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第二十八話 魔法の鍵の物語
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しおりを挟む小さな村だった。納屋のような小さな家が五、六軒建っているだけで人も少ない。
家の周りには小さな畑が幾つかあるだけだ。
そんな状況でどうやって生活しているのかと思いつつ、村の小道を進んで最奥の小さな小屋に行き着く。
中に入ると何も無かった。というか何十年も誰も使っていなかった割には綺麗なものだった。
時々村の人が掃除をしてくれていたのかもしれない。
入って目に入るのは古びたテーブルと椅子。台所らしい水場と窯は外にあった。
部屋の奥にドアが二つ。一つは寝台が並んでいる寝床でもうひとつは物置らしい。
物置は誰にも触られずにそのまま埃を被っている感じだ。
ルウドは物置の棚から箱を三つほど取って外へ出て埃を払う。それから箱を部屋のテーブルに置き中を調べる。
箱はルウドの手にとれる程度の大きさの、大して重さもないものだ。中を見たとてたいしたものは入っていなかった。
棚の下段にある大きな箱は衣装箱だろう。三人分ある。
ルウドは衣装箱を開ける。
一つは幼いころのルウドの古着、赤子のものまである。
もう一つは父のもの。なんだか農夫の襤褸着のようだ。
そしてもう一つは母のもの。古いドレスとか、古着がある。そしてドレスの下から分厚く古い本が出てきた。
「・・・・・・」
ルウドは箱から本を取り出す。
本は分厚くて重い。中の紙は古くてすぐに千切れてしまいそうだ。
ルウドは椅子に座り、本を捲る。
『君は世界でただ一人の鍵を持つ一族。何が何でも生き延びて次の世代に鍵を引き継がせる責務がある。鍵を持つ者よ、けして滅ぶことは許されない』
何度も追われ、何度も滅びかけ、連綿と過去に縛られる呪われた一族。
なぜ滅んではならない?何故縛られ続ける?
『鍵を持つ者よ。己の道を知り、自ら道を選び、世界を正しく導け。それが君の生きるための責務である』
分からない。責務。なぜそれが必要なのか?
世界?そんな大層な人間じゃない。
『君は一人ではない。君を待つ者達が居る。彼らの為に、彼らを導く為に、立ち上がって欲しい』
ルウドはページを捲る。ページをめくるごとに彼らの言葉が少しずつ変わっていく。
『鍵を持つ者よ。君はただ一人の鍵を持つ者。しかしけして特別ではない。それ以外はただの何も持たない人間だ。鍵を持つ、ただそれのみの為に人生を誤ってはいけない』
『鍵を持つ者。それは世界にはもはや必要ない。君は君の道を選び、幸せを選び、人生を選ぶべきだ。世界の為の犠牲は必要ない』
『鍵などいらない。古き過去に何時までも縛られるべきではない。この歴史の中でどれだけの一族が縛られ、苦しみ、犠牲になってきたことか。そんな物の為に幾度も自らの命を犠牲にしてきた、彼らにも許しを、そして解放を』
『鍵を持つ者よ。誰もそれに縛られる必要はない。己の為に己の人生を選べ。そしてそれに縛られ続ける者達にどうか、救いと解放を与えてほしい』
『何も知る必要はない。あなたはただの人間。過去は関係ない。貴方は貴方の人生を選んで。大切な人達を守ってあげて』
最後のページの最後の行。この字は母のものだ。
ルウドは本を閉じる。
この本の中にどれだけ彼らの苦悩と後悔が記されているのだろう。
もう子孫に同じ思いはさせたくないと彼らはこれを残した。
母は、どんな思いでルウドを育てていたのだろう。
しかしそれを知ったとて今のルウドが変わる事は何も無いのだが。
「何か見つかったか?」
家を出て村に戻るとギルがいた。
村には余り人を見かけない。遠くに畑を耕している農夫が見えるくらいだ。
「この村の連中は大半が出稼ぎだ。子供はいないし、老人は施設行き。たまに帰ってくるが普段はこんな物だ」
「君は?」
「村の番人、村長だ。いなくてどうする」
「・・・そうですね」
しかしまだ若い彼にはこの村は寂し過ぎる。
「・・・・私もここに昔居たのですね。全く覚えていないのですが」
「五つくらいまでは居たはずだが?全く記憶にないのか?」
「ええ全く」
「そうか・・・・、それで何かあったのか?」
「ありました。まあ日記のようなものが。これは持って帰ります」
「そうか、それであんたの家だが・・・・」
「とくに残す理由もないですし、処分して下さって結構です」
「いや残しておく。あんたが生きている間はな。必要な時があるかも知れない。まあここに家がある事、覚えておいてくれ」
「…有難うございます」
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