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第二十九話 魔女ロヴェリナの遺産
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しおりを挟む【ルノアール=レノスの日誌】
『わが愛しき子供達よ、最愛の者を救う最強の術をここに残す。
嘘を知り、真実を見、動き出す世界の律を図り、どうか良い方向へ導いてくれるよう』
彼はその研究に生涯を捧げていた。
私の知らぬ世界のどこかで運命の書に出会い、その主の真意と真実を捜し続けていた。
彼は世界を旅し続け、研究をして、主の足跡を追い、そしてとある国へ行きついた。
それが運命なのか、彼が追い求め続けた結果なのかは分からない。
だがその国こそが彼の運命であり、命をかけるべき場所だった。
彼は命がけで宝を守り、そこで消えた。
他国兵や考古学者、歴史学者や魔法使い、誰がどれだけ城内を捜しても彼の片鱗となるモノは何一つ出てこなかった。
だが私は知っている。
彼はきっと真実を見たのだろう。そして彼女の真意を知り、自らのすべき事を知ったに違いない。
彼は満足して自分の人生に幕を下ろしたのだ。
そして、私にもまだすべき事がある。
王族が大国に捕えられ、そして幽閉された。彼らが生き残る可能性は低い。
かの王の血族を絶やさぬ事があの国の民であった私の重要な使命なのだ。
いずれかの者と出会うであろう鍵を持つ者へ。
どうか救ってほしい。
我知らず、過去に縛られ続ける哀れな一族に、真実と魔女の願いを知り得る事を。
ルウドが村長宅に戻った時点でとうに日が暮れていたのでその日は泊まり、翌日早朝に街へ帰ることにした。
日帰りの予定が二泊にもなってしまったので伯爵が心配しているだろうと気になったのだ。
村長が名残惜しそうにしていたがルウドは声のかけようもなかった。
お世話になったお礼と挨拶だけして早々に村人たちとは別れた。
昨晩戻ってきたルウドに彼らはお城の宝のことを聞いてきたがどうとも言えなかった。
「宝など…何もありませんでした‥‥」
実際宝物などなかったのだからそういうしかない。
彼らは信じてはいなさそうだったがそれ以上何も問わないでいてくれた。
一体どういうつもりなのかと聞いてみようかとも思ったが何だか怖くて聞けなかった。
―――まあ別に彼らとこの先関わるわけでもないし…
あっさり開き直って切り替えた。
お昼過ぎくらいにオーレイ伯爵邸に着くと伯爵が待ち構えていた。
「遅くなって申し訳ございません」
「良かった、何かあったのかと心配したぞ。何かあったのか?」
「いえ、なにも。探し物に夢中になってしまって」
「おおそうか、まあいいさ。ところで昼食はまだだろう?いますぐ用意させる」
「ええ、そんな、申し訳ない・・」
「何、わしも一緒だ。つきあってくれ」
「はい」
ロズとオーレイ伯爵と一緒に食事の席に着いた。
食事の部屋はやたら広い。しかしテーブルは六人掛けくらいだ。
「もう何年も私一人でな。このテーブルでも大きいくらいなのだよ」
「それはお寂しいでしょう」
「もうすっかり慣れてしまったがね」
給仕が食事を次々運んできた。
伯爵用の食事は少なめだったがルウドとロズにはやたら大きく豪勢なものばかりが出された。
「・・・・・あのう、伯爵、こんなに・・・」
「遠慮することはない、早朝から山道を馬でかけて戻ってきたのだろう?お腹も相当減っているはずだ。若くて元気な君たちのことだ、足りなければもっと頼んで構わんぞ」
「ありがとうございます・・・」
「うちの料理人は年寄りから女子供まで栄養面でもしっかり管理できるプロだからな」
「へえ素晴らしい。とてもおいしいです」
ルウドとロズはソースが絶品な肉料理から野菜スープまで計十六品すべて平らげた。
「ふふふ、若い人は食べっぷりがよくて見ているほうも気持ちがいい。お気に召してくれてうれしいよ」
「何か良くしていただいてばかりで申し訳なさでいっぱいですが」
「気にすることはないよ、それで探し物は見つかったかね?」
「いいえ。私の母の日誌ほどの物は見つかりませんでした。ですがまあ探したいのはそういうものじゃないですし、私はもう十分だと思います」
「そうなのか?君がそれでいいのなら私が言うことでもないが」
「はい。それにもうすぐ休暇が終わりますから城へ戻らねばなりませんし」
「もうそんなになるのか、早いな」
「そうですね。始まった時は長いと思ったんですがあっという間でした。やはり目的があると短いものですね」
ルウドがにこやかに言うのでロズがふっと微笑む。
「ルウド、仕事が始まるのがうれしいの?ふつう逆だよね?」
「休みといっても私はあまりやることがないんだ。お城で働いていたほうが楽しい」
「それはいい事なの?恋人やお嫁さんがいたら家にいるのもいいと思えるよ」
「今いないのだからそれでいいだろう」
「もしくは職場にいい人がいるからかもね」
「・・・・・・・」
「きっと君の帰りを待ち構えているだろうね。そう思うと今までルウドを独占していた僕は申し訳ない事をしてしまったな」
「休みに何をしようが私の勝手だ」
「まあそうだよね」
「なるほど、やはり城内にお相手がいるのだね。どのような女性なのかきいてもいいかな?」
「伯爵・・・・違います、誤解です」
「誤解ではないでしょう?お姫様ですよ、第三王女様」
「なんと。しかしそれは難しいのでは?」
「難しいというかありえませんから」
「でもルウドの片思いというわけでもなさそうですよ?」
「なんと!しかしそれでも難しいだろう」
「仕事でなければお見えする相手でもないのですよ、本来なら。ただ私はお城で皇子や姫様たちと共に育ってきたので」
「なるほど、では君に必要なのは身分ということか」
「・・・いえ本当に勘弁してください。姫様の嫁ぎ先が決まれば私も自分に合った相手を探しますよ?」
「・・・・・それでいいの?」
「・・・・むうう、それでいいのか?」
「いいですよ」
「しかしルウド、もし爵位が必要というなら私が手を貸そう。私の養子に入ってくれれば姫様にふさわしい身分になれる」
「そんな、とんでもない。私などには身に余りすぎるお話です」
「私は君になにかをしたいのだ。娘に何もできなかった分も。せっかく身内と呼べるものが見つかったのだから」
「ありがとうございます、考えてみますね」
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