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第二十四話 ルウド誘拐疑惑事件
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しおりを挟む山を西に下ると山裾の丘ともいえる広い土地に小さな小屋がばらばらに点在していた。
村と言う程の集落でもない。
その丘を道なりに進んでいくと人がちらほらと見えてきた。
「ここは亡くなった国あとだからあまり発展していない。一応ロレイアに吸収されているからロレイアの貴族が土地を収めているけど元々何も無いところでね」
「しかしここの人たちだって生活があるでしょう?何をして生計を立てているのです?」
「まあ牛や馬の放牧とか、この土地さながらの仕事かな。特にいい馬はロレイアに売るといい値が付くから」
「街は?」
「街と呼べる集落もないな。これ以上の西は深い断崖の山が連なる。人はその先には進めない。あの山の先に何があるのかも知る術はない」
二人は草原の間に続く道を西へと進む。ひたすら断崖の山が見える方へと。
「馬は借りればいい。それでこの先、行き止まりにある無人の建物がある。そこに泊まらせて貰おう」
「そんな事をよく知っていますね?」
「実はここへ入ったのはそれが目的だったので。少し調べ物をしたいんだ」
「…ロズ、貴方は学者か何かで?」
「学者ではないな。うんでも、そのような事をしているのです」
「歴史学者のようなもので?」
「まあそんな感じかな」
夕暮れを眺めつつ二人で道を歩く途中、馬を放牧している家を見つけて交渉に向かう。
ルウドはお金がなかったが身分を明かすと村人は簡単に馬を貸してくれた。
ロズが謝礼金を建て替えてくれて馬を借り受ける事が出来た。
「有難うロズ。家に帰ったら必ず返しに来るから」
「少しのお金は気にしなくていいですよ」
「そんな訳には。馬も返さねばならないし」
「ふふ、真面目だなあ…」
「旅人に迷惑はかけられません、マルスに着いたらそれなりのお礼もさせていただきます」
「そうかい?じゃ有り難く受けさせて貰いますよ」
馬に乗ってひたすら道を西に進み、行き止まりの辿り着いた先には崖に埋まった建物の入口があった。
「…ここは元々こういう造りで?」
「いいえ、瓦礫に埋まったのです。ここには大きな石の城があったのです」
「ではここはもしや旧王家の?」
「五百年前のアルメディア公国の城跡ですね」
「アルメディア…」
遥か昔にロレイアに侵略された国。その書物はロレイアにあった。
「ロレイアが侵略の際にお城の宝はすべて回収したとか。もう随分昔の話ですし何も残ってはいないのでは?」
「いや、それは分からないよ?アルメディアの主は古代の魔法を使うとの噂だった。普通の者が分からない方法で隠している宝があるのかもしれない」
「お宝が目的なので?」
「私のお宝は情報。この城の何処かに手掛かりになる情報があれば嬉しい」
「なるほど…」
中は暗い。村人からついでに借りたランプを出して明かりをつけて中へと入る。
中は瓦礫には埋まってはいず、普通のお城の室内だが何百年も人の入った形跡もなく、土臭く寂れていた。
「ここには何も無いのは誰もが知っているし、まずここまで来る人などなかなかいないだろうから」
「瓦礫に埋まった城なんて余り入りたくはないでしょう」
「何百年もこのまま保っている丈夫な石の城だから潰れはしないだろうし、掘り起こせばまたお城として見える事が出来るだろうね」
「……そうですね」
確かに城の内観は大昔のまま保たれている。
入口近くの部屋に入るとそこは大広間の様な大きな部屋だった。
中には長テーブル、椅子がきちんと揃っている。
埃やカビに塗れてはいるが荒らされた跡はない。
「ここは客間かな?食堂かな?」
壁を照らすと絵が十枚ほど飾られていた。誰かの肖像画だ。
「肖像画?誰のかな。ここに飾られているのだからやはり王家ゆかりの者だろうね」
「…何故そう思うのです?そもそもここに王族がすんでいたと言う確証もないでしょう?」
「ここは王族の住んでいた城ですよ。位置的に間違いありません」
「あなたはここを調べに来たのですか。いまさら何があるのです?」
「歴史、と言うか足跡ですね。アルメディアには謎が多い。特にその歴史を紐解けば大昔、世界を終わらせた魔女との関わりある一族です。もしその一族の生き残りがいたら出会ってみたい」
「滅びた一族ですよ?ありえない話では?」
「あり得ないと断言できるだけの証拠はありません。だからこの世界にはまだ魔女が隠した宝を捜す者達がいる」
「……会ってどうするのですか?」
「望みをかなえて差し上げたい」
「……」
ロズが微笑む。
ルウドに彼の意図は良く分からない。
目の前の肖像画の埃を払うと綺麗な女性の絵が現れた。
年は二十歳前後、長い銀髪と青い瞳。新緑のドレスを着た人だ。
「銀髪はアルメディア王家の象徴。始祖がこんな色だったと聞く。まあ後継者がこの色だとは限らなかったけどね」
「美しい方ですね」
「うん、とても綺麗です。そしてとても強い一族であったはずです。彼らには何としても血族を残さねばならない理由があった」
「理由?」
「魔女の遺言です。子孫への永久的なメッセージ。この伝聞が恐らく血の存続を促す理由となっている。そうでなければ相続とも取れる遺言は残せない」
「しかし…‥?」
「アルメディア王家は何度も戦禍に巻き込まれ、何度も王族滅亡の危機に晒されています。
実際王国は何度も他国に侵略され国は壊滅されています。現在も然り。
しかし王家の血は滅びていません。どの時代にも必ず後から現れ、この地を取り戻そうとする。
血を残し、王家を存続させねばならない理由がここにあるからです。
今はまだ現れていないかの血縁者もいつかここを取り戻しに現れることでしょう」
「ロレイアからここを取り戻しに来ると……?」
「ここはアルメディア家のものですから」
「それだけの何かがここにあると?」
「あるはずです」
そうなのだろうか?しかし何も確たる証拠がない限り彼の推測でしかない。
「あなたはここに王族の手がかりを見つけにきたということですか?」
「ええ、勿論。この王族には謎が多い。とても細い糸を探ってかの者の血族を捜さねばならないのですが、糸が途中で切れてしまいました。だから原点であるここに戻ってきたのです」
「そうなのですか。大変ですね…」
何の為に彼がそこまでするのか?目的も良く分からない。
しかしもう無駄ではないのかと言えるほど彼の苦労は簡単ではなさそうだ。
時々そんな人がいる。そう言えばティア姫も同じだ。
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