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第二十七話 ロズの訪問
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しおりを挟む美しい銀色の髪と青色の目を持つ貴婦人は同じ色を持つ息子に向けて優しく微笑み、毎夜物語を聞かせる。
暖かくて冷たい、優しくて哀しい真実の物語を。
【一人ぼっちになってしまった勇者は国を守った英雄と言われ、長く称えられます。
王と魔女の剣を受け継いでしまった時、そこからが彼の長い旅の始まりとなったのです】
勇者が英雄王となった時、国にはあるはずの物がひとつ残らず消え去っていました。
戦の道具とする為にそれを欲し続けた他国の王達はそれがないと言っても信じはしません。王を恐喝し、どんな事をしてもそれを得ようと企みます。
しかしないものはないと王は答えるしかありません。
そこに確かに有ったものがないと、そんな事が信じられる訳がない他国の王達はとうとう戦を仕掛ける準備を始めました。
英雄王の国を侵略し、全てを調べ上げる事にしたのです。
戦の材料がない国に交易の価値もないだろうと、石が消えた時すでに分かっていた王は国を捨てる決断をしていました。
侵略し、調べつくして無いと結論付けられなければどの国も諦める事をしない。
王は一族と突き従う貴族や護衛達と共に国を捨てました。
彼らが行きついた場所はひたすら南下した先の森奥にある城。
樹海の中にあると言われるその城は簡単に行きつくことが出来ない、魔女が呪いを掛けた城と言われていました。
それを知っているのはその呪いを掛けた魔女の一族と身内だけ。
魔女からそれを聞いた魔女の血を引く王はその樹海の城に行き着くことが出来ました。
王はそこに暮らし、国を造り、一族と国の者達に伝え続けました。
【たとえ国が滅びても、けして無くしてはならないものがある。
大切な国と王家の未来の為に、命を掛けて魔の楔を断ち切った王と魔女の祈りをけして忘れてはいけない。二度と同じ過ちを繰り返す事のない様に、伝え続けねばならない】
イルディット公国と呼ばれたその地で英雄王はその生涯を終えます。
しかし王の一族は長くその地に留まる事もなく、百年待たずに他国人に見つかり侵略されてしまいます。国は再び破綻し、王の一族は潰えました。
――――それでも、けして忘れないで
【鍵を持つ者よ。これはあなたの使命であり、未来であり、過去から紡ぐ祈りであるのだ。
嘘を知り、真実を見、動き出す世界の律を知り、正しく選び、どうか良い方向へ導いてくれるよう願っている】
ルウドは朝からぼんやりと森の湖にいた。
幽霊が出るという森だが朝から幽霊は出ない。
呼んだら出るかもしれないが迷惑そうなのでわざわざ呼びはしない。
ルウドは湖に釣り糸を垂らしぼんやりと考え事をする。
呪い云々に関わらず、この森は涼しくて気持ちがいい。何だか目も覚めるし。
「……ルウド…」
「……」
現れたのは幽霊ではなく終末の魔女。
世界の終わりと始まりを創った偉大なる魔女。
「ロヴェリナ様」
「ルウド、一人で悩んでないでちゃんと話して」
「あなたは答えを知っていても教えて下さらないでしょう?」
「そうね…、でも聞くだけなら出来るわよ?」
「過去、現在、未来と色々ありますが」
「過去?済んだ事で悩んでも仕方ないわよ?
現在?…また姫様と何かあったのね?青春の悩みね?
未来?この先の悩みなんて…選ぶのはあなただし」
「そんなあなたに何を話せと?どうせ暇つぶしの娯楽にしかならないし」
「まあ、そんな事ないわよ?おほほほほ」
「…‥そもそもあなたのせいですよ?【ロヴェリナの記述書】あれが原因なのですから」
「ええ?何をしたのよ?」
「記述書捜しに躍起になって姫がとうとう私の部屋に捜しに」
「まあ、大変」
「捕まえてもまだ諦めずに可愛らしくせがむから、我慢できずにあとで言い訳できない様な事をつい…」
「……もう覚悟を決めて貰っちゃえばいいのに」
「そういう訳には行きません。少し頭を冷やす為にも姫から離れた方がいいのかと」
「姫様納得しないわよ?」
「私が我慢できません。このままではうちの父と同じ末路に。姫様を奪って逃げるなんて…」
「ええと、お父様のした事を気に病んでも仕方ないわ。大体そうしないとあなた生まれてきてないし」
「その父の所業の後始末も私に課せられるわけです。私、父の代わりに殴られるべきでしょうか?」
「ええ?相手のお怒りの理由によるけど。貴方に罪はないし」
「そうは言っても知らぬ顔という訳には…」
「そうね、正直に話した方がいいわね」
「‥‥母の事、知っている人に会えたのは嬉しいです。私何も知らなかったし」
「ルウドと同じ髪と目のお母様?」
「…それがどんな素性であれ、知る権利はあるでしょう?ロヴェリナ様」
「そうね。止める権利はないわ」
「……ロヴェリナ様」
「なあに?」
「心配して下さり有難うございます。姫の傍に着く魔女と言いながらずっと私の傍についていてくれた。ずっと見守ってくれたのですね」
「私は見守ることしかできないのよ。たとえこの先、貴方に何が起こるのかを知っていたとしても」
「十分心強かったのです」
「ルウド、貴方はどこまで知ったの?」
「今まで見聞きしたことしか知りませんよ?」
「捜しに行くの?」
「さあ?どうしましょうか…」
ぼんやり呟くと魔女は心配そうにルウドを見つめ、溶けるように消えた。
終末の魔女を困らせてしまった。
だけど正直、現状どうしていいのか分からない。
ルウドはぼんやり湖を眺めながら考えを纏める。
とりあえず、オーレイ伯爵には正直に話すべきだ。
そうでなければ彼はこのまま何も知らずに心痛を抱えたまま生涯を終えてしまう。
「―――ルウド、また来たのか…」
「クラディウス殿、お邪魔してすいません」
黒髪緑眼の騎士が厳しい視線をルウドに投げる。
「邪魔だ。とっとと出て行け。お前には相談すべき相手が沢山いるはずだろう?お前を心配する者達が沢山いるのだろう?なのになぜいつもいつもこんなところで一人で悩んで考えているのだ?相談相手と言えばあのような人ならざるものばかり」
「それは、私ごとなので。友人知人に背負わせるような話でもないですし」
「しかし一人で何となる話なのか?」
「今の所は…何か意味心ですね?」
「お前の事など私の知るところではない。去れ」
騎士は冷たく吐き捨て消えた。
ルウドはしぶしぶ腰をあげる。
何を悩んだところで結局先に進むしかない。
例えこの先を行くことで運命が変わってしまう事になろうとも。
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