意地悪姫の反乱

相葉サトリ

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第二十五話 姫の心と秋晴れの空

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 ミザリー姫は呆れられつつもお城の住民に迎え入れられた。

「お帰りなさいませ、姫様」

「……ただいま」

 ミザリー姫は何だか不服そうだ。
 ハリスは何だか不安になった。

「ミザリー様、ご家族皆様お待ちですよ?とても心配されていたのですから」

「……別に家出から戻ったわけじゃないわよ」

「そうは行っても長期間他家への滞在で連絡なしでは心配しますよ」

「……そうね、悪かったわ…」

「・・・・・・・」

 ミザリー姫が静かだ。ハリスは何だか不穏に感じた。

「……姫様、何か怒っておられますか…?」

「怒ってないわよ煩いわね。黙ってなさいよ」

「……申し訳ございません…」

 自室へ戻るべく進んでいる姫の後をハリスは黙って着いて行く。

 ―――難しい。ホントに分からない…。

 ハリスはこっそり息を吐く。
 分かりやすい上下の姫より、中の姫様の心中は一番分かりずらい。
 黙っていられると彼女の心中はさっぱり分からなかった。だからどう対応していいのかも分からなくて困る。
 
 部屋に戻ったミザリーは着替えて晩餐の席へ向かう。
 ハリスも護衛で付き従ったがミザリー姫はずっと無言だった。







「ただ今帰りましたわお父様、お母様。長い事ご心配を掛けてしまい申し訳ありませんでした」

「…‥ああ、いいのだよ。無事に帰ってきたのなら。どうだった?クロード邸は」

「とても楽しく有意義な時間を過ごさせていただきましたわ」

「…‥そうか、ではお礼の手紙を書いておこう」

 ようやく一家全員がそろった。
 しかし何だろう?ミザリーのテンションがやけに低い。
 一家は不気味に感じた。

「…ええと、ミザリーお姉さま、こちらお客様のリリアナよ。当分ここに滞在されるからよろしくね」

「…ああ、貴女が。よろしくね、リリアナさん」

「はい、お世話になります、よろしくお願いします」

「……?」

 なんだかミザリーらしくない薄い反応に一家は心配になった。

「……あの、ミザリー?本当に何も無かったのかい?」

「何もありませんよ残念ながら。お兄様が心配される様な事など一切ないのです。私、疲れたので早めに休ませていただきますわ」

「…あ、うん」

 心配そうな一家を置いてミザリーは早々に晩餐の席を立った。
 一体何があったのだろう?
 いつも煩いミザリーが静かだと晩餐の席が暗く沈んでしまう。



 





 部屋で独りになってから、ミザリーは溜息を落す。
 ベランダへ出て満天の星空を眺めてぼんやりする。
 部屋の外が騒がしいがそんな事を気にする気力もない。

「……‥」

「うわっ、待って‥ちょっとおおおおっ!グえ」

「うわあああっ、崩れたぞ!ハリスが下敷きに!」

「案外頼りない優男ねえ、しっかりしなさいよ」

「……」

 一人になりたいと言ったのに外が騒がしい。

「ひっ、姫様、ミザリー様……申し訳ありませんがドアを…」

「なんなのよ」

 ドアを開けると何かがなだれ込んできた。

「何よこれ…?」

 大量の書物、沢山の黒いぬいぐるみ、袋に詰められたお菓子にお茶にケーキ類。それらに押しつぶされたハリス。

「……」

「あ、お姉さま、どれでもお好きなモノを嗜んでください」

「ハリスはいらないわ」

「こんな男でも何かの慰めにはなるでしょう?早く元気になって下さい」

「仕方ないわね……」

 なだれ込んできた物をすべて部屋に引き入れてミザリーはドアを閉める。
 黒猿のぬいぐるみなどを手にとって溜息を落す。

「……子供に子供扱いされるなんて理不尽だわ」

「ミザリー様、お菓子一杯ありますよ?お茶入れますね」

「……」

 ハリスがにこやかにテーブルにお茶とお菓子をセットしている。

「夕食後にそんなに食べたら太るわよ」

「ははは、今更そんな事気にしても仕方ないですよ」

 優男はやはり一言余計だ。
 ミザリーは仕方なく椅子に座りお茶を飲む。
 暖かくて優しい香りがする。何のお茶だろう?

「ミザリー様、やはりクロード邸で何かあったので?」

「何も無いわよ」

「しかし…‥」

「何も無いからがっかりしたの。彼、基本研究者なのよ。何かに没頭している時は誰の介入も許さない。理解しようとしたけど、できなかったわ」

「研究者ですか…‥」

「うちにもいるけど何が楽しいのかさっぱり理解できないわ。折角遊びに行ったのに私だけカヤの外。詰まんなかったわ」

「……」

「ああ、どこかに私だけを見て愛してくれる私好みの王子様はいないのかしら」

「…王宮のパーティで真面目にお相手を捜したらいいのではないですか?」

「王宮のパーティって物見遊山の冷やかしが多くて真面目に捜す気にはなれないわ。みんな嘘っぽい」

「そんな事を言っては陛下や王妃様の立場がないじゃないですか」

「言わないわよ。それに私くらいは王家のパーティで相手を見つけた方がいいかとも思っているし」

「そうなのですか…‥」

「それよりも面白くないのはみんな好きなモノがあるのに私だけ何も持っていないってことよね。私にも何かないかしら?夢中になれるもの」

「ええと、そう言うのは結構身近にあると思いますが…」

「優男ははっきりしないわね。貴方はあるのハリス?」

「私は楽しい事は全て好きな事ですから」

「そんな感じよね。羨ましいわ」

 ミザリーは冷ややかにハリスを眺める。

「…旅にでも出ようかしら。皇子探しの旅」

「…‥御冗談を。お姫様はお城からでないものですよ?」

「普通はね。でも違うでしょ、ここ」

「………」

 家風にのっとりお姫様が相手を捜すと言うならそれもありかも知れない。
 だがそんな事をされては大変困るのは周囲の護衛達である。
 下手な事を言って本気で旅に出られては困るハリスは大変焦った。
 ミザリーは大きくため息を吐く。

「冗談よ。ティアじゃあるまいしそんな行動力ないわよ」

「……」

「もういいわよハリス。下がりなさい。私はもう休むわ。色々考えて疲れちゃったわ」

「はい、何の役にも立たずに申し訳ありません」

「いいわよそんなの。最初から充てにしてない」

「…‥」

 ハリスはすごすごと部屋を出て行った。

 いつも放置されるのに気を使われるのも煩わしい。
 ミザリーはやっと一人になれてほっと一息ついた。



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