国境へ入った方が早いのですが。人のいる村へ行って馬を借りてはどうでしょう?」

「ロズさんはどこへ向かう所なのですか?」

「私はマルスへ入る途中で。ここ数カ月でこの山の周辺をうろうろして調べ事をしていたのですがそろそろ寒くもなりますし、冬はマルスに滞在予定で」

「どちらの出身ですか?」

「ずっと北の国です。もう随分帰っていませんが」

「そうなのですか…?」

 目的のある旅をする旅行者。そんな人たちを時々みかける。
 しかし故郷を長く離れてまで何かを捜す事は途方もない。

「何を捜しているのですか?私はマルスの住民なので何か力になれるなら喜んで力になります」

「有難う。でもその前にルウドさんが街に戻らなければ。誘拐騒ぎになりかねませんから」

「そうですね…。では村で馬を借りましょう。その方が近道になりそうだ」

「今から西へ下り馬を借りて山を越えてもマルスに辿り着くのは朝方になると思いますが」

「……二晩外泊くらい何とか言い訳も立つし、私は今休暇中なので何を咎められることもないです。大丈夫です、多分」

「そうですか、ではとりあえず西の村へ降りましょう」

 ロズは立ち上がり、旅支度を始める。
 よく考えてもみればルウドは別に悪い事をしているわけでもないし、休暇中にどこへ行こうが勝手である。
 なのになぜこんなに焦っているのか?
 それは他でもない、心配している城の方々の顔が浮かんできてしまうからである。









「ルウド、何しているの?」

 ふと見るとロヴェリナが佇んでいた。

「ロヴェリナ様、何か薄いですね?幽霊みたいだ」

「ティア姫と離れて魔法力が薄れているのよ。何呑気なこと言っているのよ、みんな心配しているわよ?」

「ああそうだ、すいません。まだ帰れないのです。明日には帰ると伝えて下さい。良かった、貴方が来てくれて」

「何が起こっているの?」

「…大丈夫です。私は見た通り元気ですし自力で何とかなりますから」

「そう?早く帰ってきてね?」

 ロヴェリナは笑い、解けるように消えた。
 ルウドは一息つく。
 とりあえずあちらに連絡が付いたのでルウドの無事は伝わった。






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