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第二十六話 ルウドの選択
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しおりを挟む夕方、城へ戻り、食堂へ入る。
食堂には疎らに人がいた。
しばらく一人で食事をとっているとハリスがやってきた。
「やあルウド、今日も暇そうでいいな」
「まあ否定はできんが。休暇中だし」
二番隊の休暇中、故郷へ帰る者や何処かへ出かける者もいた。
しかしとくに出かける所もないルウドは宿舎の部屋に籠るか街をうろつくくらいしかやることもない。
「剣の訓練は毎朝日課でやっているし。調べ物も空いた時間でやっているし。
……仕事がないと何か張り合いがないな…」
「せっかくの休みを楽しめないなんて。恋人とか居たらきっと楽しいだろうに。
そうだルウド、今からでも遅くない、恋人作って外へ羽ばたけ!」
「短期間でそこまでできない」
「そうか。それなら次の休みの為に今から恋人作りに励むといいぞ?」
「恋人作りか……。姫が大人しい今のうちならありかもな」
「そうだぞ?ばれないように気をつけろよ。…そういえば姫の事だが…、最近妙な噂がある」
「なんだ?」
「夜な夜な男の部屋に通っているとか?見た連中がひそひそ話してた」
「……そんな馬鹿な?ティア様に限ってそんなことあるわけない。不敬罪が過ぎるぞ?滅多な事を言うなと言っていた奴に忠告すべきだ」
「それはもう私が忠言したが。しかし…‥?」
ハリスが不安そうにルウドを眺める。ルウドは厭そうにその視線を受ける。
「………なんだ?姫がどこの男の所に通っているって?そんな不快な話、聞きたいわけがないだろう?」
「……ルウド、そうじゃなくて。そもそも姫が通うとしたら行先は一つしか思い当たらない。まさか君に限って、とは思うけど……ねえ?」
「……疑われているのは私か…」
「我慢できなかったとか、状況的にあるし。それはそれで仕方がない所もあるし」
「私は無実だ。断じて手を出してはいないぞ?」
「そうか。だけどその状況は君には辛いだろう?よければ女性を紹介するが?」
「大丈夫だから…」
ルウドは憮然とする。姫の代わりの女性など、それは女性に失礼だ。
しかしそんな噂は深刻だ。姫にも自分にもよくない。
覚悟を決めて、早急に対処せねばならない。
魔女ロヴェリナは故郷を離れ、沢山の旅をしました。。
ロードリィ、エルガルド、グール、リイド。
そして長く彷徨い行きついた先で伴侶をみつけ共に生きることを望みます。
行きついた国はアルメディア。伴侶の名はルーベルト。
王さまである彼はロヴェリナに魔女ではなく王妃としての幸せを望みました。
賢者と呼ばれた彼女は王の苦悩を取り除き、平穏と安らぎを与えるために尽力しました。
しかし王と国の苦悩は長く、深く、重く、ロヴェリナ一人の力では簡単に取り除けるものではありません。
ロヴェリナは国と王を救うべく魔女の力を使う事を提案しました。
王は未来の為に命を掛けてそれを為す事を決断しました。
十数年の時を掛けて、その計画を温め、遂行しました。
そしてその国からは苦悩の元は全て消えさり、残ったのはただ一人の皇子。
国を救った英雄王と祭り上げられた彼は失意のままに寿命を全うし、ただ一族の者達に魔女の望みを伝え続けました。
――――たとえ国が滅びても、潰えてはならないものがある。
それは王と魔女が命を掛けて護ったものだ。
部屋のドアが開く音がする。そして誰かが入ってきた。
―――――またか…。
ルウドはげんなりした。
なぜこうも諦めが悪いのだろう?
この狭いルウドの部屋など隅々まで捜したところでたかが知れている。二晩も続けて捜せばもう捜すところなどないはずなのに隠し部屋でもあると思っているのだろうか?
騎士宿舎にそんなものがあるはずがない。
侵入者の様子を見るためルウドは寝たふりをした。
今日も周囲の荷物などに辺りを付けるかと思いきや、侵入者はルウドの傍に寄ってきた。
そして何やらルウドが眠る寝台を調べているようだ。
騎士の寝台など板敷の簡素なものでそんな面倒な造りにはなっていない。隠し物など出来る隙間はない。
ルウドは厭そうに寝がえりを打つ。
侵入者に背をむけたのに、その侵入者は何故だかルウドに近づいてくる。
「……」
ぺたぺたと身体に触り出した。何のつもりだろうか?
「……!」
くすぐったくてそろそろ限界が来たルウドは侵入者を捕まえた。
「――――――キャッ‥?」
「いい加減にして下さい」
寝台に張り付けて上に覆いかぶさる。
「何をしているのですか貴方は?男の部屋に来て」
「え、ええと…、ルウド、あのね…?」
「夜這いですか?それが姫様のする事ですか?はしたない」
侵入者のティア姫は焦ったように視線をさまよわせる。
「そそそそそ、そんなつもりは。あの、ちょっと捜し物を…」
「私の荷物にありますか?あなたの捜し物が?」
「…‥見つからないわ」
「あるはずがない。男の部屋に忍び込むようなまねをして、見つかったらどうなるか分かっているのですか?」
「……どうなるって言うのよ…?」
「お仕置きです、どうして差し上げましょうか?」
冷酷な笑みを見せるルウドにティア姫が怯む。
「ルウド…あの、私の本…」
「あの本の事ならもう忘れなさい。あれはあなたが持つべきものではないでしょう?」
「私が最初に見つけた、私の本よ?」
「違います。そもそもあなたが持つべきものではなかった」
「何でそんなこと言うの?私は真実が知りたいのよ」
「その真実もあなたとは無関係の出来事でしょう?」
「無関係ならどうしてそんなに反対するのよ?」
「危険なものだからと言ったはずですが」
「ルウドがどうしてそんな事分かるのよ?」
「魔女の本なんて危険に決まってるでしょう?誰だって明らかに分かりますよ?」
ルウドはティア姫の耳元に口を寄せる。
「…‥ルウド、重いわ。あの、お仕置きはいいけどそしたら記述書返して貰えないかしら?」
「そんな取引がありますか。記述書はもう諦めなさい」
「嫌よ、あれだけは…あれがないと眠れないわ…」
「では大人しく眠れるようにして差し上げましょうか?」
ルウドが姫の耳にキスを落すと姫はびくりと震える。
「ルウド…‥お仕置きって…‥何するの?私、ルウドならどんな恥ずかしい事でも我慢するけど…‥でも…‥」
おどおどと不安げな目を向ける姫を見て、ルウドは悩ましげな溜息を一つ吐く。
「―――――全く愛しい人だ、貴女は」
「え…‥?」
ルウドはティア姫をそっと抱きしめる。
密着した身体が暖かくて柔らかくて優しくて、泣きたくなる。
「―――――ティア様……」
「……ルウド…」
ルウドはそっと姫の額に口づける。
「…‥私の可愛い姫様。私を信じるのは勝手ですがしかし、知っていますか?男は別に愛していなくても女性を抱けるのですよ?」
「……‥…!」
ルウドはティア姫をきつく抱き寄せ、姫の首元に吸いついた。
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