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第二十七話 ロズの訪問
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しおりを挟む彼は大切な宝を落してしまった。
それはもう、二十八年以上も前の事。
「お父様、私はお城を見てみたいわ」
彼女はずっと屋敷にいた。表沙汰にするべきものではなかった。
もし誰かに見られれば殺されてしまう。そんな存在だった。
それでも彼女の幸せを望んでいた。
「魔女のお城ってどんなのかしら?とても気になるわ」
あれは大昔、彼女の血族が生まれた地とされる国。
「……行ってみるか?あそこなら君を守り、幸せに生きる事の出来る場所が見つかるかもしれない」
マルスの若い皇子はただいま嫁探しの真っ最中だ。彼に気に入られれば彼女は王妃として命を脅かされることもなく生きていける。
正直彼女の器量なら見染められるに違いないと想定していた。
だが―――――。
『ごめんなさい、私は彼と旅立ちます』
彼女が安全に生きて行く場所など限られている。
彼女を守れるものが王国の皇子以外にいるはずがない。
彼は必死で彼女を捜した。悪しきものに見つかる前に、殺されてしまう前に。
しかし彼女は見つからず、十年経つ頃には絶望していた。
――――――もう終わった、あの一族の血は途絶えた。
細い細い糸を繋いできた魔女の血族。
その後十年、伯爵はとある噂を耳にする。
【マルス国の銀の騎士】
噂自体はロクでもないものだったが伯爵はその騎士の事が気になった。
その姿を見て、一筋の希望を見出した。
マルスのお城にロズがやってきた。
「よく来たな、お城を案内するよ。まあロレイアほど広くはないけど」
「ふふ、ルウド、遊びに来たんじゃなくて、調べものをしに来たんだよ?図書館案内してよ?」
「ああいいよ。そんなに大きな書庫ではないけどだれでも閲覧できる本がある。それ以外は、王族の各部屋に当人方のお好みで並んでいる書庫がある」
「王族の方々が集めている本は閲覧不可能そうだね」
「姫に頼めば見られる可能性もあるが…」
「姫って何番目の?三番目かい?」
「ティア姫だ…‥…が」
「どうかした?」
「……いや…」
ルウドは昨晩の自分の所業を思い出した。とても頼みごとを出来るような状況ではない。
謝罪とか、言い訳とか、考えておくべきだ。
とりあえず二人で書庫へ向かった。
書庫はそれほど大きくない。客部屋程度の広さの部屋に本が積まれているだけだ。
「……歴史の長い国の割には書籍が少なくない?」
「それはそう思う。ロレイアだって大きな書庫が何部屋もあった。たぶん書庫はいくつにも分かれていると思う。王族が見るもの、大臣が見るもの、騎士が見るもの、誰もが目を通せるもの、そんな感じに」
「ただの旅人では簡単に目を通せないものもあるわけだ」
「そうだが。まず簡単にみれる所から捜そう。何を捜せばいい」
「過去の来客記録ってみれるかな?」
「あると思うぞ。それは皆が目を通す物だ」
「二十八年前のもの」
「二十八?ここには百年分はあるはずだからそれくらいはあるが…」
整理が行き届いているので記録はすぐに見つかった。
「何を見るんだ?そんな昔の記録…」
「伯爵に頼まれていたんだ。事情があって彼ではここまで来ることが出来なくてね。
二十八年前、伯爵はここに来たんだ。ある女性を伴ってね」
「ふうん…」
ルウドは興味なさげに他の書籍を捜し出す。
「その女性がここで消えたんだ。けして公には出来なかったけどね。
伯爵は未だにずっと探し続けているんだ…」
「…へえ…………」
ルウドの手が止まる。
消えた女性。それは穏やかな話じゃない。
「……あの、良く分からないが、どうして消えたんだ?」
心配そうにロズを見ると彼は笑う。
「駆け落ちだよ。突然消えたとかじゃなく、当人が意思を持って消えたんだよ。
その後行方が知れないから伯爵は心配なんだ」
「そうか、それは心配だな…」
「で、駆け落ちの相手を突き止めたいのだが全く手掛かりがない。この国の王は非協力的でね。絶対何か知っているはずなのにね」
「……そうなのか…?」
「それで当時、皇子のパーティに出席していた年頃の貴族を割り出して調べるんだよ。名前さえ分かれば調べるのは簡単だから」
「簡単なのか?」
「ああみえて他国にも名の通った御方だからね」
「へえ…‥」
何か色々不可解さが残るが、何か事情があるのだろう。
ルウドは余り突っ込まない事にした。
「…‥女性の名はローディリア=オーレイ伯爵令嬢。隣国の大臣の御息女だそうだ」
「…‥ふうん」
「伯爵が言うには皇子も一目で見染める器量だったのに、何故か見知らぬ男に攫われてしまったと。この国の王は守ってもくれなかったと愚痴っていたよ?」
「へ、へえ……?」
ルウドは何だか居たたまれなくなり、本を捜すのをやめた。
ロズは記録を書き写す。
「そ、それで相手の男が見つかったら伯爵はどうするつもりなんだ?」
「さあ?そこまでは聞いていないけど。一言の挨拶もなく勝手に攫って行った男だからね、そりゃ許さないだろう?」
「………」
ロズの仕事が終わるのを見計らってルウドは外へ出ようと彼を誘う。
「同僚を紹介しよう。あと魔術師の塔へ行ってみないか?あそこには魔術関連の本があるし、魔術師がいる」
「へえ、魔術師がいるのか?面白い」
二人は書庫を出て魔術師の塔へ向かう。
塔には魔術師だけでなく魔女もいた。
「あれルウド隊長?どうされました?入口で?」
「……あの、友人の旅人を案内してきました」
「そうですか。では客室にどうぞ。ルウドさん?」
「ルウド?どこ行くんだい?」
「済まない、所用を思い出した」
「何を言っているんだい?ここまで来て。今日は僕に付き合ってくれる約束だろう?」
「…‥そう、だったか…」
まだ姫に会う心の準備が出来ていない。
そんなルウドの内心の焦りも知らずロズとゾフィーがルウドを引っ張り客部屋へと入る。
「あれ?可愛らしいお客様が?」
「第三王女ティア様ですよ。ティア様、ルウドさんの友人の旅人のロズさんです」
テーブルで本を読んでいた姫は二人に目を向ける。
「…どうも…」
「あなたがティア姫様ですか?お話はよくうかがっています」
「…そう…?」
ティア姫はロズの後ろのルウドをじっと見る。
「…‥ルウド……」
「…‥ひっ、姫…」
「……?」
姫とルウドの間に流れる妙な緊張感と冷ややかな空気に巻き込まれたロズは訳もなくたじろいだ。
「えっ?…‥な、何かな…?」
「……ルウド、昨晩の事、どう言い訳をしてくれるのかしら?夢とか妄想とか、そんな言い訳はもう通用しないわよね?」
「………!」
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